2016年 07月 26日
読書メモ:オルハン・パムクをまとめ読み
トルコのオルハン・パムク、『僕の違和感』(上・下)『黒い本』『新しい人生』と、近作を中心にまとめ読み。これで彼の邦訳小説はひと通り読み終えた(『父のトランク ノーベル文学賞受賞講演』は未読)。
今年3月に邦訳の出た『僕の違和感』(2014)は『無垢の博物館』(2008)に続く純愛小説?で、『無垢の博物館』と同じように上下2冊の長編ながら割とサクサク読める。本当に好きだった人と結婚できないドジ男は『思い出にかわるまで』(古い!)なんかも連想させたりして。『わたしの名は紅(あか)』『雪』『イスタンブール 思い出とこの町』の3作に圧倒されて読み始めたパムクだけれど、最近の2作からは(村上春樹やカズオ・イシグロと同様?)もうピークを過ぎたのかな、といった印象を受ける。それでも、『雪』や『イスタンブール』に通じる「ヒュズン」(憂愁)がたっぷり満ちていて、見たことのないイスタンブールの古い情景が浮かんできたり、登場人物たちの心持ちが伝わってきたりしていい。
続いて読んだのは、同じく3月に遂に邦訳なった『黒い本』(1990)。最高傑作らしい?が、これは手強い。現代のトルコ/イスタンブールを成らしめている歴史や宗教に関する知識・情報を膨大に詰め込み、そこに照らし込みながら話が進んでいくので、異邦人にとってはハードルが高い作品だ。それでもミステリーのようなストーリーが面白く、その本筋と交互して挟まる掌編もクオリティー高くて読みごたえたっぷり。この作品はいつか読み返したいな。
そして『新しい人生』(1994)。2010年に日本語版が出た時に買ったものの、冒頭だけ読んでそのままにしていた。今回やっと再挑戦となったが、正直全く分からず。何を伝えたい? 殺人を肯定している? リアルなのかアンリアルなのかさえ分からない。『黒い本』と響き合っているように感じるが、それも合っているのか? 謎解きもなされず、作者自身が話を収斂させられず尻切れとなった失敗作かとも思ってしまったくらいだ。ピンチョン以上に疲れたので、この作品の再読はないかも?
パムクを読み続けて感じたのは、毎度長く複雑で、それでいて内容やスタイルの全く異なる作品を産み出し続ける彼のエネルギーだ。そして、緻密で独特で難解な作品が生まれてくる土壌にはトルコ社会の特殊事情、複雑さと問題山積状況がある。トルコ人にとっての一般知識のようなものを持っていたら、パムクの作品をずっと面白く読めることだろう。
今ごろ気がついたのだが、パムクは文章スタイルとして長い羅列が好きだな。それと、とにかく人が死ぬ。主人公クラスが次々死ぬ。殺人だったり事故死だったり。そんな特徴もトルコの暗部を映しているのだろうか?
さて次は『父のトランク』を読んで、それから『雪』を新訳で読み直したい。『わたしの名は紅(あか)』を新訳版の『わたしの名は赤』で再読したら圧倒的に面白かったので。とにかくパムクのオリジナリティーと「ヒュズン」感がとても好きだ。
(そろそろトルコへ。実際に旅してパムクの世界を目にして来よう! そう考えていたが、トルコの政情と治安は一気に不安定化。当分は行けないのかも知れない。残念。)
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