ベッガー・ハッダ Beggar Hadda (1920 - 2000) はアルジェリア北東部、チュニジアとの国境地域のスーク・アフラース Souk Ahras 出身の歌手。Aissa Djarmouni や El-Hadj Bouregaa といったシャウイ歌手の女性筆頭代表と喩えられようか。(ウアムリア奈津江さんが教えて下さったところによると)「鼻声のハッダ(Hadda El Khencha)」というあだ名もあったそう。
写真の3枚もマルセイユで見つけて買ってきた CD。シャウイにおいては歌詞が重要と言われるようだが、その言葉を解さない自分にとっては、歌と演奏そのものの音に素直に耳を傾けるだけ。これら3枚を繰り返し聴いて、その響きに圧倒された。一弦フィドルを弓弾いているようにも聴こえる枯れた音色の葦笛ガスバ、完璧にコントロールされたハッダのハイトーン・ヴォイス。その両者が互いのフレーズをなぞるように細かなビブラートを反復しあう対位旋律。
例えばある1曲。ハッダの歌もガスバも同じ高低2音を延々繰り返し合うだけ。しかし超絶技巧を尽くして生まれる精緻な音の響き合いで、その緊張関係が半端ではない。時おりベンディールも加わるが、歌と芦笛との対話に時間を忘れて聴き入ってしまう。
ナイマ・ジリア Naima D'Ziria の紹介記事に追記した通り、フーリア・アイシ Houria Aichi はアルバム "Renayate" (2013) でハッダもカバーしており、彼女の "Arouel" を歌っている。
ベッガー・ハッダのレコードのほとんど全てでカップ&ソーサーを持った美女の写真が使われているが、彼女がベッガー・ハッダだと思ったら大間違い。(奈津江さんからのご教示によると)彼女はただのモデルだそう。ハッダは晩年近くまで長年写真撮影を拒否していたらしい。実際ネットにアップされている晩年の写真や動画を見ると確かに別人である。余談になるが、Houria の "Renayate" でもこの美人モデルをベッガー・ハッダかのように紹介する誤りを犯してしまっている。
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