クロ・ペルガグの美しくも不思議な世界 〜カナダの若き鬼才が紡ぎ出す芸術〜(4)

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Klo Pelgag "L'Étoile Thoracique" (Release Date : 2016.11.04)


 クロ・ペルガグのセカンド・アルバム。邦題『あばら骨の星』

 ジャケット画は前作 "L'archimie des Monstres" のデラックス・エディションにも作品を提供していた(2曲目 La Fièvre Des Fleurs のイメージ画を担当)、バンド・デシネ B.D. (bande dessinée) 作家リュドヴィック・ドブールム Ludovic Debeurme による。『怪物たちの錬金術』が「ナマハゲ」盤ならば、こちらは「二重人格」盤とでも形容できようか。人獣二重性を表現しているものとすれば、人間の多面性/複雑さを歌ってきたこれまでのクロに相応しいジャケットだと言えよう。

 本作の大きな特徴は総勢30名を超えるオーケストラを導入していること。ファースト・アルバムの大ヒットにより潤沢な予算を投じることが可能になったからなのだろう。その成果は1曲目や3曲目に顕著だ。(新作ツアー中も同規模のオーケストラとの共演がケベックで数回?実現したらしい。)

 特別キャッチーなメロディーに満ちているわけではなく、中盤には穏やかな楽曲が続くため、聴き始めた頃にはファースト・アルバムの出来に届かなかったという印象が強かった。しかし、クロの3年間での成長が確実に感じられ、少し大人になったところを感じさせる歌とサウンドはとても好きになった。最近に至っては、完成度では前作以上と評価したくなっているほどだ。



 CDリリース後にLP2枚組も出たが、収録トラックの内容は一緒。ファースト "L'archimie des Monstres" のアナログ盤に関しては不満が大きかったのに対して、今回は CD よりも音が良いと感じる、特に中低音にアナログらしい良さがある。どうせ2枚組にするなら、45回転盤にできなかったのだろうかという贅沢な感想も浮かぶ。

 新作ツアーを観るべく 2016年11月にフランスまで駆けつけたが、カナダ以外ではまだ CD が発売になっておらず、Spotify で予習し、会場でそのカナダ盤をいち早く入手したことも懐かしい。



 以下、収録トラックに関する雑感(後日随時追記するつもり)。


(1) Samedi Soir À La Violence 凶暴サタデーナイト

 最初の曲からクロペル・ワールドが全開! 穏やかな歌とコーラスから始まって、次第に盛り上がる。終盤の壮大なオーケストレーションが圧巻だ。「私を忘れないで」「私を助けて」というリフレインが痛い。(この曲に限らずヴォーカル・トラックをダブルで使っているものが多い。本作はそういったヴォーカル処理も効果的だと思う。)

(2) Les Ferrofluides-Fleurs 磁性流体の花

 ファースト・アルバムと同様、2トラック目は花をテーマにした美しく軽やかな曲。VioleTT Pi こと Karl Gagnon との共作ナンバーだ。チャランゴ(前作でも演奏されていた)によるイントロが印象的。親しみやすいが、ややあっさりしすぎている、というのは贅沢すぎる感想か?

 → この曲はカナダの音楽賞 SOCAN 2017 に選ばれ(賞金 10000ドルを獲得)、クロはその授賞式を終えた後に日本に向かう予定。

(3) Le Sexe Des Étoiles 星々のセックス

 「首にくくりつけたロープ」「アマゾンで酒を求める」「星々のセックスを思う」、、、言葉の断片をそのまま拾っていくと何とも危ない印象だが、歌の意味はまだ理解できていない。後半の長大でダイナミックなオーケストレーションが素晴らしく、本アルバム中最高の聴きどころのひとつ。爆音快楽也! 前回も書いたことだが、「Je... avec toi(私はあなたと共に失いたい)」と行ったフレーズが自然と耳に残る。ここまでの3曲が断然、2作目の白眉。

(4) Les Instants D'équilibre 平衡の瞬間

 バスドラムのシンプルなリズムに乗って進む小品。1曲目の「ノルウェーのフィヨルド」に続いて、「スカンジナビア人の幸福」が歌われる。本作の舞台は北欧か?(そんなワケはない。)

(5) Au Bonheur d'Édelweiss エーデルワイスの幸福

 いかにもクロらしい、もの悲しげなバラッド。感傷的なストリングスも実にいい。本作中、最も美しいナンバーだ。

(6) Incendie 火事

 陶酔を誘うような優しいメロディーの曲が続く。夜のイメージが深い曲。この曲もコーラスと弦の響きがとてもいい。

(7) Les Mains d'Édelweiss エーデルワイスの手

 繊細な歌声(これもダブル、いやトリプル以上のトラックにも聴こえる)とリリカルなピアノを中心とした曲。5曲目と対照関係にあるような曲名なので、ここまでの3曲をセットで捉えられそう。エーデルワイスは一体何を恐れているのだろう?

(8) Les Animaux 動物

 暖かい日差しを受けるようなサウンド・アレンジと、シルキーさと棘が混じり合ったようなクロの声が彼女らしい。ここまでの中盤はスローで柔らかな曲が続き、ファースト・アルバムの頃に比べてグッと大人びた印象をもたらしている。

(9) Chorégraphie Des Âmes 魂のコレオグラフィー

 キャッチーで軽やかなフレーズが繰り返されるナンバー。「私の墓の上で踊りたいかい?」 コレオグラフィーは一体どんな振り付けを施したのだろう? オーケストレーションに贅沢感はあるが、コーラスワークがやや単調で(アルバム全般について言える)、そこが今後の課題になって来るかもしれない。

(10) Au Musée Grévin 蝋人形館で

 「蝋人形館は死ぬにはとても美しい場所だ」 そういえばクロは最近ポートレイトに蝋製の物体を使っていたな。情感深いピアノの弾き語り。

(11) Insomnie 不眠症

 エフェクトのかかったヴォイス、ダンスステップのようなリズム、シンセサイザーとオルガンとエレキベース、等々、アコースティック中心のサウンドが多いクロにしては、毛並みがちょっと異なった曲。プログレからの影響も感じられるトラックだ。短い曲中、早い展開で変化していく様も面白い。

(12) J'arrive En Retard 私は遅れて来る

 アルバム作品としては前曲ラストのブレイクで一旦終わっているのだろう。若干長めのインターバルの後に立ち上がるシンセのサウンドもストリングスも、リヴァーブ深めなクロの歌声もたまらなく美しい。まるで夢で浮遊するような心地に誘われる。

(13) Apparition De La Sainte-Étoile Thoracique あばら星聖女の顕現

 最後は10分を超える謎の長尺インスト(少しだけ語りが入るが)。連想するのはフランク・ザッパが晩年熱心に取り組んだシンクラビアの作品だ。こんなところにもザッパからの影響が現れていると言っても良さそうだ。



 ファースト・アルバムでは、楽曲ごとに様々な楽器を組み合わせることによって、カラフルなサウンドを生み出していたのに対して、このセカンドの大きな魅力はやはりオーケストラの導入だ。だとすると、そうした曲を小編成(6〜7人)のバンドのライブでどう聴かせるかが課題となる。

 昨年11月に観たライブは、弦3人とピアノ/キーボードを中心に艶やかで変化に富んだサウンドを聴かせていた。静寂から一気に上昇し炸裂するダイナミックな展開も見事。しかし、幾分単調に過ぎる時間もあって(ツアーのほとんど最初期だったのだから、それは当然だろう)新しいアイディアを盛り込む余地はまだまだあると感じた。数多くのライブを重ねてきた後の今度の来日公演で、クロがどこまで進化/深化させたサウンドと練りこまれたステージを披露してくれることだろう。



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(セカンドの Songbook/楽譜集も最近発売になった。35カナダドルで容易に買える。)


 5曲目 Au Bonheur d'Édelweiss はよっぽどクロのお気に入りなのだろう。これのオルゴールまで作ったほどなのだから。限定50個だったので販売開始直後に買ったが、その後、限定250に変更された。好評で売れ行き良く増産したに違いない。(日本の公演会場でも販売予定とのこと。)

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(続く)





by desertjazz | 2017-07-17 00:00 | 音 - Music
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