私的回顧 2017 - Bests of 2017 -

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■ 回顧2017

 自分に残された時間を考えた時、本当に好きなもの必要なものだけを見たり聴いたりしていたい。そうした思いをさらに強めて迎えた2017年だった。

 音楽について言えば、フランク・ザッパとブルース・スプリングスティーンとユッスー・ンドゥール、それにクロ・ペルガグを聴いている時一番気持ちが満たされる。一昨年、昨年と2年続けてスプリングスティーンとユッスーとクロのライブを観たのだから、彼ら3人が最も好きな現役ミュージシャンなのだろう。自分が真に好きなものを追う努力が報われたからだろうか、幾つもの感動にも恵まれた。特に近年一番注目しているカナダのクロ・ペルガグを日本に紹介する役目を仰せつかり、来日中も一緒の時間を過ごせたことは、音楽ファン冥利に尽きる。

 ザッパは既に故人なので、ライブは観られない。そこで昨年は彼の全作品を聴き直す作業に取り掛かった。ファーストから順に全てのオフィシャル・アルバムを、関連書を読みながら集中して聴きこんでみた。これが最高に楽しかった。しかし、生前最後の作品 62枚目の "Yellow Shark" でさすがに力が尽きた。没後リリースされた作品がまだ50タイトルほどが残っているし、また1枚目から聴き込みたいという気持ちもあるので、この作業は今年以降も継続しよう。

 旅もしたいし、本も大量に読みたい。そう考えると、あらゆる音楽を網羅的に聴くことは困難。ネット経由で得られる音楽だけでも多すぎて、全てにアクセスすることは不可能だ。有限の時間を使って未知の音楽を探し求めるよりも、ザッパやスプリングスティーンなどを聴いている方が遥かに至福なことが多い。実際それでもザッパですら聴ききれない。本当ならば、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、フランコなどもじっくり聴き直したいのだが。

 そのような理由やライブ体験を重視したことから、昨年はレコード/CDの購入数がさらに減り、過去30年で最低レベルに。しかし、Spotify などで気になる音源は気楽にチェックできるようになったので、新たに聴いた音楽はさほど減っていないかも知れない。もしかすると増えているかも?(反対に Spotify を導入したおかげで購入数が減ったとも言える。)


■ BEST BOOKS

 年間の目標(ノルマ)100冊を昨年も達成できず。ピーク時の150冊から減り続けて、2017年は最近10年で最低に。薄い文庫や新書はほとんど読まずに 100冊読破するのは流石に難しい(もちろん重要なのは数じゃないけれど)。

 1月トルストイの『戦争と平和』に始まり、年末ドストエフスキーの『罪と罰』で終えた1年。その間、セルバンテス『ドン・キホーテ』、フローベール『ボヴァリー夫人』、ゲーテ『ファウスト』など古典をよく読んだ。念願だったガルシア=マルケスの全集(全小説+自伝+講演集)読了をようやく達成。これはまさに読む快楽だった。

 今年読んだ中でダントツで良かったのは Bruce Springsteen "Born To Run"。日本語版を2016年のベストにも選んだこの自伝、とにかく凄いとしか言いようがない。幼少時のことからローカル・ヒーローに登りつめた過程、バンド編成/ソロ演奏の選択やサウンドの変化の理由、作品ごとにいかに考え抜いてテーマとサウンドを決めているか、父との対立や自身の病との格闘、徹底的に独善であることの信念と責任、そして家族や仲間たちへの愛が、赤裸々に綴られている。

 厚い本であるが、昨年はこれの原書に挑んでみた。ただし英語で読み通すのは辛いと思い、スプリングスティーン自身が朗読している Audiobook を聴きながら、活字を目で追っていった。これが大正解! 日本語訳では分からなかった細部がはっきりしたし、ニュアンスもクリアに伝わってきた。ブルースの読みは緩急の変化が大きく、内容に合わせて声色を変えたりもしている。擬音も実際の声でやっと感じられるものがあるし、時に含み笑いを交えて読んでいるところもとてもいい。(Audiobook は 1/28 に発表になる今年のグラミーを獲るのでは?と予測。)

 "Born To Run"、英語で読んだ後、日本語で読み直し、今はまた英語(2度目)と日本語(3度目)で読み返しているところだ。カズオイシグロやガルシア=マルケスなどのように何度も読み直したくなる本との出会いとなった。昨年これに匹敵する作品は思い浮かばない。

 小説で印象的だったのは、アフリカ系の作家たちの作品。ガエル・ファイユ『ちいさな国で』(スプリングスティーンを除けばこれが1位かな?)、チゴズィエ・オビオマ『ぼくらが漁師だったころ』、ノヴァイオレット・ブラワヨ『あたらしい名前』など。舞台や設定はそれぞれ異なるが、過酷な状況にさらされる子供達の苦闘、そこから欧米への逃避(成功と失敗)、絶望的なほどの救いのなさは共通している。アフリカ文学が新たな時代に入ったこと、アディーチェに続く若手が育っていることが感じられる3冊だった。

 音/音楽に関する本も久しぶりにいろいろ読んだ。ハイパーサウンド、サウンドスケープ、音楽発生論などへの興味は続いており、ジョーゼフ・ジョルダーニア『人間はなぜ歌うのか? 人類の進化における「うた」の起源』、大橋力『音と文明―音の環境学ことはじめ』、マリー・シェーファー『世界の調律』、バーニー・クラウス『野生のオーケストラが聴こえる―― サウンドスケープ生態学と音楽の起源』、デイヴィッド・トゥープ『フラッター・エコー 音の中に生きる』など(再読も多い)。音楽書では村井康司『あなたの聴き方を変えるジャズ史』から多くの刺激を受けた。


■ BEST LIVES

1. Tigran Hamasyan (Tokyo, 2017/05/24)
2. Bruce Springsteen & The E Street Band (Sydney, 2017/02/07&09)
3. Youssou N'Dour et Le Super Etoile de Dakar (Paris, 2017/11/18)
4. Klo Pelgag (Nanto, Toyama, 2017/08/27)
5. Massilia Sound System (Lyon, 2017/11/22)
6. Oki Dub Ainu Band (Tokyo, 2017/12/30)

 スプリングスティーンとユッスーは内容問わずもう別格。シドニーでは "New York City Serenade"(with Strings !!)と "Jungleland" を遂にライブ体験。7時間に及んだユッスーのパリ Le Grand Bal も初体験。長年の夢が2つも叶った。そしてクロ・ペルガグ。ライブは文句なしに良かったが、それ以上のものがあった(散々書いてきたので、もう書かない)。10年ぶりに観たマッシリアは全く変わらぬ楽しさ。

 しかしライブ演奏の密度で、スプリングスティーンやユッスーを超えていたのは、ティグラン・ハマシャンのソロピアノ公演。彼の目前でかぶりつきで観たのだが、全く異次元のサウンド。これまで体験したことのない世界観と感動だった(詳しくは書かないが、28日に屋久島で観た時より100倍くらい良かった)。

 ベスト5にしようかと思ったが、年末元住吉で観たオキ・ダブのグルーヴに圧倒されたので、これもランクインさせてベスト6に。

 2017年は好きなアーティストのライブを積極的に追いかけて、繰り返し感動を得られた1年になった。


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■ BEST ALBUMS

1. Tony Allen / The Source
2. Aya Nakamura / Journal Intime
3. Oumou Sangare / Mogoya
4. Slawek Jaskulke / Senne
5. Tigran Hamashan / An Ancient Observer
6. Randy Newman / Dark Matter
7. Kelela / Take Me Apart
8. Jamila Woods / Heavn
9. Becca Stevens / Regina
10. Orelsan / La Fete Est Fini


 年の前半ザッパ漬けだったからなのか、夏までクロ・ペルガグのことで頭がいっぱいだったからなのか、秋にフランスに行ったからなのか、一年を通して新譜の聴き込み不足でかなり迷った10枚。上位6枚を選ぶのには1分しかかからなかったのだが。例年だとベスト10指定席のアーティストたち、Orchestra Baobab、Sufjan Stevens、St. Vincent、Ibrahim Maalouf といったところの新譜が期待に届かなかったことも大きい(Baobab はギターのコンビネーションのマジックが消え、コラの音にも違和感。Sufjan も St. Vincent も悪くないが、彼らのベストには遠い。Ibrahim は全くつまらなかった)。

 1位のトニー・アレンは、アート・ブレイキーへのトリビュート盤10インチに続くジャズ・アルバム。 "Wolf Eats Wolf" と "Cool Cats" の2曲がとにかくカッコいい。Yann Jankielewiez によるホーン・アレンジも、ドラム、ベース、キーボード、ギターとのコンビネーションも最高。これこそ自分が求める音の快楽。"Wolf Eats Wolf" 1曲聴いただけで1位決定してしまったほど。なので、パリで彼らのライブを聴いている時はワクワクしっぱなしだった。

 2位はマリの若手、アヤちゃん。声が特別良かったり、抜群に上手かったりするわけでもないのだが、軽やかでちょっと無愛想で突き放すような歌い方にメロメロ。ソングライティングにも長けていて、デビュー曲 "Brisé" は名曲だと思う。Fally Ipupa との "Bad Boy" も最高で、この1曲だけで彼の新作 "Tokooos" をベスト10に入れそうになったほど。コンピ "Afro Trap Vol.1" 収録の "Love" などなど出したトラック全てがよかった。一昨年ロンドンで会った Sona Jobarteh にちょっと冷たくされたからじゃないけれど、すっかりアヤちゃんに気持ちが移りましたよ。

 3位はアヤちゃんも曲を捧げるアフリカの女王様。今年はアフリカンポップに聴きごたえのある作品が多かったけれど、アフリカものに限らず、完成度で言えばこのアルバムが抜きん出ていた。トラックごとに色を変えながら、多様なアフリカの要素を統合した傑作。

 4位はポーランドのピアニストのソロ。彼は前作にも虜になったが、今回も枯れた風合いに惹かれた。なので、(フランス旅行中に)自宅からすぐそばの会場で行われた再来日公演を観られなかったのは痛恨事。(年末に出た日本でのライブ盤は明るすぎて魅力を感じなったけれど。)

 5位もピアノ・ソロ。アルメニアのティグランはどの作品もいいが、これが彼の最高傑作になった。東京と屋久島と、2度も生で聴けたことは幸せだった。

 6位のランディ・ニューマンは昔から全作品を集めて続けていアーティストの一人。長大な1曲目 "The Great Debate" を聴いただけでもう圧倒されてしまった。今年3月のパリ公演、行きたいけれど無理だよなぁ。

 迷ったのは残り4枚。年末ギリギリの 12/26 にリリースされたユッスー・ンドゥールのライブ盤 "Raxas - LeGrand Bal 2017" が素晴らしくて、会場で観ている時には緩さも感じられた7時間のライブも CD 1枚分に集約するとこれだけ締まるのかと感心。今の絶好調振りが見事に記録されている。大逆転で1位に選出とも思ったが、まだフィジカルを入手していないので、反則技かと思って最後にベストから外した。

 他に残ったのは、昨年後半によく聴いたジャズ/ソウル系の作品。Mark Guiliana Jazz Quartet "Jersey"、Vijay Iyer Sextet "Far From Over"、Thundercat "Drunk" あたりでも良かったのだが、才能豊かな若手ディーヴァたち3人にした。彼女たちのサウンドの方をより頻繁に聴いたので。ベッカはジョニ・ミッチェルのファンにとってはたまらない要素も。(この並びでは普通すぎるかな? Sudan Achives が10インチじゃなくてフルアルバムだったら選んだかも?)

 最後10位、フランスのオレルセンは11月にパリで手に入れ、年の暮れから繰り返し聴いている。一聴ストロマエの様でもあり、近年の彼の不在感を埋めるサウンドになっている。

 振り返ってみると、アフリカ、ジャズ、ソウル/R&B に好盤の多い1年だった。でも、南アやナイジェリアは、最近騒がれているほど自分の耳が反応するサウンドには出会わなかった。面白い音楽を探してみる価値がまだまだあるということなのかも知れない。

 長々書いてきたが、実は 2017年の最大の衝撃は Musiliu Haruna Ishola の "Happy Day" だったりして??


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by desertjazz | 2018-01-15 10:00

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