読書メモ:カーレド・ホッセイニ『そして山々はこだました』

 昨年から今年の年初にかけては、数度の外遊やクロ・ペルガグ来日のことで忙しく、満足な読書ができなかった。それらの山を超えた今は一息ついて、ある程度まとめて読めるようになってきている。探してみると、面白い本、読まなくてはいけない本と次々に出会ったこともあって、最近は3日に1冊のペースでせっせと読んでいる。

 ジャズ本や小説を中心に読んでいるのだけれど、今年はかなりの豊作になる予感。ロビン・ケリー『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』、カール・オーヴェ・クナウスゴール『わが闘争2 恋する作家』、ラーナー・ダスグプタ『ソロ』、ヤア・ジャシ『奇跡の大地』、 角幡唯介『極夜行』あたりは年間ベスト10に残る有力候補。それぞれ読書メモを綴っておきたいとは思いつつも、その前に次の本に取り掛かってしまって後回しになりがちだ。


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 最近読んだカーレド・ホッセイニの『そして山々はこだました』も良かった。(以下、4/26 の Facebook に加筆して転載。)


 アフガニスタン出身の小説家カーレド・ホッセイニの第3作『そして山々はこだました』を読了。4月はこれで11冊完読。

 ホッセイニのデビュー作『君のためなら千回でも』は最初から1/3までに限れば傑作だった。特に、読み手が誰しも心に隠し持っている傷を突くような心理描写が見事。それ以降は筆力が落ちるが、それでも絶賛に値する作品だった。それに対して2作目『千の輝く太陽』は退屈。この作家はここまでかと思わされることに。

 それで期待せずに読んでみたこの3作目、1作目に匹敵するほどの素晴らしさだった。登場人物たちの心理描写も個性的な文章表現も鮮やか。構成が考え抜かれていいて、細やかに張り巡らされた数多い伏線にため息(登場人物、エピソード共に幾分多すぎて、誰なのか後で明かすことが多いことに起因する読みにくさもあったのだが)。作中、誰もが大きな不幸や不運に見舞われ、安寧な生活や夢が奪われる。それでも読後感が悪くないのは、それぞれが家族や血縁の絆を見出し、生きる喜びを掴み、そこに読み手の生き方にも返ってくるものがあるからだろう。

 残念だったのはラストの重要なシーン。ある意味、突然「神の視座」からの描写になっていて、小説として成立していないと思った。「忘れた方が幸せなこともある」という冒頭の掌編に戻る、作品の重要なテーマでもあるだけに、他の描き方はなかったのだろうか。

 カーレド・ホッセイニはこれで完全復活。この作品は再読したくなる濃さで、彼の最高作かも知れない。4作目の発表も待たれる。







by desertjazz | 2018-05-02 00:00 | 本 - Readings
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