読書メモ:John Collins on Highlife (Books on Ghana 1)

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 今年はジャズに関する書物や海外の小説を中心に読書しているところなのだが、アフリカ音楽については、ガーナ及びナイジェリアのハイライフ・ミュージックとパームワイン・ミュージックに関する文献を集中的に読んでいる。そのきっかけとなったのは、昨年暮にジョン・コリンズ John Collins の新刊 "Highlife Giants: West African Dance Band Pioneers" (奥付は 2016年となっている)が出版されたこと。ジョン・コリンズは長年ガーナで音楽活動(ミュージシャンあるいはプロデューサーとして)と音楽研究を続ける白人。彼はフェラ・クティとも親交が厚く、77年頃には共同でフェラのドキュメンタリー映画の制作も行なっていた(映画はご承知の通り未完成)。彼の著作 "Fela: Kalakuta Note"(KIT Publishers 2009年と Wesleyan University Press 2015年の2つのエディションがある)は以前このブログでも紹介した。

 ジョン・コリンズの筆によるまとまった記事を初めて読んだのは、ミュージックマガジン社の『ノイズ』創刊号に掲載された「西アフリカのポピュラー音楽 ハイライフ、パームワイン・ミュージックの歴史」(1989)だった。雑誌原稿としては異例とも言える全20ページもある長文で、ハイライフとパームワイン・ミュージックについて日本語で書かれたものとしては今現在も最高の文献だと思う。最初読んだ時にはさっぱり分からず、この音楽のどこが面白いのか理解できなかったことが今では懐かしい。この記事に続けて掲載された深沢美樹さんの「ハイライフの国を訪ねて」と合わせて一体何度読んだことだろう。(ところで、「西アフリカのポピュラー音楽」の英文元原稿はどこかにあるのだろうか?)

 アメリカに注文した "Highlife Giants: West African Dance Band Pioneers" が届くまでの間、まず同じジョン・コリンズの "Highlife Time" (1994 & 1996) と "Musicmakers of West Africa" (1985) を読んでみた。前者は昔ガーナを旅した知人(音楽ライター)が見つけてきたことで知った本。コピーを取らせてもらったものの、なかなか通して読む機会がなかった。コピーではなく現物の本の方が読みやすいと思い至って、探し続けること約20年。ガーナ国内のみでの出版だったので、なかなか見つけられない。それを最近ようやく入手できたものの、その後は未読のままだった。後者の本も同様にネットで見つけたが、以降読む機会が失っていた。

 ようやく通して読んだこれら2冊、ハイライフ文献の決定版を期待した "Highlife Time" にしても、「西アフリカ」と題しながら英語圏諸国に限定した内容の "Musicmakers of West Africa" にしても、正直物足りなかった。読み終えて気がついたのだが、E. T. Mensah を筆頭に数々の時代の証人たちへのインタビューを中心に構成されているところなど、2冊はかなり重なる部分がある。ガーナとナイジェリアの音楽の歴史についてある程度頭の整理ができたのは確かだ。しかし、インタビューはさほど面白くないし(とにかくコリンズの質問が・・・)、著者周辺(交友のあったミュージシャンたち)の話題にも偏りがち。ガーナとナイジェリアのミュージシャン・ユニオンや各ミュージシャンの表彰歴といった話にもさほど興味が湧かない。

 それでも貴重な記録ではあり、細かな情報に気になるものは多かった。例えば "Musicmakers of West Africa" を読んでいて目に止まったのがこの写真(P.19)。深沢美樹さんがコンパイルした CD "Palmwine Music of Ghana" でも大きく取り上げられた Kwaa Mensah が何と女装している。Kwaa Mensah もコンサート・パーティーでは時にはこんな姿で演奏したらしい。ガーナのコメディアンがミンストレルを真似して白黒メイクした写真などは時々目にするが、これは初めて見たかも。

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 そしてコリンズの最新刊 "Highlife Giants: West African Dance Band Pioneers" を通読。当然ながら過去の著作との重複は多いものの、「パームワン・ミュージック」や「ハイライフ」という名前の由来も含めて、より詳しく丁寧に書かれている印象だ。主要ミュージシャンたちの経歴紹介も充実している。"Highlife Time" も "Musicmakers of West Africa" も今では入手がほぼ不可能なので、それらの内容を踏まえた上でコリンズが書いた彼の研究の集大成、正に「決定版」になったと言えるだろう。とても平易な英語で書かれているので、英語が得意でない自分でもサクサク進み、ほぼ2日で読み終えた。冗長なインタビューは省かれており、興味深いエピソードが並んでいて読み物としても面白い。熱心なアフリカ音楽ファンにとって一読する価値はあるかと思う。

 例えば、読み進めて興味を惹かれたのは、戦争との関係。19世紀末にイギリス軍がガーナに駐留し、そのブラスバンドの存在がハイライフ・ミュージックを生むきっかけの一つになったことからも、アフリカ音楽は元々戦争とは縁が深かったのだけれど、、、。

・第二次世界大戦中、連合国軍によりガーナからインドとビルマに送られたファンティ人兵士は「日本人を追い出せ」ばかりに戦わされた。(P.11/12)

・ナイジェリアのダンスバンド・ハイライフが衰退する決定的要因はビアフラ戦争だった(レゴスのハイライフ・ミュージシャンの多くが東部出身だったため)。

・ナイジェリアの Bobby Benson の乗っていた船はドイツ軍の攻撃を受け大西洋上を漂流、32日後に救助されカーボベルデへ、そこでギターを教わる。さらにイタリアを経てイギリスへ、ここで多くの楽器を学ぶ機会を得た。(P.133)

 さらに、こんな興味深い記述もある。

・ギニアで Sékou Touré が authenticité 政策の下、自国のポピュラーバンドと州立バンドを養成したきっかけは E.T.Mensah の演奏を聴いたことだった(・・・と最近知った)。(P.131) 

 ジョン・コリンズは他に "E.T.Mensah: King of Highlife" (1986)という本も出しているが未入手。しかし、この内容をリライトしたものが4枚組CD "E. T. Mensah & The Tempos - King of Highlife Anthology" (2015) のブックレットに解説(約60ページ!)として掲載されているので、最早不要だろう。


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 "Highlife Giants: West African Dance Band Pioneers" を読む前には、"Palmwine Music of Ghana" 2CD をじっくり聴きながら、深沢美樹さんが書かれた長い解説書も読み込んだ(今頃、、、)。

 その深沢さんの解説、ハイライフとパームワイン・ミュージックに関する日本語文献としては、先に触れた「西アフリカのポピュラー音楽 ハイライフ、パームワイン・ミュージックの歴史」以来の内容の濃さなのではないだろうか。かなりのアフリカ音楽愛好家にとっても、これさえ読めば十分なほどで、ジョン・コリンズの書著作は必要ないくらい。実際の録音を聴きながら歴史をたどれるのもいい。

 アフリカ音楽を聴き始めた頃、ダンスバンド・ハイライフとギターバンド・ハイライフがどうして同じくハイライフと呼ばれるのか解せなかったし、文脈によってハイライフもパームワイン・ミュージックも意味にブレを感じて頭の中が混乱した。実は「ハイライフ」も「パームワイン・ミュージック」も、広義の意味(ジャンル全体を指す)で使われる場合と狭義の意味(特定のスタイルを指す)で使われる場合があって(Juju や Konkoma についてもにたようなことが言える?)昔はそのことに十分な理解が及ばなかった。深沢さんの解説は広義/狭義の両面性を踏まえて書かれている点がさすがだと思う。

 ところで、深沢さんの解説で知ったこのサイトが楽しすぎる! まずは厳選された40曲 Highlife music selection (40 songs) を一気聴き。これは堪らない。全400曲まとめて一気に聴いてしまいそうになった。


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 ハイライフ関連の文献としては Nate Plageman "Highlife Saturday Night" (2013) がジョン・コリンズよりも詳細に書かれているので、真っ先に読むべきなのろう。そう思ってこの本も読み始めたところだ。深沢美樹さんがCD解説の参考文献に挙げていた Catherine M. Cole "Ghana's Concert Party Theatre" (2001) もどんな内容だろうと思って買ってみた。これはハイライフ・ミュージックが生まれる契機のひとつとなったガーナの「コンサート・パーティー」に関する書物。こんな本まで書かれていることが驚きだ。以前ここで紹介した Koo Nimo の伝記 "Six Strings and A Note" (2016) はまだ未読。いつ読めるのかな?


John Collins "Musicmakers of West Africa" (Three Continents Press, 1985)
John Collins "E.T.Mensah: King of Highlife" (Off The Record Press, 1986)
John Collins "Highlife Time" (Anansesem Publications Ghana, 1994 & 1996)
John Collins "Fela: Kalakuta Note" 1st Edition(KIT Publishers, 2009)
John Collins "Fela: Kalakuta Note" 2nd Edition(Wesleyan University Press, 2015)
John Collins "E. T. Mensah & The Tempos - King of Highlife Anthology" (RetroAfric, 2015)
John Collins "Highlife Giants: West African Dance Band Pioneers" (Cassava Republic, 2016)

Nate Plageman "Highlife Saturday Night - Popular Music and Social Change in Urban Ghana" (Indiana University Press, 2013)
Catherine M. Cole "Ghana's Concert Party Theatre" (Indiana University Press, 2001)
E. Obeng-Amoako Edmonds"Six Strings and A Note - Legendary Guitarist Agya Koo Nimo in His Own Words" (Ink City Press, 2016)


 こんな風にアフリカ音楽について読んでいると、その度に謎が解け、疑問が生まれ、また課題が広がり、そして音の聴こえ方が変わる。楽しいね!







by desertjazz | 2018-05-03 00:00 | 本 - Readings
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