ガーナに関するネタが続いた流れで、今年2月に読んだ小説のご紹介。
ヤア・ジャシ Yaa Gyasi は1989年ガーナ生まれの女性作家(現在はアメリカ在住)で、『奇跡の大地』は彼女のデビュー作。出版以来、世界各国で話題になっているとのこと。
ファンティとアシャンティという(現在ガーナという国の土地に生きる)アカン人の2つの系統に属する、2つの家系の人々、主要人物に限ってもおよそ20人の、200年を超える壮大な年代記。ファンティとアシャンティの、奴隷貿易を通じた両者の関係、対立・戦闘、そこに深く関わるイギリス人(実際主人公の多くは白人との混血でもある)、そして奴隷として送られたアメリカ。そうした時代の流れに翻弄された人々の壮絶な物語は自ずとアレックス・ヘイリーの『ルーツ』を連想させる。
約20人の主人公たちは、主人公たるだけのエピソードを持っているのにも関わらず、語り尽くされていない感が強い。それなりにしっかり描かれているのだが、通読すると筆致が浅い印象を受ける。ただの歴史の羅列に感じられるのだ。なので、邦訳で400ページ近い作品でありながら、最低でもこれの3倍のテキスト量は必要だったし、それだけの作品になりうる素材を揃えられていたと思う。(ただし、デビュー作で大長編を書くだけの環境はなかっただろうと思う。また、それだけの大作をものにする筆力が彼女にあるかどうかも未知数だ。)
この小説のエンディングは、伏線の張り方から考えて、これしかない。いや、想定以下だった(なので、彼女の筆力は未知数だと感じた)。もっと深みを持たせる方法があったはず。
それでも、内容豊富な充実作。ハイライフ・ミュージック含めて、ガーナ音楽に関心があるならば、ここで書かれている歴史的背景くらいは知っていて損はないと思う。
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今年1月にニューヨークでブルース・スプリングティーンの Springsteen On Broadway を観る前後に読んでいたのは、この『奇跡の大地』や、ロビン・ケリー『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』、タナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』など、偶然にも黒人奴隷の末裔の作品が多かった。(スプリングティーンのプレミア・チケットを得て以来、NYC が呼んでいる?)ニューヨークなどで暮らす黒人たちの苦闘を読み続けて、アメリカという差別社会で生きることを語ることは終わりのないテーマなのだろうと考えさせられたのだった。
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