アインデ・バカレ Ayinde Bakare やトゥンデ・ナイチンゲール Tunde Nightingale といったヴィンテージなジュジュ・サウンドが好きなので、先日エル・スールがナイジェリアから直輸入した、ジュジュを代表するミュージシャンのひとり、J. O. アラバの Evergreen Musical Company 盤 "Works of J. O. Araba & His Randy Blues 1922-1989" 2CD を買って聴いている。
Christopher Alan Waterman の "Juju: A Social History and Enthnography of an African Popular Music" (Chicago Press, 1990) などによると、J. O. Araba こと Julius Oredola Araba は 1922年5月24日、ラゴスの生まれ。彼がギターを弾き始めたのは 1930年。Tunde King などの第二次世界大戦前のジュジュに影響を受けた後、Joseph Olanrewaju Oyesiku とともに、Toy Motion(Toy はマリファナを意味する)という新しいジュジュのスタイルを開拓。1950年代から60年代初頭を中心に活躍した。ちなみに J. O. アラバはボクシングのタイトル・ホルダーでもあったと書かれている。
他のジュジュ・スタイルが「シングル・ピッチ・メロディック・パターン」だったのに対して、Toy Motion は「ハーモニック・メロディック・パターン」。これはパームワイン・ミュージックからの引用だという。
彼のグループ The Rhythm Blues は4人編成で、1955年の結成。楽器構成は、ギター、アギディボ、サイドドラム、マラカス。どの曲も、エレキギターを除く3人のパーカッションのコンビネーションや、ヴォーカル&コーラスのやり取りを聴いていると楽しい。大型親指ピアノの低音楽器アギディボの奏者はなんと Fatai Rolling Dallor だった! 彼らは60年代初頭の幾つかの重要イベントで演奏し、その地位を確たるものにしたようだ。その後は目立った活動は減ったようで、アラバは 1989年9月15日に亡くなっている。
J. O. アラバの単独アルバムはあっただろうかと思って棚を探ってみたが見つからない。ネットで検索しても出てこないので、制作されたことはないのかも知れない。レコードとしては、Philips の10インチ盤 "Catchy Ryhthm from Nigeria Vol.1"、同 "Vol.2"、Rounder 盤 "Juju Roots 1930s-1950s" に1曲ずつ収録されている。また彼の録音を収録したコンピレーションCDも数タイトル出ている(例えば "Awon Ojise Olorun: Popular Music in Yorubaland 1931-1952" など)。
Evergreen 盤としては "Evergreen Hits of 20 Music Masters of Our Country Nigeria" (HRS 005) に "K'elegbe Me Gbe" を収録。ここには彼に関して簡単な解説も付いていた。また "20 Evergreen Hits of 3 Music Masters of our Country - Nigeria" (HRS Vol.16) にも4曲収められている。
フェラ・クティが J. O. アラバの曲をカバーしているというのは興味深い事実かも知れない。フェラはファーストLP "Fela Ransome Kuti and His Koola Lobitos" (1968?) で J. O. アラバの "Araba's Delight" を演奏している。アラバはフェラのフェイバリットだったのだろうか?
フェラ・クティの録音は全曲自作ナンバーだという印象があるかも知れないが、彼の未復刻音源の中には、あるジャズのスタンダード・ナンバーをカバーしたものがある。しかし、フェラのトランペットは相当に下手で、これは復刻するまでの価値はないかも?(手元にその録音はあるが、それを勝手に公開することもできないし。)
(さらに余談になるが、晩年のフェラのライブを観た方々が「フェラの最高傑作」と断言されながらも、公式録音の残されなかった幻の曲 "C. S. A. A. (Condom Stalawagy and Scatter)" の録音、正確には隠し撮りされた?59分間のビデオ、も今年ついに入手した。)
このフェラのファーストLPは自分にとってとても思い出深い1枚だ。フェラの初期に関してまだ情報の乏しかった1990年代末に、世界的にほぼ全く知られていなかったこのレコードの存在を突き止め、それがひとつのきっかけとなって 60年代のフェラのリイシューが本格化したからだ(今流通しているリイシュー盤も全てその時に「再発見」した音源のコピーが使われていると思われる)。そして、ヒュー・トレイシー音源のリイシューにいち早く気がつき日本に紹介したのも1999年だった。
私がアフリカ音楽についてネットで書くようになってから来年に20年になる。その間に紹介したもののうちでは、フェラのファーストとヒュー・トレイシーのリイシューが、最も世間に役に立っただろうと自己評価している。逆の言い方をすると、この20年間、それらを超える発見も活動もできていないということ。それが自分ではとても物足りない。そろそろまた何か驚くような「発見」をしたいと願うものの、ここ10年ほどはさほど音楽を聴かなくなっているので、残念ながら、なおさらそれが難しくなっている。
このレコードは勿論復刻盤。バーゲンプライスだったので、記念?に買ってしまった。
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