アフリカの記憶 000 - My Lost Africa -

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 -Prologue- My Lost Africa
 
 Zaire / Kikwit 1996

 しばらく前から、昔アフリカでフィルム撮影した写真を見直している。

 この写真は、1995年にエボラ出血熱の感染爆発が起こったザイール(現在はコンゴに改名)カサイ州のキクウィトを、その翌年にエボラの取材で訪れた時のもの。夕方、カサイ川(の支流?)とそこに浮かぶ丸木舟の美しさを眼にしてシャッターを切った1枚。ここは、いつかもう一度訪れたい場所のひとつだ。

 多分幸いなことに?、私は(出張を含めて)旅を繰り返し、数多くの国や地域を訪ね歩いた。一般人では入れないところにも幾度となく足を踏み入れた(行かされた)。なので、旅の経験は豊富な方だろう。だがその分だけ、次の旅の目標を定めるのがとても難しくなっている。これまで白状できずにいたが、どうしても行きたいところは行き尽くしたし、会いたい人にもほとんど会えてしまったので。

 自分はこれからどこを旅したいのか/旅する必然性はどこにあるのか、考える度に悩みもする。旅は好きだ。その一方で、飛行機に乗るだけでも、地球環境破壊に加担しているという思いもある。それだけに、自分が世界を飛び回る意味を常に考えている。だから、ただの観光旅行には私個人としては興味がない。

 散々思案した末、一昨年の夏から今年1月にかけて、ドーハ、アルメニア、ジョージア(グルジア)、フランス(マルセイユ)、トルコ、ラオスなど、そしてインドネシア(15回目)のバリ(14回目)とフランス(16回目)のパリ(15回目)に足を運んだ。いずれも収穫の多い旅になった。少なくとも今後数年間は海外旅行など出来そうにない。そう考えると、行ける時に行っておいて良かったと、今は思う。

 しかしこれは、次のアフリカ旅行計画が先送りになり続けているからでもある。自分は決定的理由を見出せないうちは旅立つことができない。もう一度アフリカに行くことができれば、切り良く10度目になる。その思いが自分を後押しし続けている。いやそれ以前に、アフリカを直に歩くテーマはいくつも持っていて、リサーチを続けている。

(例えば、ガーナ音楽研究の第一人者であり Fela Kuti とも親交の深かった John Collins さんや、ピグミーの女性と結婚しピグミーの集落での生活を続けた Louis Sarno さんとも直接やりとりをさせていただいた。その途端に Louis Sarno さんが亡くなったのはショックだったのだが、、、。近年盛り上がっているアフリカ各国の音楽シーンを直に取材したい気持ちもある。)

 だが、またアフリカに行こうと自分を奮い立たせているものの、まだその目的をはっきり見出せないまま何年も過ぎている。

 そんな折、新型コロナ禍のせいで、思わず今は自宅を出ずに過ごす時間が増えた。そこで、以前よりやりたいと思っていたフィルム・スキャンを始めた(その作業専用に EPSON GT-X830 を新規購入)。まずはアフリカで撮影したネガから取り掛かっているのだが、その数、数千枚。最適な設定を探りながら、毎日数枚ずつテスト的にスキャンしている。

 全てが、安いカメラと安いレンズで、あるいはコンパクトカメラで撮った素人写真なので、大したものはない。保存状態が良くなく、劣化も進んでいる(退色補正には限界があり、ネガに傷や汚れも目立つ)。

 それでも、ネガからスキャンし拡大して見直すと、忘れていた記憶が次々と蘇り、新鮮で興味深い。自宅に居ながらにして旅をしている気分にもなる。これは予想しなかったことだ。


 ひとたび旅を終えると、それは失われる。土地も人も時間とともに変化するからだ。だから、終えてしまった旅を再現することは不可能で、それは記憶の中にだけ止まる。誰しも、過去の旅は、終えた時点で奪われる。しかし私は、もしかすると未来の旅まで奪われてしまったのかもしれない。

 世界は、突然見えざる力によってグローバリズムを否定されたとさえ言える状況下にある。誰もが自由に旅のできる時が戻ってくるかどうか、それは今はまだわからない。多くの人々にとって、世界を直に体験できる時代が終わってしまった可能性すらある。

 そうしたことを考えながらも、意外と悲観的にはなっていない。世界が新しく生まれ変わるとして、そこには何らかの必然性なり理由なりが見出せるのではないかと思うからだ。過去の自分の記録を見返すこと、昔撮影した写真を冷静に見直すことは、(大げさな言い方になるが)世界の現状を認識する上で貴重な情報を与えてもくれる。さらには、次の旅のプランを練るためのヒントも詰まっているように思う。

 近場への旅さえ許されない今、自分の過去の旅をもう一度辿り直すことは、本当に旅をしている気分にさせてくれる。私はアフリカへの旅を永遠に失ってしまったのかもしれない。それでも、またいつか旅立つ日が来ることを願い信じて、しばらくは心の中で旅してみようと思う。
 





by desertjazz | 2020-05-13 00:00 | 旅 - Abroad

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