アフリカの記憶 006

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 Botswana / Kalahari 1993

 Night in Kalahari - 2

 やって来るまでは、完全なる砂漠だと思っていた。
 しかし、砂の間から潅木や緑が生えている。
 砂で覆われた大地は根菜や野生スイカも育む。
 ここは、一面砂だらけの死んだ土地ではなかった。

 日が沈むと、あたりから不思議な音が鳴り始める。
 小さなスプリングが弾むような音で大地が覆われる。
 四方八方で生き物たちが鳴き交わしているのだろう。
 ただし、その正体は誰に尋ねても分からないという。

 どっぷり暮れた頃、謎の物音が強まるのを待って歩みだす。
 マイクと録音機とヘッドホン、
 そして懐中電灯を手にして。
 戻る方向を見失わないことを一番に考えながら。

 テントから100mほど進んだ。
 ここならキャンプの物音がほぼ届かない。
 ヘッドホンを耳にして、録音ボタンを押す。
 幾千、幾万の生き物たちのさざめきが聴こえる。

 真っ暗闇の中、ヘッドホンで耳を塞いでいると、
 背後に何かの気配を感じる。
 今にもライオンに肩を叩かれるような奇妙で恐ろしい感覚。
 何度も振り返るが、そこには何者もいない。


*後日聞き取り調査をすると、音の正体は「カカ」という虫だという証言を得られた。カカの発音は [!ka!ka] が近い。[!] はブッシュマン(や南ア)に特徴的なクリック音(舌打ち音)の一つ。

*砂漠に滞在中「最近も、夜の空気が気持ち良いからと言って、テントを出て外で寝ていたドイツ人がライオンに食べられた」と聞いた。ここはライオンやハイエナなどの肉食野生動物が暮らす土地だ。しかし、人間の出す物音が聞こえるところには野生動物は寄ってこないとも教わった。少なくともテントの中で寝ていれば安全らしい。そう聞いていたので、ライオンに襲われる可能性は低いと考えた。怖かったが、それでも、不思議な音に浸り録音する喜びが恐怖に勝った。







by desertjazz | 2020-05-19 00:00 | 旅 - Abroad

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