旅の追憶 #7

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 Protugal / Lisbon 2005


 「アフリカの記憶」を綴っていると、様々な旅の記憶が蘇り、それがいつの間にか自己の足跡を回顧し整理する作業になっていた。それと同時に、いろいろなことが頭をよぎり、あれこれ考えさせられもした。

 近頃よく頭に浮かぶのは、自分はどうしてこれほど音楽を知らないのだろうという疑問だ。有名らしいのだが聴いたことのない音楽が多いのは何故か?と書く方が正確かもしれない。若い頃から音楽が好きで聴き続けてきたのに、知らない音楽があまりに多すぎる。

 所詮あらゆる音楽を知り尽くすことなど無理なので、これは誰にとっても同じことだろう。そうは思ってみたのだが、ここ数年ミュージシャンが亡くなる度に、友人/知人たちが SNS でやり取りしているのを目にして、それが知らない名前だったり、聴いたことのないアーティストだったりするものだから、正直焦ってしまう。

*今年話題のアーティストに限っても、ビリー・エリッシュやテイラー・スウィフトですら、アルバム1枚通して聴いたことはない。

 ところが、「アフリカの記憶」を綴り続けているうちに、「旅」がその理由のひとつであることに気がついた。

 数えてみると、ここ30年ほどの間に海外旅行/海外出張が74回。出張だと2ヶ月に及ぶことも多い(88泊89日の中国出張なんてのもあった)。休暇を消化するために、帰国した直後にまた海外に飛んで静養することもしばしば。国内旅行も毎年繰り返していたし(加えて、普段の仕事も深夜に及ぶことが多かった)。そのような訳で、とにかく自宅で音楽を聴く時間がひどく限られていたのだった。

 かと言って、旅行の間音楽を聴くことは少ないし、移動中に音楽を聴くことはない。音楽が好きだから、聴く時はそれに集中したい。だから、車中でも機内でも全く聴かない。日頃通勤途中に音楽を聴くこともない。

*最近は新型コロナの感染防止と運動不足解消を目的に、時々、職場から自宅まで 80分ほど歩いて帰っているが、その間も何も聴かない。耳を塞ぐことが好きではないのだ。散歩する間は、耳を解放し、自然や街中のアンビエンスに耳を預け、頭の中を空にしたい(歩いている時、前を見ないこと/耳を塞ぐことは、動物としての生存能力を放棄しているとも考える)。

 こうした生活をしていれば、当然音楽を聴ける時間が少なくなってしまう。「アフリカの記憶」を書いていて、旅を重ねたことが自分の音楽生活に制約を与えていたのだと思い知ったのだった。

*ここ数年は、音楽を聴くより読書する時間の方がずっと長く、読書中は何も聴かないことが多いので尚更だ。若い頃ジャズを夢中になって聴き、さらにラテンやワールド・ミュージックに出会ってからは、毎年500枚以上レコードを買って、連日20枚くらい聴いていた。しかし最近は1週間に数枚聴くのがせいぜい。単に時間がないだけでなく、好奇心や体力も薄れているのだろう。

 今から振り返ると、これほど慌ただしく日本と世界を飛び回らずに、家に居てたっぷり音楽を聴く生活を選んでも良かったのかもしれない。後悔とまでは言わないが、最近そんな風に自分の過去を見つめ直している。過酷な旅を繰り返すことで貴重な体験を重ねるのと、自宅で過ごす時間を大切にするのと、果たしてどちらが良かったのだろうか。結果として音楽を聴く時間が物凄く減ってしまったが、やはり前者の生き方を強いられた/選択したのは、自分にとって幸いだったのだろうか。多分そうなのだろう。


 この歳になると、さすがに疲れが取れにくい。アフリカをもう一度長期旅行したいとプランを練っているのだが、果たして実現させる可能性はあるのか。早めに仕事をリタイアして、読書と音楽三昧の生活、あるいはしばらく海外でのんびりすることも夢見ていた。だが、今度のコロナ禍でそれも絶望的だろう(自分の心の中では、もう2度と海外を旅できないことを覚悟した)。

 ならば、そろそろ旅には一区切りつける時期なのかもしれない。これまで聴くことのできなかった音楽に向き合う時間を取り戻すためにも。余生は、先送りしてきた音楽も含めて、ゆったり音楽を楽しむ生活がいいかと思っている(しかし、現状を鑑みるとそれも難しいだろうなぁ)。




 アフリカで撮ったフィルム写真を整理する目的で始めた「アフリカの記憶」。ゴールを定めず、気まぐれに思いついたまま綴っているうちに、210回(+4回)に達した。途中からは時系列に写真を選ぶようになり、1993年のアフリカ初上陸(南アとボツワナ)から次第に北上して、2005年の7回目のアフリカ旅行となったナイジェリア(この旅はフィルムではなく、全てコンデジで撮影)までたどり着いた。順番で行くと、次はさらに北上して8回目のアフリカ旅行のモロッコになるのだが、モロッコでは特別なことはそれほどなかったので、「アフリカの記憶」を続けるかどうか決めかねている。




 写真は 2005年5月13日にマデイラ島からリスボンに戻った夜に、路上で目にしたポスターを撮影したもの。翌年1月にはポルトガルの隣国スペインのバルセロナへ。当時音楽シーンが盛り上がっていた Raval 地区にも同じような色彩のポスターが貼られていたことを思い出す。(写真は文章と特に関係はない。)






by desertjazz | 2020-12-19 00:00 | 旅 - Abroad
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