Houcine Slaoui : The Father of Moroccan Chaabi <4>

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■ホスィン・スラウイのレコード(1)

 <パテ・マルコーニ 1948年>

 先述した通り、ホスィン・スラウイはフランスのパテ・マルコーニと契約を交わし、1948年から50年にかけてレコーディングを行った。

*1948年からのパテ録音よりも前、41〜43年頃に3曲ほど録音している可能性もあるようなのだが、実際の録音は確認できず、それらの詳細については分からない(この点については、今回の最後に再度触れる)。

 アラブ圏諸国で発売されたアラブ音楽の SP に関する詳細なディスコグラフィーを掲載している Ahmed et Mohamed Ehabib Hachlef "Anthologie de la Musique Arabe (1906-1960)" (Centre Culturel Algérien / Publisud, Paris, 1993) によると、彼のパテへの録音は 33曲(合計34テイク、SP24枚/47面分?)である。

(以下、#number はディスコグラフィーに記載された Matrix順。)

 それらのうち1948年の録音は4曲。いずれも両面で1曲である(4枚8面分)。


#1. Harrouda または Errada(Pathé PV93? / Matrix CPT 6890/91)

 "Anthologie de la Musique Arabe” によると、これがパテへの最初の録音になるのだが、SP現物を入手できていないため謎だらけだ。そのディスコグラフィーには "Harrouda" と記載されているが、"Errada" である可能性もある。YouTube で見つけた "Harrouda" を聴くと、ホスィン・スラウイの歌を中心にした、ウード、カーヌーン、ドラムなどによるアンサンブルで、女声も絡む。しかしSP両面の曲だとすると、約2分というのはあまりに短い(途中1ヶ所編集しているか音飛びしているようにも聴こえるが)。

 (参考)https://youtu.be/dWdiWxnYPMs

 YouTube で "Errada Errada" というトラックも聴くことができるが、こちらは5分半ほどの録音。前半はスラウイによるウードの弾き語りで(ドラムも聴こえる)、中間の短いブレイク(ここからが B面なのだろう)とソロ演奏の後にはハンドクラップも加わる。

 (参考)https://youtu.be/VSRvF3egJQ8

 ところで、"Errada" として世に出回っている録音(YouTube、Spotify、Apple Music など)には、後で触れる "Gandoule Bedoui" を2度繰り返して6分に伸ばしたものが多い。このことがさらに頭を混乱させる。一体どれが彼の初録音なのか? その謎を解き明かすためにも、何とかこのパテ盤を手に入れたいものだ。


#2. Aita Baduia(Pathé PV94 / Matrix CPT 6892/93)

 オリジナル盤では “Aita Baduia” だが、ディスコグラフィーを含めて “Aita Badouia” と綴られることの方が多い。SP盤のアーティスト表記は El Houssine Slaoui となっており、作詞・作曲者は Atmane とクレジットされている

 ほぼウードの弾き語りで、ドラムやハンドクラップ、男声コーラスが加わる程度。ホスィン・スラウイの音楽の基本スタイルを堪能できるトラックであり、彼の代表曲のひとつと言えるだろう。パテ録音の初期は SP両面を使った6分前後の作品が大半を占めるが、これも同様。短いブレイクを挟む前半と後半とで別曲にも聞こえる。特に後半は、歌もウードも極めてアグレッシブで、スピード感たっぷり。一気に駆け抜けるような早弾きのウードを中心とした溌剌さに魅了される。

(実際、前半部のみを独立した曲として、後半のみを “Aba Sidi Ba” として扱っている例もある。またサブスク等で “Haoua Tani” という曲が多く出回っているが、ほとんどが Aita Baduia と同一録音だった。なお、冒頭のクレジットは、レーベルやアーティストの名前である。このようなクレジットは、別の会社がコピーして SP を発売するのを防ぐためだったことを、最近、ウラジーミル・アレクサンドロフの『かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた 二つの帝国を渡り歩いた黒人興行師フレデリックの生涯』を読んで知った。)

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#4. Alala Ylali(Pathé PV96? / Matrix CPT 6896/97)

 ウードとピアノとドラムのみの演奏で、フレーズのリフレインが耳に心地よく、前曲に似た力強さも感じられる。注目すべきは、ピアノを導入することによってモロッコ音楽をモダン化した実例になっている点だ。ウードとピアノが対話しているようであり、なんとも甘い歌声にも魅力を感じる。曲名には特に意味はなく、一種の「掛け声」のようなものとのことだ。


 1948年録音の残る1曲 #3. “Arraqi Allah” (Pathé PV95? / CPT 6894/95) はまだ入手できていない。


***


*今回、"Anthologie de la Musique Arabe (1906-1960)" のディスコゴラフィーに基づいて、ホスィン・スラウイのパテ録音期間は 1948〜50年として、彼の SP 録音を整理した。しかし、次回取り上げる #5. "Azin Oualain (El Maricane)" あたりまでは、実は 1940年代前半の録音(発売)だった可能性も考えられないだろうか。ホスィン・スラウイが 40年代前半にレコーディングを行った/レコードを発売したとする記事や証言がいくつかあり( "Azin Oualain (El Maricane)" がヒットしたのは 44年?)、そう考えた方が情報間に整合性が取れるようにも思える(その一方で、新たな矛盾も生じるのだが)。この辺りのことを確定させるのは、今後の課題としたい。

 

(続く)








by desertjazz | 2021-04-04 00:00 | Sound - Africa

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