Houcine Slaoui : The Father of Moroccan Chaabi <5>

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■ホスィン・スラウイのレコード(2)

 <パテ・マルコーニ 1949年>

 この年の録音(発売)とされるのは 10曲。最初の2曲は SP両面にわたる約6分の長さだが、以降の8曲は片面のみで、いずれも3分程度という短い録音だと思われる。


#5. Azin Oualain (El Maricane) (Pathé PV97 / Matrix CPT 7120/21)

 第二次世界大戦中の 1942年11月8日、連合国側のアメリカ軍が当時フランス保護領だったモロッコに上陸し、社会情勢に変化の生じたことを憂いて書かれた。前年の録音群のエネルギッシュなムードから一転、ウード、ヴァイオリン、カーヌーンの端正な調べと、そして哀感こもった歌声が切々と胸に響く。ホスィン・スラウイ最大のヒット曲らしい。実際彼が残した最高の曲であり、モロッコ音楽史上屈指の名曲と言えるだろう。

(これもタイトルが様々に表記されていて、紛らわしい1曲だ。原題は「美しい彼女、そして美しい瞳」といった意味で、"El Maricane"、"El American" など「アメリカ人」という副題は後から付けられるようになったのではないだろうか? 42年にこの曲の最初?の録音がなされたという話もあり、その時点でこの副題が生まれた可能性も捨てられなくもないが。)

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#6. Ahdi Rassak(Pathé PV98? / Matrix CPT 7122/23)

 ハルカ風のやや長い語りによるイントロを受けて、ウード、カーヌーン、ヴァイオリン、ドラム、金属的に響くパーカッション、女性コーラス、そしてスラウイの歌がほぼ同じパターンを繰り返し、そのことで緊張感を保っている。曲名は「気をつけろ!」といった意味らしい。この曲の歌詞にも、フランスによる支配と第二次世界大戦という時代状況を反映した、社会的メッセージが込められているようだ。


(追記 2021/04/14)

 この曲はモロッコでも SP でリリースされている。

#6b. "Ahdi Rassak" (Moroccophone 980)

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#7. Amarlou Sebsi(Pathé PV99A / Matrix CPT 7124)

 SP盤の表記は "Amarli Sebssi" だが、発音としては Amarlou Sebsi が正しく、実際スラウイもそのように歌っている。セブシ Sebsi はモロッコの細長いパイプで、中にドラッグの一種であるキフ kief の粉を詰めて吸う。セブシで煙草を吸うことは、モロッコの人々にとって憩いだった。ウードよりもカーヌーン、ヴァイオリン、ベンディールを際立たせた演奏となっており、中盤のカーヌーンのソロや女性ボーカルが印象的である。なおこれ以降は、SP片面のみの3分程度の曲が続く



#8. Astarni Yassattar(Pathé PV99B / Matrix CPT 7125)

 これもヴァイオリン、カーヌーン、ベンディールといった楽器によるアンサンブル。カチャカチャ鳴るパーカッションはナヌークだろう。前曲SPの裏面トラックだからだろうか、曲調が似ている。おそらく同じ日にレコーディングされたのではないだろうか。
(興味深いことに、#2 以降ここまで、曲名の綴りが A で始まる曲がずらっと並んでいる。a 音に発生的メリットがあるのか、スラウイの嗜好なのか、単なる偶然なのか、あれこれ推測/想像してしまった。)



#9. Sidi Lahbib(Pathé PV109A / Matrix CPT 7126)

 楽器編成、歌とコーラスと演奏の一体感、フレーズのリフレインなどから、#6 "Ahdi Rassak" に近い印象を受ける。ユニゾン感が強い中、鈴なるような音色のリズミックなパーカションが彩りを添えている。短い録音ながら、終盤のウードなどは聴き応えがある。



#11. N'Zaha(Matrix CPT 7128)

 切なげなカーヌーンのイントロが実に印象的。それに続くメロディーは、"Azin Oualain (El Maricane)" あるいはアルジェリアン・シャアビの大名曲、ダフマーン・エル・ハラシ Dahmane El Harrachi の “Ya Rayah” も連想させる、哀感漂う曲だ。


#14. Gandoule Bedoui(Pathé PV109B / Matrix CPT 7131)

 高らかな笑い声で始まる語りはハルカなのだろう。短いながらも強烈なインパクトだ。ウードとベンディールを中心とした演奏は、リズミカルかつ急速なテンポで展開していき、聴いていて息苦しくなりそうなほどの切迫感にみなぎっている。半ばすぎでスラウイが囃し立てるような声をあげるなど、テンション高い録音になっている。




 1949年録音の残る3曲(#10、#12、#13)の詳細については、まだ確認ができていない。冒頭に記した通り、この年は最初の2曲を除くと3分程度の片面録音が続くが、6分近い両面録音の曲の方が聴き応えあって、スラウイらしさもより出ているように感じる。

 #7. Amarlou Sebsi と #8. Astarni Yassattar は、サブスクにも YouTube 等にもない珍しい録音。#7 の歌詞が影響して公開されていないのではないかというご指摘をいただいた。

(ディスコグラフィーのデータに基づいて 1949年録音としたが、#5. Azin Oualain (El Maricane) の録音が 42年頃だとすれば、他も 40年代中頃だった可能性も考えられる。Matrix Number が連番である一方で、SP レーベルのレイアウトや色はバラバラなのはどういうことなのだろう? 同じ時期のリリースだったのか、間隔を空けてのリリースだったのか、あるいは同じ楽曲が繰り返し発売されたのか、はっきりしないことばかりである。)


(続く)








by desertjazz | 2021-04-05 00:00 | 音 - Africa
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