■ホスィン・スラウイのレコード(3)
<パテ・マルコーニ 1950年 パート1>
亡くなる前年の 1950年には 19曲(計20テイク)録音したとされる(だが後述するように、実際の録音はもう少し多かった可能性がある。その一方で、これら全てが 1950年のものだったかについては疑問が残る)。それらのうち、前半の録音には SP両面にまたがる曲が再び増えている。後半の 11曲(12テイク)は 11月にリリースされており、これらについては次回紹介する。
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#15. Lah Lah Al Semar(Matrix CPT 7432/33)
ウードとクラリネットが中心で、カーヌーンやドラムも加わっている他に、もう1本の笛?やスティックの音も聞こえる。テンション高く、粘つくような歌も魅力的だ。
#16. Ya Mouja Ghani(Matrix CPT 7434/35)
代表曲 "Azin Oualain (El Mericane) " にも通じるバラッドで、メロディーも雰囲気もよく似ている。イントロで独奏されるカーヌーン、切々と爪弾かれるウード、いずれもが印象的だ。クラリネットなども効果的に使われている。ホスィンの孫のハティーム・スラウイ Hatim Slaoui や、同じモロッコ新世代の Younes B がリメイクし、ゆったりとした現代的で美しいバラードに蘇らせている。恐らくホスィン・スラウイの曲の中でも特に愛されているもののひとつなのだろう。
#17. Fine Elli Kanou (Matrix CPT 7436/37)
クラリネットや笛に先導される軽やかな曲。コーラスも賑やかで、スラウイのウードも溌剌としている。
#18. Essania Ouelbir(Matrix CPT 7438/39)
意表を突くアコーディオンによるイントロで始まるミディアム・テンポの長尺曲。朗々とした歌唱が印象的。手元の音源はコンディションが悪く、そのためそれぞれの楽器の音や歌がダンゴ状態になって聴こえるのが惜しい。
#20. Samra Ou Khamouriya(Matrix CPT 7442/43)
ホスィン・スラウイの歌を中心に、ウード、クラリネット、カーヌーン、ドラム、男女のコーラスが激しいインタープレイを展開する、ポップなメロディーの曲。たいへん集中度の高い演奏で、中でもクラリネットの熱い音が強烈だ。聴く度に思わず興奮してしまう素晴らしさで、彼の最高作品の一つだと思う。
#21a. Alhbib El Ghali - I(Pathé PV116A / Matrix CPT 7449)
#21b. Alhbib El Ghali - II(Pathé PV116B / Matrix CPT 7450)
スラウイ単独ではなく、Hocine Slaoui & Bahia Farah 名義になっている。Bahia Farah(1917-1985)はアルジェリア出身の女性歌手。SP両面とも同じ曲のクレジットだが、2面通しての録音ではなく、同一曲を2テイク収録している。どちらもウードのソロ演奏が印象的なのだが、セカンドテイクの目の覚めるようなソロがとりわけ素晴らしい。主旋律を奏で、ウードとのインタープレイも聞かせるクラリネットもいい味を出している。(ファースト・テイクのクレジットでは「シャービ」と明確にアナウンスされている。)
#22. Hadi Nasha Ya Nass(Matrix CPT 7451)
これもレコードを入手できていない謎の録音。まず分からなかったのは、ディスコグラフィーには SP片面分しか掲載されていなかったこと。Matrix ナンバーがひとつだったので、片面盤だったか、あるいは他のアーティストとのカップリングだったのか? だが、YouTube で見つけたこの曲の動画では “Tamra Ya Hilwa” というディスコグラフィー不掲載の曲と繋げてアップされている。推測するに、"Tamra Ya Hilwa" と "Hadi Nasha Ya Nass" が同じSPの両面(おそらくPV116 / Matrix CPT 7451/52)として発売された可能性は考えられないだろうか? そして先のディスコグラフィーからはA面曲だけが抜け落ちたように思えるのだが、果たしてどうなのだろう。
さて、YouTube で聴けるこれら2曲、音は劣悪なのだが、もう最高の内容なのだ。これは何としてもSPを探し出したい。
(参考)https://youtu.be/0yb1iZHCDYI
(続く)
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