Houcine Slaoui : The Father of Moroccan Chaabi <10>

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■現代シャアビとの関係性

 さて、「モロカン・シャアビの父」ホスィン・スラウイが作り上げた音楽は、現代のシャアビといかにして繋がっているのだろうか。センハジ Senhaji やダウディDaudi といったモロッコ大衆音楽のスターたちが歌うシャアビは、どのようにして誕生したのだろうか?

 まず留意すべきは、モロッコのシャアビがこの国の大衆音楽全般を指している点である(シャアビ chaâbiという語自体に「庶民」「大衆」といった意味がある)。シャアビは決してある特定の音楽スタイルを指すものではない。なので、ホスィン・スラウイの音楽が後年のモロッコ大衆音楽全体の礎となったという風には決めつけない方がいい。実際、彼の音楽を今のシャアビと聴き比べても、ずいぶん異なって聴こえるはずだ。

 そればかりか、彼の音楽は20世紀中頃のモロッコ音楽と比べてさえ違いが感じられる。私がモロッコの旅から帰国した後、現地で買い集めた 50〜60年代のモロッコのレコードを集中的に聴いてみたのだが、ホスィン・スラウイの方が、メロディーが豊かで、音楽的バリエーションにも富み、ずっとモダンであるという印象を抱いた。これは彼の才能と先取性がなしたもので、渡仏体験の顕われでもあるだろう。そのため、彼の音楽は20世紀中盤以降のモロッコ音楽とは幾分方向が違っているように感じられる。

 モロッコでは、60年代に入ってからカサブランカにローカル・レーベルが林立し(手元にあるシングルだけでも 14レーベル)、大衆音楽の録音が爆発的に増えた(これは、シェラックを材料とする SP よりも容易に作れるレコード盤の登場がもたらした変化である)。それらのレコードの中には、ホスィン・スラウイと似た演奏がある一方で、ルワイス・スタイルに則った小編成のシンプルなもの、あるいはホスィン・スラウイとは傾向の違ったものが目立つ。恐らく20世紀後半のモロッコ音楽は、ホスィン・スラウイをひとつの参照点としながらも、別の様々な要素をも取り込みながら変化を続け、その中から現在のシャアビに繋がる流れも生まれていったと捉えるべきなのだろう。

 例えば、40年代ホスィン・スラウイがもたらした黎明期 〜 50/60年代の変革期 〜 70年代以降のポップ化、といったように時代区分して俯瞰することも可能かも知れず、そこにモロッコ大衆音楽の変遷を認めることができるように思える。モロッコ各地の広場で演じられていたベルベルの伝統音楽や大道芸から、現代ポップへの橋渡しを果たしたところに、「シャアビの父」たる所以を見てとれるのではないだろうか。

 

(続く)








by desertjazz | 2021-04-10 00:00 | 音 - Africa
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