私がインドネシアのバリ島を最後に訪れたのは、一昨年 2019年12月のことだった(インドネシア15回目/バリ14回目)。目的はバリの芸術を創造したドイツ人画家ヴァルター・シュピース Walter Spies の足跡を辿ること。ご存知の通りヴァルター・シュピースは、現在まで続くガムランの演奏/舞踏形式や絵画の様式を生み出した人物。その彼のアトリエ跡2ヶ所(ウブド Ubud とシドメン Sidmen のイサ Iseh)に実際に宿泊して、彼の眺めた風景や浸った音を追体験しようというものだった。しかし、いろいろ成果を得られたものの、今に至るまでそれらを全くまとめることができていない。まあ、自分が体験することこそが目的だったので、何らかの形にまとめ上げる必要などないとも考えているのだが。
ガムラン、絵画、音楽、食と酒(とりわけ、フルーツとバビグリンとアラック!)、ダイビング、等々と数多くの目的を持って訪れたバリ島なのだが、布に関して探求することも大きな目的だった。布の中でもイカット(絣)が興味の対象で、実は反対にバティックにはほとんど惹かれない。ウブドやクタの店々を訪ね歩いて店主たちと話していると、鍵のかかった金庫を開けて上等のものを出してくるまでになったので、ある程度目が効くと認められるようにはなったのだろう。
さて一昨年暮れのバリでも、アンティーク店などを巡る一方、書店で布に関する文献を探した(これまでにも大量に買っている)。そこで目にした一冊にビックリ! キサールの布が表紙だ! しかも縦横の織りが反対だ!
・Peter ten Hoopen "IKAT TEXTILES of the INDONESIAN ARCHIPELAGO - from the PETER TEN HOOPEN COLLECTION"(香港大學美術博物館、2018)
・・・いや、こう書いても、さっぱり意味不明なことだろう。
インドネシアのイカットとしては、バリ(ダブル・イカットもある唯一の島・・・と書いても分かりませんね)、フローレス、スンバ、スンバワ、チモールなどが有名だが、私がコレクションしているのはキサールのもの。
・・・キサール? ますます意味不明??
キサール島 Pl. Kisar はチモール島の右肩にちょこんと乗るように位置する、とても小さな島。ここで作られた/作られるイカットの色合いやデザインにとても魅力を感じるのだ。特に、まるで宇宙人が踊っているような独特な織りの意匠がとても面白い。
こんな小さな(インドネシア人の大半さえ知らない?)島で織られた布なので、探してもなかなか見つからない。20年ほど前に出会った布は買い集めた。しかし、その数年後には、ある店主に「いい買い物をしたね。今ではもう手に入らないよ」と言われた。実際その頃見かけた唯一の1枚(アンティークではなく、デザインもさほど面白くない)は 1000ドル以上したし、ちょっと良いものになるとネットで 30万円以上で売られていた。
そんな超マイナーなイカットなので、その布を表紙にしているだけでも驚きだった。そして中を開くと、約600ページのうちの何と12ページもキサール・イカットに費やされている。たったの 12ページと思うことなかれ。キサール・イカットに関する資料は本当に少ないのです。
しかもしかも、先に触れたように、表紙の布は織りの方向が縦/横反対なのだ。背景の布と比較して分かるだろうか? こんな織りのキサール・イカットは初めて見た!
この本、キサールに限らず、掲載されている布がどれも実にいい。しかし、ずっしり重くて、ここで買うか迷った。ヴァルター・シュピースに関する新しい文献もかなり重かったので、帰国後にネットで買おうかと。しかし、やっぱり買って持ち帰ることにしたのだった。(往路はビジネス・クラスに切り替えられたが、復路はビジネス満席。手荷物が重量オーバーになるので、現地で着た衣類や新品の電池などはまとめて処分してきた。)
帰国後、早速重量を計ってみたら、何と 4kgもある! これでは重いはずだ。だけれど、イカットに関する書物としては、これまでで最高の1冊なのではないだろうか。そんなわけで、時々美味い酒をチビチビやりながら、掲載されている布を眺めるのがこのところの楽しみになっている。
(続く)
#
(追記)
ここで紹介した Peter ten Hoopen のコレクションがネット上にもあった。例えば Kisar のリストは以下の通り。これから内容をチェックします!
#
#
#