読書メモ:倉沢愛子『楽園の島と忘れられたジェノサイド バリに眠る狂気の記憶をめぐって』

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 倉沢愛子『楽園の島と忘れられたジェノサイド バリに眠る狂気の記憶をめぐって』(千倉書房、2020)読了。

 1965年、インドネシアで同じ国民同士が殺しあった。犠牲者の数100万。まさに狂気のごとき大虐殺。しかし、誰もが記憶しているのに、歴史上なかったことのように、国は振る舞い、人々は暮らす。異常この上ない。

 大虐殺という悲劇は楽園バリも襲う。特に甚大な被害が出たのは、巨竹ガムランのジェゴグ Jegog でも知られるヌガラを中心とした西部地区だった。

 殺された多くは共産党系だったというが、なぜここまでの事態に至ったのか。バリの人たちは時に極端に走る、制御が効かないといったことも耳にするが、それは何も彼らに限った話ではない。やはり背後には、軍と国の思惑が大きく働いていたのだろう。

 これまで事件の詳細を知らなかったことを何より反省させれれたが、それと同時に「やはりそうだったか」と思わせられたのは、「(バリは)慢性的な食料不足と貧困を抱えていた。」(P.041)との指摘。食料豊富な楽園という作られたイメージが、自身にも擦り込まされすぎていた。こうした食糧難、長年蓄積されてきた人々の間の対立や妬みなども、事件の背景にあったことは想像に難くない。

 バリの音楽を愛する者としては、ジェゴグに関して見逃せない記述が2ヶ所あった。PKI(インドネシア共産党)の党員集めにジェゴグが利用されたこと(P.034)。そして、事件後、

「われわれのバンジャルのリーダーはPKI だったので殺された。そしてそののち、われわれのジェゴッグのセットが収納してある建物ごと焼かれてしまった。そのあとしばらくの間、恐ろしくて誰もジェゴッグを演奏しなかった。楽器は焼かれてしまってそう簡単に作りなおすことができなかったこともあるが、まずメンバーに PKI 信奉者が多かったので彼らは全部抜けてしまった。それで楽団は解散し、共産主義を想起させるということで演奏はストップすることになった。」(P.215)。

 とにかく、貴重な証言が積み重なって明かされる壮絶な歴史。だが、インドネシアやバリに興味あるのなら、知っておくべき事実だろう。







by desertjazz | 2021-08-29 19:00 | 本 - Readings
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