徹底研究・ブッシュマンの音楽 2:ブッシュマンの録音 (1)

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■ Music of Bushman - 2 : Records of Bushman (1) ■


◆マーシャル調査隊による最古?のブッシュマンの録音

"Bushman Music and Pygmy Music" (Musée de L'Homme / Harvard Peabody Museum LD-9, 1957?)

 まずは(恐らく)最も古いブッシュマンの録音を聴けるレコードからご紹介。このレコード、現在では入手が極めて困難だろうと思う。しかし幸いなことに、CREM (Centre de Recherche en Ethnomusicologie) によって、アルバム・ジャケット、全ての収録音源、さらにはライナーノーツまでインターネット上に公開されている。


 これは 1946年にフランスの André Didier と Gilbert Rouget が行なったピグミーの録音と、1953年にアメリカの Lorna Marshall が行なったブッシュマンの録音を1枚のレコードに収めたもの。半世紀以上昔に記録された、ブッシュマンとピグミーのほぼ最古の録音をまとめて聴ける貴重かつ便利な1枚。両者の音楽を聴き比べると、互いによく似たところがあるように感じられるのではないだろうか。ブッシュマンの多様なスタイルの音楽が収録されている点も好ましい。またブックレットには、20ページにわたってブッシュマンとピグミーの音楽に関する研究が綴られており、さらに7ページ分の採譜も掲載されていて、彼らの音楽を知る上で有益だ。

 これらブッシュマンの録音を行なったローナ・ケネディ・マーシャル Lorna Marshall は、1950年から61年にかけて、ボツワナとナミビアのブッシュマンを8回にわたり調査した。それらのうちの3回(51年、53〜54年、55年)は、夫と子供達3人を伴って(学者や現地ガイドなどを加えると総勢20名弱)のもので、このブッシュマンの録音は、その2度目の旅行(1953〜54年の1年間、彼女自身にとっては3回目)の時のもの。現在のナミビアの北東部、ボツワナ共和国(当時はベチュワナランド)との国境近くのニャエ・ニャエ Nyae Nyae エリアでクン・ブッシュマン(!Kung Bushman)の音楽をフィールド録音している。

 マーシャル探検隊による録音は6トラックしか収録されていないのだが、これらを聴くだけでもブッシュマンの音楽のバリエーションを感じ取れるのではないだろうか。同封されているブックレットの解説を合わせて読むと、彼らの音楽に対する理解が深まる。

 収録トラックは以下の通り。

A1) karu という根菜を見つけたことを喜ぶ女性の歌。ヨーデル風の高らかな朗唱が何とも美しい。ピグミーの歌と言われたとしても、誰もがそう思うだろう。

A3,4) リードする男と ≠Nisa!na という老女(呪術師)ら3人による歌だろうか? 曲の表題と解説が不一致なのだが、男1人と女2〜3人による複雑なコーラスのように聴こえ、そこにハンドクラップが加わっている。

A6) 「キリン giraffe 」の名のついたヒーリングの儀式 healing ceremony のコーラス。nisa!na という女性を治癒している。夜通し続けられるヒーリング・ダンス(トランス・ダンス)こそが、ブッシュマンの音楽の真髄のひとつ。参加人数は幾分少なく聴こえるが、男声、女声コーラス、手拍子の響き合いが強烈。トランス入った女性の絶叫の凄まじいこと。この12分間は、ブッシュマンに限らず、アフリカにおけるフィールド録音史上、最高級のものとさえ言いたくなる。

B1) これも「キリン giraffe」という名のヒーリング・ダンス。録音はややオフ気味で、再生速度も不安定だが、よりトランシーなブッシュマンのコーラスが記録されている。とにかく、女声コーラスとハンドクラップが生み出すグルーヴが凄まじい。

B4) 少年たちの通過儀礼(イニシエーション)のダンス。これを聴いて真っ先に思い起こすのは、ピグミーが川面をバシュバシュ叩くウォーター・ドラムだ。このリズム感はピグミーとほとんど一緒に聴こえる。やっぱり両者はどこかで繋がっているのではないだろうか? トチ狂ったようにトランシーなのに、急に冷めて終わるのも面白い。

 ローナ・マーシャルが書いた解説のポイントについても少しメモしておこう。

1.ブッシュマンの音楽で主要なのは、歌ものと儀式におけるもの。彼らの歌はほとんど言葉が伴わず、"woe" といったような母音ばかりであるが、アドリブもなされる。使われる楽器は、5弦ハープ、ミュージカル・ボウ、1弦ヴァイオリンなど。(概略は前回の記事で綴った内容と重複する。)

2.クン・ブッシュマンは、空に2人の神がいて、彼らから治癒の歌 medicine song を与えられたと信じている。彼らの歌には力強いもの(エランド eland、キリン giraffe など)の名前がつけられる。(*エランドは大型のレイヨウ類)

3.少年へのイニシエーション "choma" というものもある。

4.ピグミーの集団コーラスは狩の歌 hunting song である。一方、ブッシュマンのコーラスは治癒のセレモニー curing ceremony で、トランスが伴う。そこが両者の違い。(*女性コーラスなどの共通点はあるが、そもそもの目的が異なるという指摘は重要。この点をもっと探求したい。)

 ところで、マーシャル調査隊には録音技師も帯同していたらしい。だとすれば、カラハリでの録音がたったこれだけとは考え難い。他にも残っていると思うので探し出したいのだが、一体どうすれば見つけられるのだろうか?

 ローナ・マーシャルはこのレコードの解説の他にも、代表作 "The !Kung of Nyae Nyae" など、数々の文献を残している。しかし、それら以上に知られており、かつ読み応えあるのは、彼女の娘エリザベス Elizabeth Marshall Thomas が書いた "The Harmless People" だと思う。この本の紹介は次回。


*1)
 ローナ・マーシャルの名前、レコードでは Laura とクレジットされているが Lorna が正しい。

*2)
「 ! 」は4つあるブッシュマンの代表的クリック(舌打ち/吸着音)のひとつを表す記号。口腔の上部に舌をつけ弾いて発音する。この「ポン」と鳴らすクリックの音は、例えばミリアム・マケバの歌に親しんだ方なら耳にお馴染みなことだろう。(詳しい解説は後日)

*3)
 録音は 1954年であり、レコードのリリースは 1955年だった可能性も考えられ、現在確認中。

*4)
 ブッシュマンとほぼ交互に収録されているピグミーの録音は、コンゴ北西部ウエッソ Ouesso エリアの Babenzele と Bangombe のものである。

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*5) ブッシュマンとピグミーの抱き合わせ盤がもう1枚あるが、これは未聴/未入手。

"Pygmées & Bochimans"(CBS 80212、1976)

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by desertjazz | 2022-02-02 00:00 | Sound - Bushman/San

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