徹底研究・ブッシュマンの音楽 7: ブッシュマンの録音 (5)

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■ Music of Bushman - 7 : Records of Bushman (5) ■


◆ナミビアのクン・ブッシュマンの CD:Buda 盤

 私はボツワナを2度旅し、その国に広がるカラハリ砂漠も訪れたからだろうか、ブッシュマンはボツワナの狩猟採集民であるという思い込みが強い。もちろん彼らがナミビアや南アにも住んでいることは知っていたが、観光客向けに半ば見世物にされている姿の方が印象に残っていて、どうしても「ブッシュマン=ボツワナ」と考えてしまいがちだった。

*1)
 ブッシュマンが皮のパンツ一丁になって観光客の見世物になっていることについて、前回少し批判的に触れたが、そのような「観光化」はボツワナ西部のハンシー Ghanzi 周辺でも始まっていることに気がついた。そのことは次の記事をご参照ください。


 だが、今回ナミビア録音の CD をまとめて聴き直してみて、ナミビアのブッシュマンの音楽の豊かさに今更ながら心を揺さぶられた。中でも仏オコラが制作した2枚は、とりわけ素晴らしいと思う。振り返ってみると、アナログ LP 時代の録音にもナミビアのクン・ブッシュマンの録音はいくつかあったし、マーシャル調査隊が訪ね歩いた土地も半分はナミビア側だった。ならば、それも当然と言えば当然のことだった。


"Namibie : Bushmen et Himba" (Buda 92632-2, ca1996)

 1994年12月から 95年1月にかけて、ナミビア北東部で、Manuel Gomes ?らが行った、ヒンバ Himba、ブッシュマン、オヴァンボ Ovambo の録音(写真とライナーが Manuel Gomes たちによるものなので、録音も彼らが行なったと推測される。CD のリリース年は記載されていないが、おそらく 1996年)。

 全24トラック中、16トラックがヒンバのもので、ブッシュマンのものは7トラックのみ。ミュージカル・ボウ、親指ピアノ、女性3人のコーラスなどを収録している。

 この CDジャケットに写る4弦楽器が、E・M・トーマスの『ハームレス・ピープル 原始に生きるブッシュマン』で描かれた「グアシ」なのだと思う(楽器のボディは金属缶のように見える。昔は木をくり抜いてボディを作っていたが、この頃にはすでに方形の金属缶が多くなっていたのだろうか。その写真から推測するに、元々は5弦だったことも分かる)。


◆ナミビアのジュホアンシ・ブッシュマンの CD:Ocora 盤(1)

"Namibie : Chants des Bushmen Ju'hoansi" (Ocora C 560117, 1997)

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 仏オコラからリリースされたジュホアンシ・ブッシュマンの録音集2枚のうち、こちらは「ヴォーカル・ミュージック編」。1995年4月〜12月の間に、Xahoba と Auru という2つの村(いずれも人口100人ほどの集落のようだ)で録音されている。

 ジュホアンシ(Ju/'hoansi または Ju|'hoansi)は、ボツワナとナミビアにまたがるエリアで暮らすクン・ブッシュマン(!Kung Bushman)の、ナミビアでの別名あるいはひとつの系統だと思ったのだが、どうも両者は一緒ではないらしい(現在、参考になる文献を探している)。ジュホアンシのヴォーカルやコーラスを聴くと、これまで聴いてきたクンの音楽とは結構違っていることに気がつく。これはブッシュマンの音楽の地域的多様性を示すもので、ジュホアンシの音楽に対して俄然興味が湧いた。

*2)
 [ / ] または [ | ] はクリックを表す記号。この CD はクリック表記を省略している。

 仏語/英語/独語で併記された Emmanuelle Olivier による詳細な解説は、まずナミビアのブッシュマン、ジュホアンシの歴史で始まる。現在のナミビア北東部の半砂漠地帯に暮らしてきた彼らは、1950年代末までは完全に狩猟と採集だけに依存したノマドに近い生活を営んでいた。それが、政府(当時は南ア)により農業労働者として使われたり、ナミビア独立闘争では戦士として駆り出されたりしたことで、狩猟・採集を止めることになった。それでも、1989年、独立によって解放され、彼らは自分の土地に戻って行ったとのことだ。

 続いて解説はヴォーカル・ミュージックの分析に移る。詳しくはじっくり読んでいただきたいが、理解しきれなかったことがひとつ。「よく比較対象とされるピグミーの音楽とは異なり、ジュホアンの音楽はポリフォニックと呼ばれるものではない」というように書かれているが、これはどういうことだろう?

 収録音源は 20トラック、たっぷり1時間。それらは、イニシエーション The Initiations、日常生活 Day Life、遊び Games、狩り The Hunt、治癒(ヒーリング)Healing、夕暮れ At The Close Of The Evening というテーマ群に分類される。これまで紹介してきたブッシュマンのコーラスは、トランス・ダンス(ヒーリング・ダンス)と女性たちの娯楽としてコーラスがほとんどだったが、ここで聴ける歌はそれ以外のものが大半。ヒーリング・コーラスがわずかに2トラックだけなのである。しかもそれらは様々な表情を見せ、とても聞き応えがある。

 それだけに、ジュホアンシの音楽が、他のブッシュマンのものとは相当に違っていることが分かる。実際、これまで使用例を聴いたことがない楽器が加わっていたり、男女が一緒に?コーラスしていたり、穏やかで静かなコーラスがあったり(解説を読むと、一つは子守唄だった)と、実に面白い。

 それでいて、ヨーデル風のコーラスはまるでピグミーのそれのようだ。やはり両者は大昔には繋がっていて、音楽的にも同根を持つのではないか、などということをまた考えてしまった。

 また、ここで聴けるコーラスは、ボツワナでの諸録音と比べると参加している人数が少ないように聴こえる。これはひとつの集落で関係性を保つ人々の単位が小さくなっていることを物語っているのだろうか?


◆ナミビアのジュホアンシ・ブッシュマンの CD:Ocora 盤(2)

"Namibie Bushmen Ju'hoansi - Musique Instrumentale" (Ocora C 560179, 2003)

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 オコラによるナミビア盤、こちらは同じジュホアンシ・ブッシュマンの「インストゥルメンタル編」。1995年から2001年にかけて、Auru (||Auru)、Xamsa、Xaoba (||Xa|oba) という3つの村で採録されている。

「ヴォーカル編」と同様、これも Emmanuelle Oliver 執筆の解説が大変充実している(ただし、本盤は仏語と英語のみ)。その内容を紹介し始めるとキリがないので、これもまずはご一読を(自分自身もまだじっくり読んでいるところ)。

 アルバム冒頭、4弦ハープ状の楽器の録音が数トラック続く。楽器名称の記載はなく、「pluriarc」(プリュリアーク/ bow lute)としか書かれていないが、これもグアシに違いないだろう。柔らかな音色、クリックたっぷりな軽やかな歌が実にいい。

 他には 22キーの親指ピアノ、9キーの親指ピアノ、ハンティング・ボウ(=ミュージカル・ボウ?)などを収録するが、グアシ(プリュアーク)のトラックが多い。この CD のジャケットにも5弦のグアシを演奏する若者の写真が用いられている。それだけこの楽器が、ジュホアンシを代表するものだということなのだろう。



 今回取り上げたこれら2枚のオコラ盤、ライナーノーツの資料性は高いし、収録トラックも興味深いものが選ばれていて、録音状態も良い。他の地域/時代のブッシュマンとの違いがいくつも垣間見られて比較対象音源としても貴重だ。何より無心に耳を傾けて聴いているだけで心地よい。今でも割と入手しやすい CD を選んでブッシュマンの音楽を楽しむならば、まずはこの2枚がオススメ(YouTube などでも聴ける)。とにかく聴きどころたっぷりです!






by desertjazz | 2022-02-07 00:00 | 音 - Africa

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