徹底研究・ブッシュマンの音楽 9: ブッシュマンの録音 (7)

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■ Music of Bushman - 9 : Records of Bushman (7) ■


クラーク・ウィーラーによる21世紀の録音(2):CD 収録トラック

"When We Were Free: Bushman Music of Botswana" (Bushman Music Initiative no number, 2017? )

(前回からの続き)

 クラーク・ウィーラー Clark Wheeler が制作したこのアルバムには、全部で 14のトラックが収録されている。2006年と 2008年にボツワナ西部のハンシー Ghanzi 近郊の3ヶ所で再録されており、内訳は以下の通り。

 ・Grootlaagte の Ju'hoansi:Tr. 5,
 ・D'Kar の Naro:Tr. 9,
 ・Bere の !Kung:Tr. 1, 2, 3, 4, 6, 7, 8, 10, 11, 12, 13, 14


Tr. 1 - Cgale ("The Wildebeest")

 女性2人によるミュージカル・ボウ dandedere(この楽器は女性だけが弾く)の演奏と歌。その様子について解説に詳しく書かれている。一人が地面に伏せたボウルの上に竿を立て、金属スプーンで弦を叩く。もう一人がボウルを上げ下げすることで、ボウルと地面との隙間を変化させて「ワウワウ」効果を生み出しているとのこと。

Tr. 2 - Ckham ("The Gemsbok")

 総勢25人からなる Bere のグループのによるトランス・ダンス。焚き火を囲んで座った女性たちがコーラスしながら手拍子を打ち、その周りを男性たちが回るという解説は、他のアルバムの時に書いたのと一緒。手拍子は6つのビートからなり、4つのメロディック・パターンを繰り返すため、24ビートのサイクルになっている。

Tr. 3 - Mat'ana Ca Ah ("I Talk To You")

 Xlaka Leneke という名前の女性が zoma という4弦楽器を弾き語る。写真を見ると、ナミビア(クン・ブッシュマン)のグアシと同様な楽器であることがわかる。弾き語りの声を聞いて男性かと思ったら女性だった(グアシは4弦または5弦であり、zoma も4弦ないし5弦であることからも、2つは同じ種類と考えて間違いなさそうだ)。

Tr. 4 - Dear ("The Ostrich")

 Bere のトランス・ダンス(トラック2の続き)。このアルバムは随所で Bere のトランス・ダンスを挟む構成になっている。

Tr. 5 - Qdwa ("The Giraffe")

 親指ピアノの弾き語り。ブッシュマンの親指ピアノは「ドンゴ dongho」と呼ばれることが多いが、セントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブ CKGR 周辺では「デンゴ dengho」あるいは「デング denghu/dengu」が一般的なようだ。複雑なポリリズムを奏で、運指が想像つかない親指ピアノと、幾種ものクリックたっぷりな歌。本人はリラックスしているのだろうが、非常に精神集中した歌と演奏のようにも聴こえる。11分に渡るこの録音は、このアルバムで最高の聴きものだと思う。

Tr. 6 - Nqabe Chwe ("The Giraffe")

 これも Bere のトランス・ダンス。

Tr. 7 - Nqabe ("The Giraffe")

 女性による親指ピアノの弾き語り。親指ピアノはアフリカのどこでも男性の楽器だが、このタイプの親指ピアノを女性が演奏するのは珍しいのではないだろうか。

Tr. 8 - Qoma e Chweye ("The Honeybee")

 男性による親指ピアノの弾き語り。そこにもう一人が歌を添えている。本来ひとりでつま弾いて楽しむものだったのが、こうして2人で歌い演奏しているところに時代の変化を感じる。

Tr. 9 - Tcibi ("The Dove")

 8人の D'kar のグループによるトランス・ダンス。リードする男性の歌声が実に力強い。

Tr. 10 - Exai Saku Xai ("Let's Visit Our Friends")

 トラック3と同じ Xlaka Leneke による zoma の演奏。残念ながら残響が大きく、室内で録音したようで、やや不自然に聞こえる。ブッシュマンの定住集落ではブロック造りなどのしっかりした建物も建てられていて、おそらくはそうしたものの内部で録音したのだろう。屋外だと人が集まったりなどして、録音するには条件が悪かったのだろうか?

Tr. 11 - Ckham ("The Gemsbok")

 これも Bere のトランス・ダンス。

Tr. 12 - Nqabe Chwe ("The Giraffe")

 男性が演奏するミュージカル・ボウ。ワイヤーを使って中間部で軸と弦を絞り込み、弦を二分することで2つの音を出す構造など、楽器と演奏方法について詳しく解説されている。これも室内での録音のようだ。

Tr. 13 - Ckham ("The Gemsbok")

 これも Bere のトランス・ダンスである。

Tr. 14 - Manatose ("What Is The Problem?")

 最後も Xlaka Leneke がつま弾く zoma。本来は女性たちがスイカ(ツィマ・メロン)を投げ合って遊ぶスイカ・ダンスの歌だが、それをモチーフにしたものだと書かれている。音色といいメロディーといい、アイヌのトンコリを連想させることが興味深い。
 


 このアルバム、コーラスも含めて歌い手と演奏者全員の名前がクレジットされている。そのような丁寧な仕事ぶりに、制作者クラーク・ウィーラーのブッシュマンたちに対する愛情を感じた。






by desertjazz | 2022-02-09 00:00 | 音 - Africa

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