徹底研究・ブッシュマンの音楽 10: ブッシュマンの録音 (8)

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■ Music of Bushman - 10 : Records of Bushman (8) ■


クラーク・ウィーラーによる21世紀の録音(3):ヒーリング・ダンスのアルバム

 クラーク・ウィーラーは CD "When We Were Free: Bushman Music of Botswana" に先駆けて、2枚のアルバムをリリースしている(ただし、デジタル・ダウンロードのみ)。

"Revolutions of Spirit: Bushman Dance Part One" (Bushman Music Initiative no number, 2013)
"Revolutions of Spirit: Bushman Dance Part Two" (Bushman Music Initiative no number, 2013)

 これら2枚はボツワナ西部の Bere に暮らすブッシュマンたちのヒーリング・ダンス(トランス・ダンス)のみをまとめたもので、全部で 27トラック(28曲)収録している。そのため、彼らのコーラスのバリエーションをたっぷり堪能できる内容となっている。

 ただ、折角このようなアルバムを作るのなら、コーラス部分のみを抜き出すのではなく、一連の流れをなるべく無編集なまま長時間収録して欲しかった。カラハリでヒーリング・ダンスを目の前で見てきた体験に即して言えば、コーラスがブレイクする合間のやり取りも興味深い。コーラスとブレイクを繰り返しが、聴いていて実に面白いのだ。そうした一連の流れ全体をじっくり聴くことによって初めて、彼らのヒーリング・ダンスの本質を捉えることができると考える。

 ブッシュマンのヒーリング・ダンスは、そのように歌の合間に何度も何度も休み(インターバル)を挟みながら、夜通し続けられる。そのインターバルでは、様々なやり取りが交わされ、その中で誰かの合図で、あるいは自然派生的にまた次のコーラスが始まる。コーラスだけでなく、そうした合間のやり取りも含めたものが一夜の治癒行為であり、また彼らも時間の経過全体を楽しんでいるように見える。なので、ヒーリング・ダンスの録音はある程度長いものを聴けば、それだけ理解が深まるはずだ。

 しかし、ヒーリング・ダンスの様子は、言葉でいくら説明しても正確には理解できないことだろう。可能ならば、映像で実際の動きを見ることが望ましいと思う。そのための良い映像資料は、どこかにあるのだろうか。


*1)
 文化人類学者、野澤豊一さんの言い方に倣えば、ヒーリング・ダンスにおいて、コーラスがなされる部分のみを切り出して鑑賞することは音楽を名詞として捉える「表象主義」に近く、コーラス間のインターバルも含めたシークエンス全体を注視することは、音楽を動詞として捉える、つまりはクリストファー・スモールが主張するところの「ミュージッキング(音楽すること)」の観察と言えるのではないだろうか。
(参考:『音楽の未明からの思考 ミュージッキングを超えて』収録の野澤豊一「序論・音楽の力(パワー)を未明の領域に探る」(アルテスパブリッシング、2021))



 これまでにも何度か書いてきたが、ブッシュマンたちが夜更かしすることは意外だった。カラハリ砂漠のブッシュマンの集落でキャンプ中のこと。夜は暗いし、寒いし、することもないから、彼らはさっさと寝てしまうのだろうと思っていた。だが、そうではなかった。

 夜、焚き火を囲んで会話を楽しむ姿を度々目にした。また、ある夜のこと。若者3人が懐中電灯を貸してくれと言ってくる。何に使うのかと思いながら手渡すと、しばらくしてウサギを捕まえて帰ってきた。何でも、懐中電灯の明かりで目くらまして捕まえたとのことだった。

 そして、焚き火を囲んで歌い叫び踊る、圧巻のヒーリング・ダンス。これは朝まで延々続けられるという。明け方まで休まず踊るなんて、まるでオールナイトで踊る現代人と一緒。いや、クラブ・カルチャーのルーツはブッシュマンだった?なんて妄想まで頭に浮かんでくるのだった。



 ブッシュマンたちの音楽は、特別な楽器を使っているわけでもなく、一聴とても素朴でシンプルなものである。ひとりでつま弾く演奏などは、各人の楽しみであり、自身の内面と対話しているようでもあり、それが生きる上で心の支えになっているようにも感じられる。また、濃密に音が重なり合うヒーリング・ダンス(トランス・ダンス)は、聴いているこちらまでもトランスに誘われるようなほどに強烈だ。

 彼らの音楽はさりげないようでいながら、じっくり聴くととても複雑であることに気がつく。そしてそれは遠く離れて暮らす私の心も揺さぶる。そんなブッシュマンの音楽、もっと知られて欲しいと思います。


(「Houcine Slaoui の徹底研究」に続いて、今回も誰も興味を持たないだろうと思いながら始めた「徹底研究・ブッシュマンの音楽」、レコード紹介を中心とする第1部はここまで。次回からは視点を少し変えて、もうしばらく続けることにします。)







by desertjazz | 2022-02-10 00:00 | 音 - Africa

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