読書メモ:デコート豊崎アリサ『トゥアレグ―自由への帰路』

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 デコート豊崎アリサ『トゥアレグ―自由への帰路』(イースト・プレス)を読了。


 友人のアリサが書き上げた初の単著であり、私自身も砂漠を愛するひとりなので、これはすぐに読みたい。そう考えて、公式発売日の前日3月16日に開催された出版記念会に駆けつけ、著者本人から直接購入した。

 この本は、アルジェリア、ニジェール、マリといった西アフリカ諸国の砂漠での彼女の旅や体験を集大成した内容。特にトゥアレグの人々との心温まる(そして時には緊張混じりの)交流を中心に綴られている。

 まず、これまで思い違いしていたことが3つ。ひとつは彼女の国籍。ふたつ目は、アフリカへ通う頻度。彼女がアルジェリアで砂漠のラクダ・ツアーを運営していたことは知っていたが、それは極めて不定期で稀なものだと勘違いしていた。反対に彼女はアフリカ各地に頻繁に足を運び、しかも極めて特殊な旅を繰り返してきたのだった。アフリカに何度も通い、これほどまでにアフリカと深い関係を築いて来たのを知ったのは驚きだった。

 そして、そうしたアフリカ旅行/アフリカ取材は、自ら資金集めに奔走するなどの苦労の末に実現させてきたことも初めて知った。「アリサは資産家のお嬢さんなのでしょう?」と時たま聞かれることがあったが、そう思う人が多いのなら多分そうなのだろうな、くらいにしか考えていなかった。これが3番目の誤解。

 そんなアリサの綴る文章は、砂漠に恋する感情に溢れている。それも、普通は行けない土地を訪ねたり、常識外れな方法だったりして、ワクワク、ハラハラさせられっぱなし。また、しっかりした調査に基づいて書かれているので、これまで知らなかったアフリカの様々なことについて知ることもできた。なので、この作品は最高レベルのアフリカ紀行書と言えるだろう。文章がとても練られていて、しかもとても読みやすいことにも驚かされた。

 困難な旅の数々を実現させたのは、行きたい、見たい、会いたい、知りたい、体験させたい、そして広く伝えたい、そういったアリサの熱意があったからこそだろう。そしてそうした彼女のまっすぐな気持ちが、多くの旅人を砂漠に誘うことにもつながっている。

 そのように前半は、彼女と一緒に砂漠歩きを楽しむ気分で読んでしまうのだが、中盤を折り返すあたりから様相が暗くなって行く。ジャーナリストに転じたアリサが伝えるのは、悲惨な現実の数々。砂漠の奥地でも凄惨なテロが頻発し、激烈な環境破壊が進む(それには日本も責任があるというのは、衝撃的事実だ)。アリサはそれらを命がけで取材する。

 西アフリカの国々に分断されて暮らすトゥアレグ人(個人的には「族」という呼び方は好まない)の描写も読み応えがある。基本情報がしっかりしているのに加えて、近年、狂信的イスラムとトゥアレグ人との対立関係や、欧米や日本からはトゥアレグ人もテロリストとみなされることとなってしまった理由についても、とても分かりやすく整理して書かれている。(それを踏まえて、ジョシュア・ハマーの名著『アルカイダから古文書を守った図書館員』も読み直したくなった)。

 危険極まりない場所を重ねて取材するために、入念な準備をし、現地入りを果たし、見事な取材成果に結びつけたアリサは本当に凄いと思う。困難に立ち向かっていく好奇心と行動力に感服する。そして、そのような彼女の行動が人々や社会を動かしていることも、大きな驚きだった。

 終盤に進むに従い内容は重くなるが、それでも随所に挟まるドジな逸話や失敗談には失笑させられ、気分が軽くなる。また、ティナリウェンやタミクレストのメンバーたちとの個人的交流についても随所で書かれているので、「砂漠のブルース」を愛好する人にとっても読み応えある内容だろう。

 とにかく凄い1冊だ。ここ数年で読んだ中でもベストのひとつだった。


 以下、余談。

 個人的にも仏語圏アフリカ(旧フランス植民地)を数回旅したことがあるが、アリサの本を読んで、そうした国々で深い旅をするにはフランス語は必須だと改めて痛感した。その点でもただのアフリカ好きには真似できない旅の記録だった。また、アフリカには男性しか入れない場所が多い一方で、女性であることが有利な面もあったのだろうか?とも思った。しかし、周囲の理解と協力を得て旅を実現させたものは、何にも優って彼女の「人間力」だったのだと思う。(実際、昔の白黒写真を見ても、女か男かわからないし。いや失礼! 実際のアリサはとても魅力的な女性です。)

 読み終えてやはり一番に思うのは、「またアフリカの砂漠に行きたいなぁー」ということ。かつて、カラハリ砂漠でブッシュマンたちとキャンプ生活し、(トゥアレグと同様な)岩塩を運ぶラクダ・ツアーの取材目的で滞在したエチオピアのダナキル(アファール砂漠)でもキャンプし、サハラも体験したくなり、その外れのモロッコの砂漠でラクダに乗って短い旅をしたことが懐かしい。アフリカの砂漠のどこでも、独特な空気感や、毎夜満天を埋め尽くす星々の絶景が忘れられない。2020年には、ボツワナのカラハリ砂漠を再訪し、それからブッシュマンの古代壁画で有名なツォディロ・ヒルズを経由して、ナミビアのナミブ砂漠まで旅する計画を立てていた(が、新型コロナの世界的流行もあって断念した)だけに、なおさらだ。

 ところで、終盤にアリサの結婚話が登場する。その頃、「アガデスで結婚式をあげる」と聞き、「行っていい?」とアリサに尋ねると「いいよ!」と返事をもらった記憶がある。これはニジェールの砂漠を訪ねる絶好のチャンスだし、おそらく盛大で独特な儀式も見られるだろうと考えて、日本からの行き方などを調べたことがあった。しかし、その記憶はここで書かれていることと時系列的に矛盾する。これは記憶違いなのか? 何れにしても、私がそうした結婚式を見られる可能性などなかったことを、彼女の本を読んで知ったのだった。






by desertjazz | 2022-03-26 20:00 | 本 - Readings

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