読書メモ:陣野俊史『魂の声をあげる 現代史としてのラップ・フランセ』

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 陣野俊史『魂の声をあげる 現代史としてのラップ・フランセ』読了。大いに参考にさせてもらった『フランス暴動 移民法とラップ・フランセ』(2006)の続編的内容で、今回も知るところがとても多かった。


 フランスのラップ(とその周辺の音楽)の成り立ち、彼らの放つメッセージと音楽的魅力、そして社会的な位置付けについて詳説する。数多くのアーティストを取り上げており、その生い立ちから、聴き手や周辺世界と関係性、現在抱える問題まで、かなり詳しく論じられてる。おかげで、これまで漠然と聴いてきたものの全体像を把握できた。一冊の本からこれだけ教えられるとは、感謝しかない。ラップに限らず現代フランス音楽に関心ある方には絶対的にお薦めだ!

 フランスのラップはそれなりに聴いてきたつもりだが、フランス語が分からず音の響きだけ聴いて楽しんでいた。それが、これを読んで歌詞や経歴を知り、理解がぐっと深まった。手元にある所有盤の確認などをしながらだったので、一読するのに時間がかかってしまったのだけれど。しかし、初めて知ることが実に多く、これからも繰り返し読むことになるだろう。それにしても大した情報量と熱量だ。一体どれだけの時間と精力を傾注されたことだろう。

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 読み始めて即座にこうツイートした。
 「硬質な文体がもろに自分好みで、冒頭から引き込まれた。」

 研ぎ澄まされた短文。
 無駄ない簡潔な表現。
 多用される体言止め。
 重要フレーズの反復。

 そこにリズムが生まれる。
 バックビートが響き出す。
 文章そのものがラップしている。

 そのことに、遅れて気がついたのだった。

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 以下、読後雑感(というか余談)。

 フランスのラップはアフリカ系が気になる。それらの中で 113(サントレーズ)は割とマメにフォローしていた。3人組 113 の一人、モコべ Mokobe の "Mon Afrigue" はミュージックマガジンの企画「アフリカ音楽の30枚」に入れるか最後まで迷った。

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 アフリカ系では、ブルンジから逃れたガエル・ファイユも。話題となった自伝的小説『ちいさな国で』も勿論読んだ(最新アルバムの暗いジャケットが彼の心を表しているようで、なんとも印象的だ)。

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 著書で紹介されているラッパーのうち、ライブを観たのは、アイアム IAM(シュリケンはソロでも)、アブダル・マリク、バロジ、グラン・コール・マラッドくらいか。アブダル・マリクは(兄と2人で?来日した)日仏で観た。アンコールを受けるも「もう演る曲がない」と言って、同じ曲を披露したのだった。その時だったか、関係者から「次はストロマエを呼びたい」と言われたが実現せず。さすがにもう無理か?

(IAM はまさか日本で観られるとは思わなかったなぁ。そのライブも盛り上がったし。その直前、ジャーナリストであるマルセイユの知人から「IAM のメンバーは友人だから、会う段取りつけますよ」と連絡をいただいたが、迷わず遠慮した。会っても何を話していいか分からなかったので。)

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 昔マルセイユのフェス Fiesta des Suds でシェブ・マミに会えることになり、フェスのプレジデントに挨拶&インタビューした後(だったかな?)、バックステージで待っていたら、アディダスのウェアを着て杖をつく長身の男が立ち話をしている姿が目に留まった。やがてその男がステージに現れるも、ずっとブツブツ話し続けるだけ(その合間、ストリングス・カルテットが時折サウンドチェックのように音を奏でる)。30分待っても始まらないので諦めて会場を後にしたが、それがグラン・コール・マラッドの「スラム」というスタイルであることを後で知った。ライブで耳にして退屈と感じた音(呟くようなフランス語の語り)も、今では馴染んで楽しめるのが不思議だ。

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(ちなみにシェブ・マミは待ち合わせの前日に性犯罪容疑で逮捕されていて、当然会場には来なかった。折角のチャンスだっただけに残念! その夜のステージには、近くをツアー中だったスシーラ・ラーマンが急遽呼ばれてメインアクトを務めた。この重大事にも何とかしてしまう、フェスのスタッフもスシーラたちもすごい。深夜、ホテルに戻ると、そのフロントで彼女と鉢合わせ。「大変な1日でしたね」と声をかけると「長年やっていると色々なことがあるわよ」とあっさりしたものだった。)

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『魂の声をあげる 現代史としてのラップ・フランセ』を読んで、オレルサンやアンジェルが人気な理由もやっと知った。そのオレルサンや IAM が武士の格好をしたりなど、日本との繋がりも注目すべき点かも?

 振り返ってみると、初めてフランスに行ったきっかけが、マルセイユのマグレブ移民たちのラップの取材だった。凄惨なテロの現場となったパリのバタクランには、営業再開して数日後に訪れ、犠牲者たちを悼みながらライブステージを見つめた。そんなことを思い出しつつ、陣野氏の2冊を読み直しながら、フランスのラップをもっと色々聴きたくなっているとこだ。

 それと、フランス語圏のラップとしてはセネガルに強く興味を持っている。どこかに良い文献はないだろうか? また探してみよう。



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by desertjazz | 2022-05-28 17:00 | 本 - Readings

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