読書メモ(最近の読書から)

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 高野秀行『語学の天才まで1億光年』。笑いと真面目な分析とのバランスも良く、抜群に面白い。誰もが絶賛している内容については省略して、個人的に興味を持ったことをひとつ。

「この言語でいちばん面白かったのはリズムだ。「ン」や「ム」で始まる単語がひじょうに多い。」「このンやムで始まる単語の多用はバントゥ諸語の特徴だ。そして、この言語グループの民族はリズミカルな音楽をことのほか得意とする。普通に会話しているだけで、ンタタ・ンタタ・ンタタ・・・と音楽で言うところの裏打ち(裏拍)のリズムを刻んでしまうのだから、」(P.52)

 なるほどと思いつつ、のなか悟空『アフリカ音楽探検記 民族の大地の野生セッション』(情報センター、1990)の次の記述も思い出した。

「そういえばアフリカの地名でもンバララ(Mbarara)ンバサカ(Mbasaka)・・・のように最初にMで始まる無声音が多い。たとえば「ンバンダカ」を、どうせ「ン」は発音しないからといって、省略して「バンダカ」と言ってしまえば間違いなのである。」「この無声音は16分休符のようにもとれる。これが彼らのウラ拍やアーフタクトの感覚と共通しているとも言えなくないと思う。」(P.174)

 チャドの首都が「ンジャメナ」だったり、ジンバブウェのショナ人の親指ピアノが「ンビーラ」と呼ばれたりと、確かにアフリカ各地には2拍目にアクセントの来る言葉が多い。こうした言語の特徴と彼らの裏拍リズムとは深く関係しているように思える。

 そういえば、以前に菊池成孔さんの本で「テオ・マセロがマイルス・デイヴィスの曲を編集した際、冒頭あえて1拍目を切って裏拍から入った」というようなことを読んだ記憶がある。あれは、どの本、どの曲だったかな? イントロのカッコ良さだけは印象に残っている。

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 ピーター・レイビー『博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスの生涯』を読み始めたら、面白くて一気読み。ウォレスに関する書籍は読み漁ってきたが、なぜかこの本はまだ読んでいなかった。ウォレスといえば、アマゾン川流域とマレー諸島を広く調査・生物収集し、その旅の過程で自然選択を思いつき、ウォレス線を発見したことが有名。だが、心霊現象を信じて傾倒したり、盛んに社会活動を行ったりした後半生についてはよく知らなかった。


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 チャールズ・ダーウィンはウォレスのアイディアを盗んで『種の起源』を書いたと告発する本(アーノルド・C・ブラックマン『ダーウィンに消された男』など)があって、少々印象が良くなかった。だが、『ウォレスの生涯』を読む限り、2人は互いを尊敬しあい、長年交流を続けてきたようだ。


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 ついでにダーウィンの『種の起源』も読んでみた。とにかく、長い! 回りくどい! しかし我慢して最後まで読んでみたら、自分なり自然選択の仕組みがイメージできて、これまで理解が及ばず疑問に思っていた点も結構解消された。そして、適者生存の仕組みから洞察されるダーウィンの指摘の鋭いこと。ウォレスのアイディアを盗んだとしても、短期間で、これだけのデータを並べて厚いものを書き上げ、そこにこれほどの発想を埋め込むことなど不可能だったに違いない。


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 ウォレスの旅行記『マレー諸島』は大好きで繰り返し読んだ。そして読む度にインドネシアをゆっくり旅したくなるのだ。ダーウィンは『種の起源』があまりに有名だが、彼の旅行記『ビーグル号航海記』も昔読んで面白かったな。


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 人類進化に関する本では、篠田謙一 『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』はやや期待外れ。古い化石もDNA検査が可能になったというのは画期的だ。だが、人類移動の過程を類推する説明が毎度腑に落ちなかった(理解できなかった)し、各章とも最後は「よくわかっていない」というような結び方(まだまだ化石資料が足りない現時点ではそれも当然なのだろうが)。それと、「ます」「います」で終わる文があまりに多すぎて、文章のリズムが悪く読みにくかった。(個人的には読んでいてイライラするレベル。校正段階でどうにかならなかったのだろうか?)

 シュレーディンガー『生命とは何か 物理的にみた生細胞』も最近になって読んだが、現代の感覚からするとロジックに無理を感じるのだけど。

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 復刻刊行の始まった「世界探検全集」、最初にハインリヒ・ハラー『石器時代への旅』を買って読んだ。現在のインドネシアの一部であるニューギニアが舞台であることもあって。だが、正直なところ記述が退屈に感じられ、読み終えた後すぐに売ってしまった。続いてマンゴ・パーク『ニジェール探検行』を読み始めたのだが、こちらもなかなか進まない(現在まだ3分の1)。それでこれは後回しにして、今、デイヴィッド・リヴィングストン『アフリカ探検記』を読んでいるのだが、こちらはサクサク進む。先の2冊は日記体の構成なのだけれど、そうした作品には限界があるのだろうか(昔ミシェル・レリス『幻のアフリカ』を読んだ時も結構難儀した)。それに対して、ウォレスの『マレー諸島』やリヴィングストンの『アフリカ探検記』は後日再構成されているので、無駄がなく読みやすい。


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『アフリカ探検記』を先に読んでいるのは、カラハリ砂漠とブッシュマンについて書かれているためでもある。思うところがあって、最近カラハリとブッシュマン(サン)に関する文献を集めて読み込んでいる。そのことに関しては、また改めて。


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 岩波『世界』で8月号から始まった連載、中村隆之「ブラック・ミュージックの魂を求めて」

「第1回 アフリカの口頭伝承、その叡智と音文化」。書き出し、初心者/一般向けのように見せ、9ページと短いものだが、まとまり良く筋の通った論考で、復習かつ参考になった。
「第2回 奴隷船上の歌」。アレックス・ヘイリー『ルーツ』が懐かしい(文庫は今でも持っている)。歌がアメリカに伝わることに女性たちが果たした役割や、奴隷船上での反乱についてはよく知らなかったので、興味深かった。参考文献のマーカス・レディカー『奴隷船の歴史』にも興味を持ったので、図書館から借りてきたが、かなりの文字数なので読み通すのには時間がかかりそうだ(『女奴隷たちの反乱』はなかった)。


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 最近は小説をさほど読んでいないが、J. M. クッツェー『ポーランドの人』とミシェル・ウエルベック『セロトニン』は楽しめた。またまたダメ男の話かと思いきや、どちらも一風変わった純愛小説? 男が女性心理をこう描くとは、小説家としてのクッツェーの力量を感じた。リチャード・ライト『ネイティヴ・サン』は読んでいてヒリヒリしっぱなし。

 ちなみに 2023年上半期に読んだベスト3は、ロバート・コルカー『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』、沢木耕太郎『天路の旅人』、オルハン・パムク『ペストの夜』。高山博『ビートルズ 創造の多面体』も良かった。


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by desertjazz | 2023-08-26 15:00 | 本 - Readings

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