高野秀行『イラク水滸伝』読了。570ページ以上ある厚い本だが、面白くて2日半で読み終えた。
『語学の天才まで1億光年』もそうだったが、独創的な旅の記録であると同時に、学術的にも内容が濃い(一方は歴史学/文化人類学として、もう一方は言語学として)。そうした両面を語り尽くしたいと思うから、これだけ厚い本になるのだろう。それでも文章が読みやすく、改行も適度になされているのでサクサク進む(余談だが、改行を工夫することで読みやすくしている点、堤未果にも同様なことを感じる)。
高野本人が「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」と語っている通り、彼の本は、毎度着眼点はいいし(全く誰も思いつかないようなものばかり)、見つけたテーマをとことん掘り下げる。著者自身が「これはどういうことだろう?」と抱いた疑問について、徹底的に調べて納得したいのだろう。だから、大量に文献を読み、専門家や出身者を探して聞き、そして現地に足を運ぶことになるのだ。
今度の旅も想定外の事件やトラブルの連続で、それがイラク南部湿地帯への探求を深め、結果として本を抜群に面白くしている。また、いつもと同様に食に対する好奇心も十分に満たしてくれる。個人的に強く興味を惹かれたのは、偶然出会ったマーシュアラブ布(アザール)。これは貴重な大発見であり、また重要な調査報告でもあるだろう。個性的な意匠や配色の美しさを目にして、たっぷり楽しませてもらった。
『謎の独立国家ソマリランド』を読んだ時もそうだったが、今回も描かれる国に対する見方が決定的に変わった。知らない国のことを、真面目な研究と(一見)くだらない笑い話とをバランスよく配しながら、想像力も働かせつつ描き出す筆力はさすがだ。特に興味のなかったイラクにも行きたくなってしまった。
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