スターバンドのファースト・アルバム (IK 3020) はラテンやアフロキューバンの有名曲のカバーが中心で、長年セネガルの人々が抱いていたキューバ音楽への熱情が反映されているように感じる。それに対してセカンド・アルバム (IK 3021) で印象的なのはタマとトランペットの音だ。ンバラの特徴のひとつとしてタマの打音が挙げられるが、ンバラ誕生の萌芽が70年代前半のスターバンドのサウンドの中にも感じ取れる、そのような見方もできるのかもしれない。ンバラはユッスー・ンドゥールが一人で作り上げたものではないとしばしば言われるが、確かにその通りだろう(ジャケットのデザインはタマを演奏する男で、これはアルバムのサウンドを象徴するデザインだと思う。残念ながらセカンドプレス?では、なんとも酷いイラストに入れ替わってしまったのだが)。
前回の記事ではファースト・アルバムのクレジットのいい加減さを指摘したが、セカンドも同様である。ファーストの裏ジャケットに記載されているのは8人、セカンドは9人で、そのうち重複しているのは Maguette N'Diaye、Malick Ann、Badou Diallo の3人だけ。いかにメンバーが流動的だったかを読み取ることができそうだが、そう簡単には判断できない。このアルバムでも、セカンドプレスやレコード盤面のクレジットとの食い違いが散見されるからだ。なので割と適当に名前を並べただけのような気もする。
記載不一致のひとつが "Yene Khaleyeteye" のヴォーカルとして、ファーストプレスの裏ジャケットに名前のない Bala Cidibe がクレジットされていること。これはオーケストラ・バオバブのオリジナル・メンバーのひとり、バラ・シディベ Bala Sidibe のことだと今頃気がついた。声は間違いなくバラ・シディベだが、その歌いぶりは単調でまだまだ未完成と感じる。また、このトラックは他の収録曲とは雰囲気が幾分か異なるように感じる。
知られている通り、スターバンドはメンバーが少しずつ入れ替わって発展したグループではない。ギャラを渋るオーナーのイブラヒム・カッセと対立したメンバーたちが、一度に大量脱退することを繰り返したと言われる。そのため、クラブ・ミアミに出演するバンドが入れ替わっても、その都度スターバンドと呼んでいたようなのだ。
アルバムからもそうした事情が読み取れる。"Star Band Vol.5" とみなされている5枚目 (IK 3024) は、Orchestre Laye Thiam の単独盤で、それ以前のアルバムとはメンバーの重複はない。同様に "Vol.6" (IK 3025) は Orchestre Chihk Tall et Idrissa Diope の単独盤(実質的に Le Sahel と同じバンドだ)。そして、"Vol.7" (IK 3026) のA面は Orchestre Laye Thiam、B面は Orchestre Saf Mounadem による録音である。これら3枚のオリジナル・アルバムには元々 Star Band という表記は一切ない。Star Band とタイトル付けされるのは、星形の共通デザインでリイシューされた時である。
この後の "Vol.8" からラストアルバムの "Vol.12" までの5枚 (IK 3027〜3031) は、そうした代理バンドではない本来のスターバンドに戻る。ヴォーカリストとしては、ユッスー・ンドゥールやラバ・ソッセー Laba Sosseh がクレジットされている。
長くなったが、スターバンドの初期の4枚と後期の5枚はアルバム単位で考えて作られたものではなく、カッセが録音したものの中から適当に選んでアルバム化したものではないかと類推している(録音場所はいずれもクラブ・ミアミだろう。セカンドの音の響きは明らかにライブハウスのそれであるし、4枚目には一瞬拍手も混じる)。そう考える根拠はクレジットのいい加減さだ。またユッスーとラバ・ソッセーが一緒に活動していたこともあり得ないので、後年のアルバムは様々な時代の録音の寄せ集めだろうと考える("Vol.9" にもユッスーがクレジットされているが、このアルバムのどの曲もユッスーは歌っていないというのは、そもそもおかしいと思う)。
もうひとつの理由は、同じアルバム中でも曲ごと楽器編成が異なっていたり、サウンドに違いが感じられたりすることだ。その最たる例が、先に取り上げたバラ・シディベがリードヴォーカルの "Yene Khaleyeteye" である。アルバムの他の曲と比べると、歌と演奏の成熟度にも違いが感じられる。
"Vol.7" の Orchestre Saf Mounadem のメンバーとして、バルテレミ・アティッソ Barthelemy Attisso、Balla Sidibe、メドゥーン・ジャロ Medoune Dilallo、イッサ・シソッコ Isssa Cissoko の4人がクレジットされている。彼らは 1969年までミアミでプレイしていたものの(イッサは 60年代にラバ・ソッセーのグループ Laba Sosseh et son Orchstre Vedettes Band に在籍し、曲によってはアレンジも担当していた。その縁でミアミでプレイするようになったのだろう)、新しく生まれたクラブのバオバブに引き抜かれてカッセの元を離れた。そのためこのレコードはオーケストラ・バオバブのファースト・アルバム(初録音)とも見なされている。しかし、"Yene Khaleyeteye" も同じメンバーで録音がなされた可能性もあるのではないだろうか(ギターの音などからは判断がつきかねるが、後年のバオバブを思わせるサウンドも感じられる)。しかもこちらの方が古い録音だとすれば、これこそバオバブの初録音ということになるのだけれど。実際はどうなのだろうか?


(Angouleme, France 2003)
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さて、3枚目と4枚目では、タマに加えてワウワウギターやトランペットが活躍し、よりンバラのサウンドに近づいた印象を受ける。そうした続きの話はまたいつか改めて。
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