気まぐれで Star Band de Dakar の最初の4枚のアルバム(Vol.1〜4)を久々にじっくり聴いたら、新たな発見が多くて興味深い。その流れで、続く「代理バンド」(Orchestre Laye Thiam、Orchestre Cheikh Tall et Idrissa Diope、Orchestre Saf Mounadem)の3枚(Vol.5〜7)、さらには後期の5枚(Vol.8〜12)も聴き直してみた。
これら Star Band の LP 12枚を "Vol.1"〜"Vol.12" と呼ぶようになったのは、後年になって便宜的になされたことに過ぎない。Miami Club と Star Band のオーナーだった Ibrahim Kasse がリリースしたオリジナル盤は、初期の4枚も後期の5枚も全てタイトルは "Star Band de Dakar" という表記のみで、副題もヴォリューム番号もない。また、それらの間に挟まる形でリリースされた3枚もバンド名が掲げられているだけで、Star Band とはどこにも書かれていない。実は "Vol. xx" とヴォリューム付けされたのはリイシュー盤のみで、それらも Vol.5、6、7、10 の4枚しか見たことがなく、他にもあるかどうかは不明である。
前回までに取り上げた Vol.1〜4 の録音時期もリリース年も定かではないのだが、代理バンドの3枚についても同様である。それでも今回資料をいくつか拾い読みしてみたら、推測が進み、少しずつ謎が解け始めてきた。
ライナーノートなど各種資料に書かれていることを総合すると、Star Band de Dakar のメンバー変遷は概ね次のようにまとめられるだろう。
1960〜64年: Dexter Johnson、Laba Sosseh らが中心メンバー(バンドリーダーは Dexter)。 彼らは 64年に脱退し Super Star de Dakar を結成。
1968〜70年: Orchestre Saf Mounadem(Barthélémy Attisso、Issa Cissokho、Bala Sidibe 他)が Star Band として活動。メンバーの大半は 70年に脱退し Orchestre Baobab を結成。
1970〜76年: Papa Serigne Seck、Yakhya Fall、Doudou Sow、Mar Seck らが中心メンバー。アルバム Vol.1〜4 の収録トラックの多くがこの時期のものだと考えられる。76年に脱退したメンバーが Star Number One を結成。
1976〜78年: Youssou N'Dour、Mar Seck らが中心メンバー。Youssou 含めた多くが 78年に Etoile de Dakar を結成。Mar Seck は Orchesta Number One de Dakar(Star Number One から改名)に合流。
1978〜80年、84〜95年: 1971年に加入した Papa Fall は 80年に一度離脱するも、84年に復帰。Ibrahim Kasse が 1992年7月12日に亡くなった後は、Kasse Star と改名し、解散まで率いる。
「代理バンド」3組のうち Boabab の前身グループ Orchestre Saf Mounadem のメンバーたちは 68?〜70年の間、Star Band に在籍していたとはっきり書かれているものもあるのだが、Saf Mounadem と Star Band のどちらが彼らの正式グループ名だったのかはっきりしない。Teranga Beat 盤 CD "Vaganode" (Teranga Beat TBCD 018) に掲載された Mar Seck の証言によると、集団離脱前のメンバーは、Aly Penda Ndoye、Rudi Gomis、Balla Sidibe、Issa Cissokho、Medoune Diallo、Barthelemy Atisso、José Ramos、Harrison、Bob Armstrong らで、リーダーは Barthelemy Atisso だったという。"Vol.7" には4人のメンバーしかクレジットされていないが、60年代末の時点で Baobab のラインナップはほぼ出来上がっていたようだ。69年または70年の録音と考えられる "Vol.7" で聴ける3曲は、メロディーには後年耳馴染むことになったフレーズが感じられ、またいかにもバオバブらしい演奏で、往年のバオバブ・サウンドがこの時点でかなり完成していることがうかがえる(1975年頃にはサイケなサウンドやファンクも演奏するなど、バオバブの音楽性はかなり広い一方で、同じ曲の再演もとても多い)。
分からないのは "Vol.5" (IK 3024) と "Vol.7" (IK 3026) のA面に収録された Laye Thiam と彼のグループの経歴である。Orchestre Laye Thiam は1960年ごろから活動していたように書いているものがあり、またリーダー/トランペット奏者の Abdoulaye Thiam (Laye Thiam) は1965年ごろ Star Band に在籍していたとも書かれている。だとすれば、64年に Dexter Johnson や Laba Sosseh らが抜けた後、Laye Thiam たちが穴埋め的に Star Band を 引き継いだのだろうか。しかし、溌剌としたオルガンの演奏が印象的なサウンド(カッコいい!)は、アフロキューバンに軸足を置いた Star Band のイメージからは結構離れている。Laye Thiam が Vol.8〜10 にクレジットされていることも謎である(Youssou 時代まで残っていたということなのだろうか)。
"Vol.6" (IK 3025) の Cheikh Tall et Idrissa Diope の録音時期や Star Band との関わりも分からない。彼らは 1975年ごろに名作を多く録音しているので、70年代のミュージシャンだと漠然と思っていた。一方で彼らが関係する Le Sahel や Xalam (un) は60年代末から活動していたらしい。だとすると、"Vol.6" は Le Sahel や Xalam に先駆ける時代の録音なのかもしれない。あるいは、Orchestre Laye Thiam も彼らも、Star Band とは全く別のグループだったのだろうか(アルバムには Star Band とは書かれていないことでもあるので)。Idy Diop(Idrissa Diope)が残したアルバムは 70年代の重要作ばかりでもあり、事実関係が気になる。
「Star Band 研究(2)」で明らかにした通り、彼らのファースト・アルバムには Orchestra Baobab などで活躍するアルトサックスの Thierno Koite が参加していた(彼は今でも Baobab でプレイしている)。Star Band について調べていくだけで、セネガルの音楽シーンの人の流れや、音楽的な影響関係が見えてきて実に興味深い。みんなどこかで繋がっていたんだなぁ。
(他にも興味深い事実が次々判明しているのだが、今回も長くなったので、後期の5枚のことなど続きは改めて。)
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