思い焦がれていた Octave V80SE をとうとう買ってしまった。ドイツ製のこのアンプ、恐ろしいほどに音がいい!
今から20年近く昔のこと、当時はまだ秋葉原にあった Soundcreate で Octave のプリアンプ HP-300 をたまたま試聴する機会があった。その音を聴いて、真空管を使ったアンプでロックがこんなに綺麗に楽しく鳴るのかと驚いた。しかし簡単に手が出せるような値段ではない。当時の価格は ¥720000 だっただろうか。それでもこの時以来、いつかは Octave をと思い続けるようになった。
Octave は 2016年にプリメインアンプのフラッグシップモデル V80 を V80SE にヴァージョンアップ。音も聴かずにこれに惚れてしまった。ハイエンドオーディオショップでも音楽雑誌でも軒並み大絶賛だったこともあるが(キックバックあるのかと穿ったほど)、新たに導入した真空管 KT-150 の可愛らしい卵型フォルムが単純に気に入ってしまったのだ。
2021年7月に自宅のアンプを更新する時に、V80SE も候補に挙げたものの、あまりに高くて諦めた(その後も、世界的な材料不足と円安の影響を受けて値上げを繰り返し、現在は発売開始時より 80万円以上高くなって、ちょっとした自動車並みの価格)。結局、予算を考慮して選んだのは Luxman L-507uXII だったのだが、このアンプはとても良い。アンプのグレードを上げるだけで、これだけ音が激変/向上するのかと感動した。しかも購入して2年が経ち今だに日々音が良くなっていく(購入店では本当に良くなるのは3年後だと言われた)。なので現状に全く不満はないのだが、あえて言えば音が綺麗すぎる。なので、ハードなロックやジャズだと力強さが足りない印象だ。L-507uXII に買い替えて、アンプで音が格段に良くなることを知ってしまい、アンプのグレードをさらに上げるとどうなるかという興味も膨らんでいた。
そんな最中、毎日チェックしている Soundcreate のサイトに V80SE の中古情報が。それもかなり格安の値段で(瞬間ウソ?と思ったほど)。評判が良いからだろうか、V80SE の中古は滅多に出ないし、出ても高い。そこですぐにメールで問い合わせ。このアンプ、何と買ってから3年少々で、しかもあまり使っていないために超美品だという(どうしてこれほど価格を下げられたかの理由も興味深かった)。MC Phono 内蔵なのも理想的。そこで、ギリギリ出せる値段だったので、思い切って買ってしまった。オプションの強化電源 Black Box の中古も入荷しており、こちらもかなり安くして下さったので、合わせて購入した。
真空管アンプを購入するに際して、懸念していたことがある。それは出力管 KT-150 などがロシア製であること。だが確認すると KT-150 などは今でもある程度流通しているようだった。Triode のように KT-150 を使った新製品を出すくらいだから、まず大丈夫だろうと判断した。いずれにしても、予備の真空管を買っておこうと思う。
その V80SE/MC Phono + Black Box が、先日14日に自宅に到着。中古品なので宅配便で送られてくるのかと思ったら、お店の方が自らお持ち下さり、据付と結線を行い、B&W 805D4 での試聴まで2時間お付き合い下さった。その間、いろいろ有益なアドバイスをいただいた。
そしてここ数日試聴を続けているのだが、L-507uXII より数段格上の音。そして音のカラーもかなり違う。まず音の立ち上がりが非常に速い。キックもスネアもベースもハイハットも、ズシッ、パシッとインパルスの鋭い音なのだ。また重心の下がった力強さも大きな魅力である。それでいて高域もしっかり出ている。ハイハットの響きからは L-507uXII より高域が伸びているように感じる。綺麗さで言っても L-507uXII 以上だ。Luxman の綺麗さが柔らかく美しいものなのに対して、Octave はよりクリアな綺麗さ。クリアすぎるくらいなので、Luxman の柔らかく細やかに伸びる余韻はないかもしれない。それでも自分の耳が数十歳若返ったのではないかと錯覚するほどだ。
実は V80SE は何度か店頭で試聴したことがあったのだけれど、その時には良さが分からなかった(オーディオは自宅の環境で聴かなければ判断がつかないと思っており、実際毎度ほとんど試聴せずに買っている)。また L-507uXII の上品な音を聴いた後では、これ以上のクオリティーの音も想像できなかった。だが、これだけ音が良くなるとは衝撃的。しばらくは2台のアンプを聴き比べるつもりでいたのだけれど、その必要はないだろう。もう Octave からは戻れない。
V80SE の内蔵 Phono EQ も素晴らしい。普段使っている Trigon Vanguard II から繋ぎ換えてみたら、数秒聴いただけではるかに良いと判断できた。40年以上前に買ったレコードや数百回聴いたレコードも新鮮な音に聴こえる。V80SE 恐るべし。
さらに驚いたのは、Soundcreate さんが試聴用に持ってきて下さった SAEC のラインケーブルに繋ぎかえた時の音。B&W 805D4 はウーファーが小さいので低音はそれほど出ないのだろうと考えていた。だが、SAEC にすると低音がたっぷり、しっかり鳴る。まるでサブウーファーを使っているかのような鳴り方だ(これは CD 再生した時で、アナログの時には流石にそこまでの低音は出ない)。
V80SEは性能が高い分、ダイナミックレンジが広くなったように感じる。ただ、アンプもスピーカーも高域が伸びているだけに、その両者がバッティングするのか、時々ざらついて聴こえたり、「シ音」をキツく感じたりすることもある。とにかく CD とアナログレコードの何を聴いても、元々はこうした音だったのかという発見があって今まで聴いてきた音は何だとかと考えてしまう。ただし、スワヴェク・ヤスクウケ Sławek Jaskułke やティグラン・ハマシャン Tigran Hamasyan のピアノ・ソロのような幽幻なサウンドには L-507uXII の方が向いているようにも思う。
連続出力 120W x 2/最大出力 150W x 2 というのは、一般家庭で聴くには大きすぎではないかと懸念していた。実際ボリュームが9時でもうるさいくらいで、ヌルポイントから1メモリ強上げたレベルで聴くことがほとんだ。しかし、小さな音で鳴らしても、重心の太さ、アッタクの速さ、全体的な力強さは変わらず、このアンプの利点を十分に感じられた。深夜にボリュームを絞って聴いても、ベースがくっきり浮き立って聴こえるのは快感である。
Octave V80SE と B&W 804D5 というのは、現在、世界最高のプリメインアンプと世界最高のブックシェルフスピーカーの組み合わせのひとつだろう。なので、自宅のアンプとスピーカーに関しては、これでひとまず「上がり」だろう。その一方、これらとのバランスを考えると、再生機(アナログ、CD、ファイル/ストリーミング)のグレードも同等のものに上げたくなる。レコード再生時にはヴォーカルなどの中高域が幾分痩せているように感じられ、また高域が若干ギスギスして聴こえることが気になっているのだが、これはアンプよりもアナログプレイヤー側に起因しているのかもしれない。ターンテーブルのグレードを上げれば改善するのだろうか? さてどうするか、現在、思案・検討しながら相談中。
その前に、オーディオに興味のある友人たちを招いて、一緒にいろいろ試聴してみたい。Octave のアンプが音声信号に何か色付けしているような印象も受けるのだが、これだけの音を聴かせられると、これまで持っていた音楽/音への概念が覆された思いを抱く。ホント何を聴いても、まるで目の前で生演奏を聴いているように生々しい。こんな音体験を友人たちと共有したい!
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自分の今の年齢を考えると、これからは耳が衰える一方だろう。自分より若い 40代 50代のかつての仕事仲間たちが毎年のように亡くなっていき、自分もあと何年生きているのかと考えてしまう。そして、円の価値が急速に失われていき、日本の未来にも希望が持てない。最近相談させていただいたオーディオの専門家には「メンテも含めて考えると、オーディオは車よりも安いでしょ」と言われ、確かにそうだと思ったりも。例えば、生涯にレコードを1万枚買ったとして、費用は2000万円ほど。その1割〜2割程度をオーディオに費やすことで、それらの音楽を良い音で楽しめ、そして音楽観までもが変わるのだ。そうしたことを重ねて考えると、手持ちの資金は意味あることに積極的に使っていこうという気になった。これはそんな自分のための退職祝い&クリスマスプレゼントとなった。
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