素晴らしいデビュー長編『素数たちの孤独』ですっかりハマってしまったイタリアの小説家、パオロ・ジョルダーノの新作『タスマニア』を読了。
今回のテーマは原爆? 気候変動? そのようなことは予想していなかったのだが、物理学者らしく、興味深い科学情報が随所に折り込まれ、ストーリーの中で微妙に結びついていく面白さがあって、今回も楽しませてもらった。
舞台はフランスやイタリア、カリブ、さらには日本へと行ったり来たり。やたらと地名、通り名、店名、ホテル名、料理名などが出てくるので(まるでウエルベックの小説みたいだ?)、その度にネット検索/Google Map 検索。そのためか、次第に旅行日誌を読んでいるような気分にもなってくる。いつもと比べて何かおかしいと感じていたら、最後にネタ明かし。やはりそうだったのか(ネタバレになるのでこれ以上は書かない)。ただし、その分だけ小説としての味が削がれているようにも思うのだが。
そのような作品なので、『素数たちの孤独』や『天に焦がれて』のような、ある種の切なさのようなものを求めて読むと、その期待は裏切られるかもしれない。
この作品は著者の新たな挑戦であり、世界的なパンデミックの中で『コロナの時代の僕ら』を著した影響も大きく作用していることだろう。また著者自身が心の避難場所を求めているようにも感じられた(しかしどうしてタスマニア?)。
全体的に不要と思われる細かな記述が散見され、また最終章は弱いとも感じた。しかしそれらは彼の挑戦の結果であり、また著者の真摯さと生真面目さの表れでもあるのだろう。
(全くの偶然なのだが、オーストラリアでタスマニアのワインを堪能して帰国し、友人がタスマニアを旅行中(トレッキング中)に、この小説を読み終えた。)
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余談になるが、パオロ・ジョルダーノの出身地トリノには昔、1996年に一度だけ滞在したことがある。憶えているのは、雪をいただいたアルプスの美しい眺めと、薄焼きのピザが美味かったことと、あるレストランのこと。
美味い店がどこにあるかはドライバーに訊けという格言の通り、土地勘のないトリノでも乗ったタクシーで「美味いレストランは?」と訊ねた。紳士風のそのドライバーが薦める店に予約を入れ開店時刻に行くと、入り口付近のテーブルに全く同じ赤ワインが50本ほど並べられ、しかも全て栓が抜かれている。それだけ店が自信を持っているワインということなのだろう。実際、その後にやってきた客は誰もがそのワインを飲んでいたし、迷わずそのワインを選んだ私たちも本当に美味しいと感じた。もちろん料理も抜群に美味しかった。ドライバー氏に感謝!
レストランの名前は La Capannina、ワインの銘柄は Dolcetto D'alba。ネット検索すると公式サイトがすぐに見つかった。この店は今も続いているようだ。
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