加藤文元『数学の世界史』を読了(この著者は『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』を読んで知ったのだが、この本も刺激的だった)。大部分が以前から知っていることあり、また同じ内容の繰り返しも多いので、割とさらっと読めた(それでも、最終盤の第15章で取り上げられる集合論〜多様体〜圏論にかけては全く知識を持っていないため理解を超えていたが)。
四大文明の中で萌芽したそれぞれの数学が、時代が進むに従ってどのような花を開かせていったかを、具体的な設問を例示しながら丁寧に解説していく。数学がいかに歴史そのものとリンクしていて、さらには地域性を持って進化したかが分かりやすく描かれており、そうした過程が実に興味深い。ただ、古代ギリシャの論証数学が「運動」を否定していた(物が動くことを認めない)という意味はよく分からなかった(それがその後の長年間、ギリシャなどで数学の進化を妨げる一方で、別の形での前進をもたらすことにもなったようなのだが)。
それにしても、一体どの様にしてこのような解法を思いついたのかと嘆息することの連続。しかしそれらも突発的な思いつきではなかったのだろう。個人的には若い頃にニュートンの微分積分の発明(この本では「発見」となっている)を知った時に知的に興奮したものだが、それにも古くからの伏線があり段階を踏んで生まれたことだと認識した。
簡潔に書くと、「数字の数学」と「図形の数学」の間での揺れ動きが繰り返され、両者が背中合わせの概念であることから、2つが一体化することで近代の数学が完成し、さらに実体イメージの湧かない抽象的空間概念とでもいうべき論理に突き進んでいく。そんな長いストーリーを振り返ってワクワクさせられた。
読み通して思うことは、社会や国の発展には数学(に限らず学術全般)の進化が不可欠であったということ。古来より為政者が計算術や測量などに必要な学術を振興した国ほど強くなっていったのは当然だろう。その点、今の日本は国として教育に力を入れていない(教育の無償化をせず、奨学金制度も貧弱で、大学予算もどんんどん削減する)。これでは国力は衰えるばかりだし、実際それが今加速している。政府や大企業が目先の利益しか追わないという姿勢は、取り返しのできない自滅行為だと思う。
さて次は、ボケ防止を目的に、山本義隆『磁力と重力の発見』に戻って続きを読もうか。それとも最近復刻して話題の(超難解な)ヨハン・ルードヴィッヒ・ノイマン『量子力学の数学的基礎 新装版』に挑戦しようか。学生時代に量子力学を学んでいたので、今読んでどれだけ理解できるかにも興味がある。
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