Jazz in South Africa : Kippie Moketsi - His Biography & Recordings

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 これまでにも何度か書いたが(この記事 New Discs : South African Piano とか)、近年充実した内容のリイシューが続いていることもあって、最近は南アフリカ共和国のジャズをよく聴いている。そうしたリイシューの中で特に嬉しかったのは、Pat Matshikiza - Kippie Moketsi "Tshona!" が 2022年に再発されて、ようやくヴァイナルで聴けたことだ。1曲目のタイトルトラックなどは、パット・マチキザ(・・・というカタカナ表記でいいのかな?)の奏でる金属質な高音が特徴的なピアノのリフレインに乗って、キッピー・ムケツィが気持ちよくアルトサックスを吹いている。そんなキッピーのプレイをもっと聴きたくなって、同時期にリイシューされたもう2枚も買ってみた。これらもなかなかいい。

(*以下で取り上げるレコードとCD のレーベル、ナンバー、リリース年は基本的にオリジナル盤のもの。)

・Pat Matshikiza - Kippie Moketsi featuring Basil "Mannenberg" Coetzee "Tshona!" (as-shams/The Sun GL 1796, 1975)
・Pat Matshikiza "Sikiza Matshikiza" (as-shams/The Sun GL 1857, 1976)
・Kippie Moketsi - Hal Singer "Blue Stompin' " (as-shams/The Sun GL 1912, 1977)

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 キッピー・ムケツィが参加した作品は他に何があっただろうかと考えながら、自宅の棚を漁ってみたら結構あった。しかも名盤揃い。しかし彼が演奏していることを認識していなかったり、すっかり忘れてしまっていたものも多いことを反省。南ア・ジャズのレコードやCDを買い集めていたのは、アフリカ音楽を聴き始めた 30年以上前の頃だから、まあそれも仕方ないだろう。南ア生まれのジャズ・プレイヤーというと、ダラー・ブランド Dollar Brand(後年、アブドゥーラ・イブラヒム. Abdullah Ibrahim と改名)やヒュー・マセケーラ Hugh Masekela、あるいは Blue Notes のメンバーなど、後年欧米で活動した人たちをまず思い浮かべてしまうし、サックス奏者に限っても個人的にはドゥドゥ・プクワナ Dudu Pukwana やウィンストン・マンクンク Winston Mankunku などの方が馴染みがある。それでキッピーのことを意識して聴くことが少なくなっていたのだろう。


 キッピー・ムケツィの経歴を軽く振り返ってみよう。

 Jeremiah "Kippie" Morolong Moeketsi は 1925年7月27日、ジョハネスバーグ生まれ。音楽一家に生まれ育ち、11人兄弟の末っ子だった。Morolong は鳥の名前で、彼の母は鶏を追うように「Kippie, Kippie, Kippie」と声をかけながらどこかに行ってしまった彼を探したことから、Kippie という愛称が付けられたのだそうだ。

 キッピーは20歳でクラリネットを吹き始める。彼が最初に属したグループは The Band in Blue という名前で、彼らは黒人居住区の酒場シェビーンで演奏していた。

 その後、Shantytown Sextet、Harlem Swingsters などに在籍。演奏楽器もアルトサックスに変え、Dollar Brand, Hugh Masekela, Johnny Gertze, Jonas Gwangwa, Makaya Ntshoko と The Jazz Epistles を結成する。

 彼はアメリカのビバップから大きな影響を受け、特にチャーリー・パーカーに傾倒していた。ダラー・ブランドにセロニアス・モンクの音楽を紹介したのもキッピーだそうだ。

 南アにおいて人種差別が厳しくなり、それに起因する対立が続いた60年代、ジャズ・ミュージシャンが相次いで国を離れていったが、彼は国内にとどまり続けた。ミュージカル『キング・コング』で外遊した時にも亡命という選択肢は取らなかった。

 キッピーはチャーリー・パーカーに憧れていたこともあってか、奔放な生き方をしただけにトラブルも多く、また酒に溺れる生活を続けていた。そのためだろうか、若くして亡くなっている。命日は 1983年4月27日、享年57だった。

 キッピー・ムケツィは南ア最高のサックス奏者とさえ言われるほど評価が高い。例えば、Gwen Ansell による南ア・ジャズの研究書 "Soweto Blues: Jazz, Popular Music & Politics in South Africa" (Continuum, 2004) を開いても、その中ほどで彼について十分なページをさいて書かれている(Jonas Gwangwa、Pat Matshikiza、Pops Mohamed などなどのミュージシャンたちが語るキッピーの思い出についてもたっぷり)。

 また、Peter Esterhuysen による "Kippie Moeketsi: Sad Man of Jazz (Life Stories S.)”(Viva Books, 1995) という伝記も南アで出版されているが、こちらは未見(中古本を見つけたが、わずか 72ページで 1万円以上するので手が出せない)。


 この機会に自宅にあるレコードやCDをチェックして、キッピー・ムケツィを聴けるアルバムを気がついた範囲で洗い出してみた。

◇The Band in Blue
◇Shantytown Sextet
◇Harlem Swingsters

 これら初期に参加していたグループの録音は見当たらない。おそらくレコーディングする機会はなかったことだろう。

◇Shanty City Seven
・'Unoya Kae (= Where's He Going?) ' (1953)

 この録音は Harlequin の Jazz And Hot Dance シリーズの11枚目で聴ける。

・V.A.”Jazz And Hot Dance In South Africa 1946-1959” (Harlequin HQ 2020, 1985)

◇Dolly Rathebe
・'Tlhapi Ke Noga' (1954) *
・'Ke Ya Kae Le Bona' (1954) *
・'Kitty's Blues' (1954) ***

 ドリー・ラテーべは名門ハーレム・スウィングスターズの人気女性歌手だった。

◇Jazz Maniacs
・'Weekend' (1956) ***

 ジャズ・マニアクスは 1940年代?に Solomon "Zulu Boy" Cele が結成した編成大きめなジャズ・グループ(この録音は11人編成)。彼らはシェビーンで主にマラービを演奏していた。

◇The Jazz Dazzlers
・'De Makeba' (1958) * ***
・'Makambati' (1958) *
・'Hamba 2' (1958) *
・'Hamba Gwi' (1960) **
・'Fika Swanee' (1960) **
・'Fuduwa' (1960) **

 ジャズ・ダズラーズはテナー奏者のマッカイ・ダヴェーシェ Mackay Davashe をリーダーとして結成。マンハッタン・ブラザーズのバックバンドとして結成されたと書いているものと、ミュージカル『キング・コング』のために結成されたと書いているものがある。

 ドリー・ラテーべ、ジャズ・マニアクス、ジャズ・ダズラーズの録音は、それぞれ以下のCDで聴くことができる。
・V.A. "Township Swing Jazz Vol.1" (Gallo AC 53, 1990) ・・・(*) のトラックを収録
・V.A. "Township Swing Jazz Vol.2" (Gallo AC 54 1990)・・・(**) のトラックを収録
・V.A. "Drum: South African Jazz and Jive 1954-1960" (Monsun MSCD 9.01092 O, 1991) ・・・(***) のトラックを収録

◇The Manhattan Brothers
・'Tula Ndivile' (1954)
・'Thaba Tseu' (1954)
・'Ntyilo Ntyilo' (1954)
・'Manyeo' (1954)

 マンハッタン・ブラザーズは南アを代表するコーラス・グループで、ミリアム・マケーバ Miriam Makeba も在籍したことがある。これらのSP録音は次のコンピレーション CD でリイシューされた。キッピーはクラリネットのみを演奏。
・"The Very Best of the Manhattan Brothers" - Their Greatest Hits (1948-1959)" (Sterns STCD 3013, 2000)

◇King Kong
・The King Kong Cast "King Kong - All African Jazz Opera" (Gallotone GALP 1040, 1959)

 ボクサー「キング・コング」を主人公とし、彼の非業の死までを描いたミュージカルのオリジナル・サウンドトラック。このミュージカルにはミリアム・マケーバも出演しており、1961年にはロンドン公演も行われた。キッピーは、アルトサックスの他に、オーケストレーションとアレンジメントでもクレジットされている。

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◇The Jazz Epistles
・"Jazz Epistle - Verse 1" (Continental Records CONT 14, 1960)
・"Jazz In Africa - Volume One" (Kaz Records KAZ CD 24, 1992)

 ジャズ・イピスルズは南アで初めて誕生したビバップ・バンドで、ダラー・ブランドやヒュー・マセケーラなど後年の重要人物たちによって結成された。彼らのアルバムは解散直前に制作された "Jazz Epistle - Verse 1" 1枚だけで、このLPは南ア最初のジャズ・アルバムと言われている(1990年にCD化)。"Jazz In Africa - Volume One" は "Verse 1" のトラックを中心に(1曲だけ未収録)シングル曲を加えた編集盤CD。
 これらを聴くと、確かにストレートなビバップという印象が強く、南アというよりはアメリカのジャズを聴いている気分になる。

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◇Gideon "Mgibe" Nxumalo
・"Jazz Fantasia" (Renown – NLP 233, 1962)

 ピアニスト/ビブラフォン奏者、ギデオン・ンクシュマルを中心とするメンバーたちがウィットウォーターズランド大学で行ったライブの録音。このアルバムも 2019年にリイシューされた。

◇Chris McGregor & The Castle Lager Big Band
・"Jazz / The African Sound" (Gallotone/New Sound, 1963)

 南ア・ジャズの大名盤にして、私が最も好きなアフリカン・ジャズのレコード。ここに参加したメンバーたちが Blue Notes を結成し、亡命後にロンドンを中心に活躍することになる。

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◇Dollar Brand
・"Dollar Brand + 3 wiith Kippie Moketsi" (Soultown, 1973)
・"Black Lightning" (As-Shams/The Sun SRK 786138, 1976)

 亡命状態だったダラー・ブランドが 1968年に帰国し、1976年に再び祖国を離れる間に行われたセッションのうちの2つにキッピーが参加している。ダラー・ブランドのこの時期のアルバムは入手困難だったが、大半のトラックは 1980年代末にLPとCDでリイシューされた。それらの音源は日本でも再構成して CD4枚分リリースされ、"Dollar Brand + 3 wiith Kippie Moketsi" の全4曲は"African Sun" で、"Black Lightning" のうちの3曲は "Tintinyana" で聴くことができる。

・Dollar Brand (Abdullah Ibrahim) "African Sun" (Century 25ED6037, 1989)
・Dollar Brand (Abdullah Ibrahim) "Tintinyana" (Century 25ED6038, 1989)

 いずれも珠玉の名演奏だが、中でも 'African Sun' は南ア・ジャズ屈指の名曲/名演だろう。ダラー・ブランドの運指もキッピーのフレイジングもとても印象的だ。また 'Memories of You' の情感たっぷりなブロウも心に響く。残念ながら、これらの日本盤 CD も今では見かけることがない。こうした作品群もそろそろストレート・リイシューされないだろうか(私もオリジナル盤を持っていないので、ヴァイナルで聴いてみたい)。

 ちなみに、 中村とうようさんによる "African Sun" のライナーノートの中で、Moeketsi の oe を「ウ」と発音・表記する理由が書かれており参考になる(オランダ語由来だからと説明している)。

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Pat Matshikiza / Kippie Moketsi / Hal Singer
・Pat Matshikiza - Kippie Moketsi featuring Basil "Mannenberg" Coetzee "Tshona!" (as-shams/The Sun GL 1796, 1975)
・Pat Matshikiza "Sikiza Matshikiza" (as-shams/The Sun GL 1857, 1976)
・Kippie Moketsi - Hal Singer "Blue Stompin' " (as-shams/The Sun GL 1912, 1977)

 そして晩年に録音した自身の名義の作品が、冒頭で触れた3枚のアルバムだ。"African Sun" のライナーノートで中村とうようさんは「キッピーは、レコードが少ない...」とも書かれている。実際、キッピー単独でのリーダーアルバムはなく、そうした印象を受ける。手元にあるレコードと資料にざっと目を通しただけでこの記事を書いているので、もしかすると見落としている作品もまだあるかもしれないが。

 今回、バックバンドの一員だった初期のSP盤のリイシューやグループでの録音まで含めると、キッピー・ムケツィの演奏をある程度の数聴けることが分かった。また、南アを代表するジャズ・グループの数々で演奏し、南ア音楽の歴史的作品の多くにも参加して、良い演奏をしていることを再認識した。確かに、南ア最高のサックスプレイヤーとまで崇められるだけのことはある。それだけに、キッピーの本格的な演奏をもっともっと聴きたくなってしまったのだった。


 それにしても南アのジャズはいい。ゆったりしていて、気持ちが落ち着くものが多い。激動の時代の中で、これほど素晴らしい音楽を生み続けていたとは。

 30年ほど前に買って以降聴き込んでいない南アのレコードも多い。これからしばらくは、久しぶりに南ア音楽の歴史を振り返りたくなって、中村とうようさんと深沢美樹さんが作られた AUDI-BOOK『A Guide to South African Music』も読み直した。このところ新旧いずれの作品も注目され評価の高まっている南アのジャズ、これからしばらくじっくり聴き直したくなっている。

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by desertjazz | 2024-05-30 00:00 | 音 - Africa

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