Music in Senegal : Thierno Koite's Recordings

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 アフリカを代表するアルト・サックス奏者として、南アフリカが産んだキッピー・ムケツィ Kippie Moketsi の他にもう一人挙げるならば、個人的にはセネガルのチェルノ・コワテ Thierno Koité を選びたい(チェルノのメイン楽器はアルトサックスだが、テナーやソプラノもプレイし、そうした録音もある)。

 チェルノ・コワテのことを初めて意識したのは、オーケストラ・バオバブ Orchestra Baobab が再結成し、その復帰作 "Specialist in All Styles" の日本盤のライナーノートを担当した時だった。その直後の 2003年にはフランスと日本で彼らのステージを観て、チェルノにも会って挨拶させてもらったのだけれど、当時はイッサ・シソッコ Issa Cissokho の横でアルトサックスを吹いている男という印象しかなかった。実際、パフォーマンスもプレイも豪快なイッサの傍にいたのでは、物静かな彼は目立ちようもない。

 ところが、セネガルの新旧のアルバムのクレジットをチェックする度に、彼の名前を頻繁に目にするようになった。ただし、彼の名前は様々な綴りで書かれているため、最初のうちは同じ人物だと認識することができなかったけれど。
(* Discogs を見ると、Thierno Kouate, Thierno Kouyate, Thierno Kuite, Thierno Konaté, Thierno Kouate, Thierno, Thierno Seydou Koite, Thierno Koité, Seydou Nourou Koite, Seydou Norou Koité という綴りが列挙されている。)

 ただ参加作が多いだけではない。スターバンド Star Band、スターナンバーワン Star Number One、サヘル Le Sahel、ジャモノ Le Diamono、ユッスー・ンドゥールのシュペール・エトワール・ドゥ・ダカール Youssou N'Dour et le Super Etoile de Dakar などといったように、現在在籍するバオバブに至るまで、彼はセネガルのトップバンドを渡り歩いてきた。それらの中でもサヘルとジャモノは 1970年代中頃に(ユッスー・ンドゥールに先駆けて)ンバラを完成させたグループであるのだが、チェルノはそれら両者のファースト・アルバムに参加している。

 それだけではなく、彼は数々のアルバムに自身の楽曲を提供している。また、ホーンアンサンブルの一人としてプレイするにとどまらず、多くのアルバムで素晴らしいアルトサックス・ソロを聴かせてもいる。
 そんなチェルのだからこそ、例えばオランダのビッグバンド、ニュー・クール・コレクティブ New Cool Collective さえもが彼をリスペクトしたアルバムを制作したのだろう。

 このようにチェルノ・コワテはまるでセネガル音楽の生き字引のような重要人物なのだ。彼に匹敵する経歴を持つミュージシャンなど他にはいない。

 しかし、彼の経歴についていくら調べてもほぼ何も分からなかった。"Specialist in All Styles" のライナーには何を書いたかと思って読み直してみたのだが、彼の経歴については全く何も書いていなかった!(多分、本当に何も分からなかったのだろう。)

 2003年にバオバブのメンバーたちにインタビューした時、チェルノには何も訊ねなかった。今思い返すと、全くもったいないことをしたと後悔している。バオバブのメンバーが相次いで去った(ほぼ皆他界してしまった)今、チエルノはオーケストラ・バオバブを牽引していて、まだまだ元気そうだ。ならば、誰か彼にたっぷりインタビューしておいてくれないだろうか。

(* 昔、バオバブに関する資料を集めてファイル化してある。それを読み直せば、チエルノ・コワテの経歴などもある程度分かるはず。近いうちにそのファイルを探し出して、読み直そう。)




 以下、思い出せる範囲で、彼の参加アルバムを並べてみたい。
(*前回公開した Kippie Moketsi に関する記事と同様、以下で取り上げるレコードとCD のレーベル、ナンバー、リリース年は基本的にオリジナル盤のものである。)

◇Star Band de Dakar
・" "Le Miami" Bar Dancing" ("Star Band Vol.1") (Ibrahim Kassé Production IK 3020, ? )

 スターバンドの最初のアルバム。メンバー構成から判断して 1970年か 71年頃の録音だろうと思う。クレジットは苗字なく Thierno としか書かれていない(しかも、クレジットの記載があるのはデザインが数パターンあるスリーブのうちの1種類だけ)ので、これがチエルノ・コイテだとは長年気がつかなかった。多分、これが彼のファースト・レコーディングなのではないだろうか。それにしてもどのような敬意でスターバンドに加わったのだろう。

◇Le Sahel
・"Bamba" (Musiclub LPS-MUS-001, 1975)
・"La Légende de Dakar" (Celluloid – 006642, 2015)

 サヘルは、シェイク・ティジャーン・タル Cheikh Tidiane Tall、イドリッサ・ジョップ drissa Diop、チェルノらによって結成された、セネガル1970年代の最重要グループのひとつ。このアルバム1枚のみで解散してしまったが、その影響力は大きかったと思う。彼ら3人は 2015年に再び集って再結成アルバムをリリースした。これも好盤だ。

◇Le Diamono
・"Biita - Baane" (Musiclub LPX.MUS.0010, 1975)

 後年オマール・ペン Omar Pene が率いるシュペール・ジャモノ Le Super Diamono は、活動初期には Le Diamono と名乗っていた。また当時、ペンは複数いるヴォーカリストの一人に過ぎなかった。このファースト・アルバムは "Bamba" と同様、1970年代の最重要アルバムのひとつ。
 この頃ユッスー・ンドゥールも一時期ジャモノで歌っていた。アルバム中2曲でユッスーに似た声が聞こえ、スターバンド加入前の彼の初録音かと考えたくなるが、流石にそれは違うだろう。

◇Idy Diop (Idrissa Diop)
・"Dioubo" (N'Dardisc 33-15, 1976)

 イディことイドリッサ・ジョップのデビュー・アルバム。当時イディは若干19歳だった。これもラテンからンバラへの変化が感じ取れる、1970年代の最重要なアルバムのひとつだ。

◇Star Number One
・”Maam Bamba”(Disques Griot GRLP 7601, 1976)
・"Jangaake" (Disques Griot GRLP 7602, 1976)

 1970年代初頭、スターバンド脱退組により結成されたバンドのファーストとセカンド。ちなみにチエルノは、スターナンバーワンのギタリストのヤヤ・フォール Yakhya Fall と、再結成したサヘル Le Sahel でも共演し、今は同じオーケストラ・バオバブのバンド仲間。奇縁と言えばいいのか、少なくとも気の合う同志なのだろう。

◇Laba Sosseh
・"El Maestro" (Africa Productions 00022-2, ? )

 ラバ・ソセーは、ガンビアに生まれ、1960年代にスターバンドのリードヴォーカルからキャリアをスタートし、後年ニューヨークでも大活躍したアフリカ音楽史上屈指のサルセーロ。このアルバムは(恐らく)1970年代後半に制作したアルバムだろう。

◇Youssou N'Dour / Youssou N'Dour & Le Super Etoile de Dakar
・"Vol. 12 - Jamm - La Paix" (Saprom Productions 2559, 1987)
・"Vol. 13 - Kocc Barma" (Saprom Productions 2228, 1987)
・"Set" (Virgin CDV 2634, 1990)・"Xippi" (Saprom Productions, 1991)
・"Eyes Open" (40 Acres And A Mule Music Works 471 186-2, 1992)
・"Xippi N°2" (Saprom Productions, 1992)
・"Spécial Noël" (Saprom Productions, 1993)
・"Wommat" (Saprom Productions, 1993)
・"The Guide (Wommat)" (Columbia COL 476508 2, 1994)
・"Dikkaat" (Saprom Productions, 1994)

 バオバブが解散状態にあった 1980年代後半からしばらくの間、チエルノはバオバブのリーダー兼テナーサックス奏者だったイッサ・シソッコ Issa Cissokho と共に、エトワール・ドゥ・ダカールの一員だった。ユッスーの代表作 "Set" にもクレジットされており、この頃に初来日を果たしたはずだ。"Vol. 12 - Jamm - La Paix" はとにかくホーンズ2本のサウンドが美しい大傑作(個人的にも、Miles Davis "Kind of Blue"、Joni Mitchell "Blue"、Randy Newman "Good Old Boys" などと並ぶ生涯の最愛聴アルバム)。チエルノが演奏に加わっているユッスーのアルバムはライブ盤など他にも多数ある。

◇Cheikh Ndiguël Lô
・"Né La Thiass" (Saprom Productions SAPROM PROD 11-95, 1995)
・"Ndogal" (Jololi, 1996)
・"Bambay Gueej" (World Circuit WCD 0057, 1999)

◇Fallou Dieng
・"Medina" (Stern's Africa STCD 1090, 2000)

◇Henry Guillabert
・"Benn (Un)" (Jololi BENN J000297, 2002?)

 ハラム Xalam のオルガン奏者だったアンリ・ギルバルト(?)のソロアルバム。ユッスー、シェイク・ロー、イスマエル・ローなどがヴォーカリストとして参加。2002年に購入したので、2001年か 2002年のリリースだろうか。

◇Orchestra Baobab
・"Specialist In All Styles" (World Circuit, 2002)
・"Made In Dakar" (World Circuit, 2007)
・"Tribute To Ndiouga Dieng" (World Circuit, 2017)

◆Thierno Koité
・"Teranga" (JFC Music JFCCD008, 2004)
・"Ubbite" (JFC Music JFCCD013, 2005)

 チェルノ・コワテのリーダー・アルバムはこの2作だけ。困ったことに "Teranga" にはパーソネルのクレジットが一才ないので、参加ミュージシャンが分からない。Cissokh 作とクレジットされた曲がいくつかあるが、これらの曲作りにバオバブのイッサ・シソッコが加わっているかどうかも不明だ(多分このシソッコはバオバブのイッサとは別人だろう?)。

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◇Ablaye Ndiaye Thiossane
・"Ablaye Ndiaye Thiossane" (Syllart Production 1508, 2010)

◇New Cool Collective
・"New Cool Collective Big Band featuring Thierno" (Dox Records DOX 273/DOX 274, 2017)

 オランダのビッグバンドにチエルノのサックスが大々的にフィーチャーされた作品。'Myster Tier' など、サヘル Le Sahel の代表曲なども演奏している。

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 チエルノ・コワテが客演している、セネガルのアーティストの曲/アルバムは他にも多数ある。それだけ多くのミュージシャンたちが彼のサックスの音を必要としていたのだろう。そうした中でまだ見落としている重要な録音もありそうだが、今回はこれくらいにしておこう。


 





by desertjazz | 2024-05-31 00:00 | 音 - Africa

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