急に思い立って、久しぶりにマルセイユに行って来ることにした。
鳥海基樹の『マルセイユ・ユーロメディテラネ:文化化と享楽の衰退港湾都市再生』、深沢克己の『マルセイユの都市空間 ー幻想と実存のあいだでー』、Camille Martel の "Massilia Sound System - La façon de Marseille"、これら3冊を最近集中的に読んだのは、突然マルセイユ行きを決めたからだった。
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フランス南部を代表する港町マルセイユには、これまで8回訪れている。最初が 1995年12月〜1996年1月。その後は 2006年1月、2006年10月、2009年3月、2012年10月、2015年10月、2016年11月、2018年10月というように、ほぼ3年間隔くらいの頻度で滞在した。
初めて行ったのは、フランスが抱える移民問題とその狭間で苦境に立たされるマグレブ系の人々をテーマとする、あるドキュメンタリーの制作チームの一員としてだった。その時、マグレブ系の人々と触れ合い、彼らの生き様や社会に関心を持ち、またマグレブの音楽への興味も膨らんだことから、マルセイユに通って定点観察のようなことを続けるようになった。しかし、気がつけばもう6年もマルセイユに足を運んでいない。ならば、そろそろ今一度訪れる時期なのだろう。
マルセイユ通いを続けているのには、Fiesta des Suds という素晴らしい音楽フェスと出会ったことも大きい。これが毎年10月に開催されることもあって(3月に開かれる見本市 Babel Med Music と合わせてもまだ5回しか参加していないのだが)、自分が知っているマルセイユはいずれも寒い時期ばかりだ。Fiesta des Sudsの会場でも毎回寒さに凍えながらステージを撮影していた。そんなこともあって、いつかは暖かい時期にも訪れてみたいと考えていた。
そのマルセイユを拠点とする大人気レゲエ・バンド、マッシリア・サウンド・システム Massilia Sound System が今年結成40周年を迎え、現在フランス国内をツアーして回っている。彼らのステージにはしばらく接していないので、このツアーをどこかで捉えて、彼らの40周年を祝いたいとも考えていた。
しかし何故か、マルセイユを再訪したいという願いと、マッシリアを観たいという思い、これら2つが重なることはなかった。
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ところが、6月も後半に入ってから、7月19日にマルセイユでマッシリアの特別なコンサートがあることに気がついた。しかもその翌々日21日には、アルルでも彼らのコンサートが行われる。アルルはマルセイユから1時間の距離だ。バカンス・シーズンにマルセイユを訪れて、マッシリアを観てくるのもいいのではと思い始めた。
そこでフライトチケットとホテルを探すこと1週間。しかし、どうしても適当なフライトも宿も見当たらない。折角の機会だと思い、足を伸ばしてダカールとパリにも立ち寄るプランも検討したのだが、そのような日程を組むのがますます難しい(オリンピックに全く興味がないため、間抜けなことに、この夏パリでオリンピックが開催されることを完全に失念していた)。まず何よりフライトチケットが異常に高いのだ。ホテルも同様で、かつて投宿したホテルは軒並み料金が2倍近くになっている。直前なので、マイレージでフライトをおさえることも不可能。この時期にマルセイユとパリで行われるコンサートを探してみたが、特別観たいものはない。
これだけ悪条件が重なるのでは、今回は無理することはないだろう。そう判断してほとんど断念しかけた。しかし、何故だかどうしても諦めきれない。すでに6月末で、マッシリアのコンサートに合わせて出発するとすれば、それまでに約2週間に迫っている。タイミングとしてはもうギリギリで、チケットもホテルもあまりに高く、頭を切り替えて秋か来年に行くことを検討し始めた。ところが、フライトはこの夏の方が安かった。このまま円安が進めば、来年以降に海外に行ける保証もない。あれこれ迷い続けた末、結局かなり高くて昔から相性の悪いエールフランスのチケットを思い切って買ってしまったのだった(普段使っている JAL は高すぎたし、接続も悪かった)。
フライトチケットを買った後は、急いでマルセイユとアルルのホテルを予約。それからマルセイユのレストランやレコード店を探し始めた。7月に入ってからは鳥海基樹『マルセイユ・ユーロメディテラネ』と深沢克己『マルセイユの都市空間』の2冊を4日間で精読し、今回訪ねるべきスポットと観察したいポイントを洗い出し、地図にまとめて、頭に叩き込む。マッシリアのバイオ本も Google Translator にかけながら目を通す。これらの本は現地に持って行って読むことも考えたが、重いこともあり出発前に読んでしまった。
さらに、マルセイユとラ・シオタの音楽関係者とジャーナリストたちへ連絡。これからマルセイユに行くのでヨロシク!と。嬉しいことに多くの方たちが歓迎の返事をくださった。
どうにか間に合った。これでマルセイユに行ける。正直なところ、かつてこの街に抱いていた魅力は、訪れる度に徐々に薄れたように感じている。おそらく今回も、そうした傾向がさらに進んでいるように目に映るのではないだろうか。それでも、現在のマルセイユの姿をじっくり観て来るだけでも自分にとっては意味があるように思う。ともかく久しぶりのマルセイユだ。徹底的に歩いて観てこよう。
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