◆ 7月22日(月)Part 2
マルセイユにやって来ると時々会って話を聞いているレゲエ・シンガーのトコ・ブラーズ Toko Blaze。今回当初は 20日に会う約束だったが、1日、また1日と伸びて、今日の 18時に La Plaine のバーで待ち合わせに変更。
少し早めに着いたので、時間潰しに、すぐ近くにあるレコード店 Galette Records を覗いてみた。すると Massilia Sound System の "Single Box Volume 2" がある! やっと見つけた! これもネットで買うと送料が高くつくので、手を出せずにいたアイテムだった。カウンターに持ってくと、店主曰く「ホントに買うのか?」と一言。確かに 95ユーロは高いが、Massilia 関連の作品は資料として一通り持っていたい。「彼らは友人なんだ」と話すと、話が盛り上がった(それで「友人だから」と言って少しディカウントしてくれた)。
この店は Massilia 一派とも付き合いが長いらしく、店の前の路上で行われたライブの写真などが店内に飾られていた。
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18時、トコとしばらくぶりに再会し乾杯。この時間になってもまだまだ暑いので、生ビールが最高に美味い! そして 11月にリリースするニューアルバムに関することを中心にインタビュー、、、というより、2人で飲み歩くこととなった。彼の経歴について改めて確認させてもらったりもしたが。
2020年にリリースした前作 "Tropical Cut" が良いアルバムだったので、今回まとめ買いしたいと相談していた。しかし残念ながら CD も LP も完売とのことで、実際彼自身もストックを持っていないという(Web Store でも 'Out of Stock' であることは確認済み)。その代わり、彼が最近出した本 "Carnaval des Bagnards" をプレゼントしてくれた。これも欲しかったので嬉しい!(この本 Moussu T こと Tatou が序文を寄せている。2冊くれたので1冊はどうしようか?)
トコの新作は Massilia Sound System / Oai Star の Gari Baldi のプロデュースの下、制作は完了。"Tropical Cut" などもそうなのだが、トコ・ブラーズの作品は毎度様々なゲストが参加してカラフルなサウンドになっている。しかしミュージシャンを多く使うとコストがかかるので、最近は Gari とキーボード奏者との3人で制作しているとのことだった。なので、新作も割とシンプルなサウンドに仕上げているのかもしれない。その新作は全10トラック、CD とヴァイナルとストリーミングでリリースするとのこと。それに合わせて Galette Records の前でストリートライブを行う予定。同じ頃、Massilia Sound System のライブも予定されていて(毎度数百人集まるのだそう)、秋もにまたマルセイユに行きたくなっている。
トコと飲んでいる時、突然セネガル音楽の話になった。「Orchestra Baobab は知っている? 彼らのサックスプレイヤーとも一緒にプレイしたことがある」(ソプラノサックスを吹く仕草をしたので、Issa ではなく、Thierno Koite だろう)「Positive Black Soul とも友達なんだ」。世界は色々繋がっているんだなと感じならが、トコと語り合ったのだった。
しばらくすると、次に行こうという。要件が済んだらすぐに帰るのかと思っていたのだが。少し歩いたところで、ある建物を指差す。「ここが Massilia Sound Sytem が最初にライブを行ったところだよ」。マッシリアは 1984年5月に初めてライブ・パフォーマンスを披露し、それを持って今年を結成40周年としている。偉大なるマルセイユのグループはここからスタートしたのか。
通りを歩いていると、次々と誰か彼かが彼に声をかけてくる。トコはこのあたりでは有名人なんだな。多くの通りは何度も歩いていて結構知っているつもりだったが、彼に案内されて歩くと初めて通る道がいくつもあって新鮮だ。私はフランス語を話さず、トコも英語がそれほど得意ではないので、あまり説明もせずに一緒に歩いてこのエリアを案内することを考えたついたのだろう。
ある広場では、アルジェリア人、セネガル人、フランスの白人たちが一緒になってペタンクに興じていた。フランスは複雑な移民問題を抱えるが、こうした光景こそが彼らの本来の暮らしぶりなのだろう。ここでも人々が次々にトコと私に挨拶してくるし、中には初対面なのにビールをご馳走してくださる人まで。本当にのどかで良い雰囲気だ。
そうした中のひとりが、セネガル人ですと自己紹介した後、スマートフォンに保存されている写真を見せてくる。ん?この写真はつい最近見たぞ。高野秀行の本『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』にあったものだ! なんでもセネガル南部まで日本人を案内したのは自分だという。半月ほど前にセネガルについて読んだ本に登場した人物が、今ここマルセイユで目の前にいる。こんな偶然ってありだろうか。これだから旅は面白い!
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3軒目に行くと、店は閉まっている。だがトコが電話をすると、しばらくして店の人がやってきて開けてくれた。そして癖の強いカーボベルデのラムを振る舞ってくれた。
またしばらく歩くと、いきなり鮮やかな青空が目に飛び込んできて、その下にはポッカリ空間が広がっている。何気なくその景色をカメラに収めていて、すぐに気がついた。ここが数年前に古い建物が崩壊した事故現場だったのだ。フェンスの前には犠牲になられた人々の写真を並べたパネルが立てられている。その中には、Facebook で何度も目にした Massilia たちのある友人の笑顔もあった。黙祷。
最後は観光名所としても度々紹介される坂へ。この辺りの道は入り組んでいて、いつも方向が分からなくなる。次第に暗くなってきたので、そろそろトコとはお別れ。今度ここに来る時には彼のライブを観たいな。
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(後日譚)
高野秀行が 2017年?にアフリカ納豆の取材でセネガルに赴いた際、彼をセネガル南部に案内した人物に偶然マルセイユで会ったことを書いた。果たしてそれが本当かどうか確認してみた。
6月末のこと、フランス旅行に持参する本を選びに近所の図書館に行った時、高野秀行の『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』をまだ読んでいなかったことに気がつき、借りてきて読んだ。この本の第2章では、セネガル南部カザマンス地方のジョガンショールで納豆を探索したことが綴られている。
さて、7月22日にペタンクの広場でのこと。Toko が最近リリースした新曲のタイトルが ‘Dreadlocks’ だったことを思い出して、ペタンクをプレイしているセネガル人にもドレッドロックが多いねなどと話していたら、そうした中の一人が近づいてきて(この記事の6枚目の写真で右に写っている男)、スマートフォンに保存している画像を見せる。それが何と今月読んだばかりの『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』に掲載されていた写真だった。彼は高野の名前は出さなかったが、Mana に頼まれて日本人を案内したというようなことを話す。後で必要になることもあろうかと思い、名前を手帳に書いてもらうと Mana Ito と Abou Diop と綴ってくれた。
日本に帰国後、高野の本をもう一度借りて来て確認すると、セネガルでも有名らしいサバールダンサー?の「マナ」とドレッドヘアーの「アブ・ジョップ」という男が確かに登場する。(P.63以降)
この部分と同じ文章は「文春オンライン」の記事にもあった。
https://bunshun.jp/articles/-/40168?page=3
自分が撮った写真と本に載せられた写真を比べると、分かりにくいが同一人物のように見える。いや、これだけのことが一致しているからには、私が会ったのはこのアブさん(アブ・ジョップ)で間違いないだろう。
それにしても、今月読んだばかりのセネガルの旅の記録に出てきたセネガル人が、マルセイユで突然目の前に現れて立ち話をすることになるとは、何という偶然なのだろう。きっとこれはセネガルが私を呼んでいるに違いない。やはり次の旅先はセネガルにせよというお達しなのだろう !?
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