◇マイク・モラスキー『ジャズピアノ その歴史から聴き方まで』(上・下)(岩波書店、2023)読了。
モラスキーの著作を読むのは『戦後日本のジャズ文化 映画・文学・アングラ』(青土社、2005)以来。今回の大部2冊は内容をピアノに限定したものではなく、ジャズピアノを通じたジャズ史として読むことができる。ジャズピアノのテクニックと聴き方を主題に語られるが、ピアニストの生まれ育ちや、重要なサイドメンについても紹介されている。
読み応えがあったのは、アール・ハインズ、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、テディ・ウイルソン、アート・テイタムの5人についてたっぷり解説しているところ。それと、ユニゾン奏法、ブロックコード奏法、ロックハンド奏法といったテクニックの説明。アート・テイタムのどこが評価されているのか長年分からないでいたのだが、これを読んでその凄さに納得(アルベジオの多用には、流石に古さを感じたが)。自分は楽器を演奏しないので、ユニゾン奏法の難しさや、ロックハンド奏法の具体例など、こうしてピアニストに解説されなければ認識することはなかっただろう。何より興味深く思ったのは、この本を読んで左手の動きをより意識して聴くようになったことだ。
自分の好きなピアニスト、マッコイ・タイナー、レッド・ガーランド、そしてハービー・ニコルスについても詳しく書かれていて参考になる。有名なピアニストには、左利きや指に障害のある奏者が意外と多いことも知った。
その都度、紹介音源を聴きながら読んだのだが、かつての巨匠たちの代表作は概ね手元にあったものの、聴いてこなかった作品や聴き込んでいない作品も多い。若い頃に無理してでももっとレコードを買っておけばよかったと少々後悔。その一方で、新しい音楽をもう少し知りたいとも思うのだけれど。
不便に感じたのは、アルバムジャケットなどは掲載せず(そもそも全ページ文章のみで、写真は全くなし)、動画の URL なども基本的に不記載なために、音源によっては見つけるのに手間取ったり見つけられなかったりしたこと。ネット検索すれば簡単に探せるはずと判断し、またこれ以上ページを増やせなかったからなのだろうが(2巻で800ページ強)。
(ひとまず1週間かけずに一気読みして、今2周目。詳しい感想は、再読後に気が向いたら。
→ 追記:結局10日ほどで2度通読。ドード・マーマローサ Dodo Marmarosa のようなあまり名前を聞かないピアニストも高く評価している。誰だったかと思って調べて、チャーリー・パーカーの Dial Session のピアノだったことを知った。色々忘れている。それで Dial Session を聴き始めたら面白くて、結局全録音を一気に聴き直してしまった。)
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マイク・モラスキー『ジャズピアノ その歴史から聴き方まで』を読んでいる間、こうした CD も聴いていた。
巨匠たちそれぞれが最高だったと言われる録音と歴史的ライブって、時期がほぼ重なっているのですね。"From Spiritual..." はもう少し早い印象だったのだけれど、チャーリー・クリスチャンもカーネギーに立っているので、そんなはずはなかった。それにしても、30年代後半から40年代初頭はすごい時代だったんだな!
・Teddy Wilson (with Billie Holiday) 1935-1939
・Count Basie (Decca) 1937-1939
・Duke Ellington (The Blanton - Webster Band) 1940-1942
・From Spiritual to Swing (Carnegie Hall) 1938/1939
・Charlie Christian (Minton's Playhouse) 1941
これら5セットだけで CD 19枚。素晴らしすぎて、聴き始めると、他を聴く時間がなくなってしまう。
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牧野直也の「ポスト・ジャズからの視点」、『リマリックのブラッド・メルドー』に続く2冊目はいつ?と思っていたら、2022年にとうに出ていた。『<ポスト・ジャズからの視点 II> チャーリー・パーカー伝 全音源でたどるジャズ革命の軌跡』という執筆に13年かけた大著。早速読み始めたが、580ページ超あるので先は長そうだ。
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