(今年は少し時間的余裕が生まれてきたので、これまで聴けずにいたジャズに耳を傾けることが多くなりました。そうしたことを時々 Facebook に書いているのですが、それらから一つ転載します。)
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牧野直也『チャーリー・パーカー伝 全音源でたどるジャズ革命の軌跡』読了(アルテスパブリッシング、2022)。読み始めたら内容の圧倒的な濃さに引き込まれ、他の作業をほとんど中断して読み耽ってしまった。
大判の紙面に小さな字がびっしり詰まった、本文だけでも550ページ超という大力作。チャーリー・パーカーの生涯を丹念に追いながら、その前時代と同時代の音楽/社会状況も含めて詳述する。並行してレビューされるアルバムや書籍の数は約400。どうすればこんな本が書けるのだろうと思ったが、13年(実質7年)かかったと知り納得。
自身のことを振り返ると、40数年前にジャズを聴き始めた頃、当然チャーリー・パーカーも聴いたが、力の抜けたような音色が物足りなく、猛烈に早い運指が超絶テクニックをひけらかしているだけに思えて、正直どう聴いて良いのか分からなかった。Savoy や Dial への録音のアドリブに至っては音楽には聴こえなかったくらいだ。それでも "Now's The Time" と "Jazz at Massey Hall" はいいと思ったけれど。それでも、その後パーカーを聴くことはなかった。
それが今回あれこれ聴いてみたら、どれも楽しめた。著者は各セッションのアウトテイクも含めて解説するので、それらも実際に聴かないと理解できない。そこで "Complete Savoy" 4CD と "Complete Dial" 4CD を買って聴いてみたら、これがもう面白くて仕方ない。このように未聴音源はなるべくストリーミングも使って聴いたので、その分時間がかかったが、これは有益かつ楽しい作業だった(気に入ったものやサブスクにないものはフィジカルを探して手配中)。
牧野直也さんの本を読むのは『レゲエ入門』、『ポスト・ジャズからの視点 I リマリックのブラッド・メルドー』に続いて3冊目。これまでの2冊から漠然と若い書き手だと思っていたが、氏は大ベテランなのですね。今回の本、中盤の長いブルース研究(70ページ以上ある)は必要ないかと思ったが、長年音楽を聴き続けてここでその蓄積を書き尽くしたいという思いが伝わってきた。
従来の定説を覆す目的もあって書かれただけあり、刺激的な論考の連続。ゴスペルとブルースの生まれ方の対称性、パーカーがクール・ジャズの始まり、等々の指摘には学ぶところが多い。
とにかく膨大なテキスト量の長い本なので、あらかじめパーカーの経歴について簡単にでも確認してから読み始めた方が良かったかも知れない(と思ったのだが、手元にあるパーカー本はロバート・ジョージ・ライズナー『チャーリー・パーカーの伝説』だけだった。自分はよっぽどバードを避けてきたのだな)。まあある程度彼の経歴については頭に入っているし、彼を全く知らない人にとっては先の展開が読めない小説のようにも味わえることだろう。年表も地図も掲載されていないので、随時ネットで場所を確認することにもなった(最初に2つのカンザスシティーと、そこを流れるミズーリ川とカンザス川について語られるのだが、まずその位置関係が頭に浮かばなかった。さすがにニューヨークやロサンジェルスは何度も訪れているので地図は必要なかったが)。
毎度のことながらアルテスの本は文章が読みやすく、ケアレスミスもほとんどないことには感心させられる。どれだけ丁寧に本を作っているのだろう(この本には1か所だけ音楽的に間違いを指摘しうるところがあったが)。
それにしても40年も経ってからパーカーを楽しめるようになるとは。その間に自分の耳も育ったということなのだろうか。
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