インドネシアは音環境と音楽の豊かな国である。
この国に来る度にそのことを実感するが、今回もそう感じさせる出来事が到着早々にあった。
バリ島のングラ・ライ国際空港では、日本からの到着便の時刻に合わせて迎えの車を予約していた。その車に乗り込みドライバーと雑談。彼の出身を訊ねるとスンバ島だという。それで気を利かせてか、彼はカーオーディオで YouTube の動画を再生し、スンバの音楽を爆音で流してくれた。狭い車内で轟くその音は実に衝撃的なものだった。ゴングとタイコを中心に打ち鳴らす激しくトランシーな音楽で、昨年来日ライブを観たウガンダのナキベンベ・エンバイレ・グループ Nakibembe Embaire Group も思い出すほどだった。
動画のタイトルは Gong Sumba untuk tarian Woleka 。インドネシア語を日本語に翻訳すると「ウォレカのダンスのためのスンバのゴング」。これで一体どのように踊るのだろう。
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バリ島で1週間過ごした後、ジャワ島へ。まずジョグジャカルタに入った。
裏小路をのんびり歩いていると、近くからゴングらしき音がかすかに響いてくる。何かと思って音の出所を探すと、それはアイス売りが打つゴングの音だった。使い込まれてひび割れた小さなゴング。長年の間その柔らかな響きに多くの子どもや大人が呼び寄せられ、喉と身体を涼ませてきたことだろう。試しに一つ買ってみた。カップ1杯が 3000ルピア。日本円で約30円。それはとても素朴な味だった。
インドネシアのゴング音楽といえば何と言ってもガムランだ。ガムランはバリ島のものが世界的に有名だが、ジャワ島のジョグジャカルタとソロの王宮のものもよく知られている。ジャワのガムランはバリのものと比較すると柔らかな音色で優雅さに特徴がある。しかし、ジャワにもバリのような激しいスタイルのガムランもあると、今回ソロで出会った音楽関係者から教わった。
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ジョグジャとソロでそれぞれ4泊過ごした後、再びバリに戻ってきた。
観光客で溢れるウブドの中心を避け、幾分離れたエリアを歩いていると、祭りが近いせいかあちらこちらから音楽が流れてくる。寺のような建物からは練習する音が延々数時間も鳴り響く。時にはトラックの荷台にゴングを積んで打ち鳴らす大行列が通りすぎる。このように様々な場所でゴングの音を耳にしたが、いずれも一般的に知られているガムランとはかなり趣が異なるようだった。
ウブド最後の夜、夕食から帰り道、通りに面した建物からまたゴングの音が聴こえてきた。それに誘われ、許しを得て中に入りしばらく見せてもらった。これもまたガムランで使われるようなゴングを打ち鳴らしているのだが、いわゆるガムラン音楽とはスタイルが全く異なる。竹筒を石の床に打ち付けて鳴らしている様子は、バスクのチャラパルタ Txalaparta を連想させる。このようなパフォーマンスは初めて耳にした。学生たちによる創作音楽のようでもあったが、これは一体いかなるものだったのだろう。
スンバ島、ジャワ島、バリ島で鳴り響くさまざまなゴング。インドネシアの島々が東南アジアに広がるゴング文化圏に属することを実感する毎日だった。
(スンバ島はバリ島の南東に位置する。調べてみるとバリ島から毎日直行便が飛んでいて、飛行時間は約1時間半。チケットの値段は往復 23000円くらい。それならば次回はスンバまで行って Gong Sumba を直に見ることはできないものかと思い立ち、色々調べ始めている。どうも、この Gong Sumba は常日頃から演奏するものではなく、葬式などの特別な機会に演奏するようなのだが。)
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