グサン・マルトハルトノ Gesang Martohartono が故郷を流れる「ソロ川」について書き歌ったクロンチョンの名曲『ブンガワン・ソロ Bengawan Solo』。日本人の多くにも知られるこの歌は、インドネシアを代表する一曲と言えるだろう。例えば、ガルーダインドネシア航空に乗ると、離陸前と着陸後に機内にこの曲が BGM として流れるほどである。
今回ソロ(現在の正式名称はスラカルタ)を訪れる前に、この街が「インドネシア最初の国営レコード会社」ロカナンタ Lokananta の拠点であることを思い出した。調べてみると、投宿先から40分ほど歩いた場所にロカナンタのスタジオや博物館があることが分かった。それで訪ねてみたのだが、巧みに美しくレイアウトされた博物館の中の1室が『ブンガワン・ソロ』をテーマにした展示に充てられていた。『ブンガワン・ソロ』がそれだけ重要な曲であるということなのだろう(そのロカナンタの博物館については後日改めて紹介したい)。
24年前の 2001年にソロに滞在した時、グサンさんと一緒にソロ川を眺めに行った。しかしそれは河岸をコンクリートで固めた何の変哲もない川だった。そのソロ川の様子は今どうなっているのだろう。
気になりつつもソロ川の本流は宿から遠いので、宿の周辺を流れるその支流沿いを毎日散策した。川沿いや橋から釣り糸を垂れる男たち。健康のためにダンスに励む女性グループ。赤子をあやしながらくつろぐ家族。橋の袂で人々が集まって語らっている姿もあちこちで見かけた。川のほとりは人々の集う場所となっているようだった。
そうした一群の中の一人、バイク(自転車だったかも?)の荷台に菓子かツマミのようなものを積んで売り歩いている男が、語らいの途中で何気なく『ブンガワン・ソロ』を口ずさんだ。今でもこの歌を歌う人がいるのだな。彼の歌声を耳にして、ちょっとばかり感慨に浸ってしまった。その直後、彼らと別れてその先の最初の小路に入った時のこと。バイクにまたがった男が『ブンガワン・ソロ』の一節を歌いながら後ろから走り抜けていった。まるで映画の1シーンのような出来すぎた話なのだが、この曲がソロの人々からいかに愛されているかを実感させる出来事だった。
(川縁に来る直前に立ち寄ったショッピングモールでは、館内の BGM として南アフリカの大型新人歌手 Tyla のヒット曲 'Water' が流れていた。まあ、なんというギャップだろう!)
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