昨年来、Arooj Aftab(アルージ・アフタブ)と Ganavya(ガナヴィヤ、ガナーヴィヤ)という2人のシンガーを大いに気に入っている。
Arooj Aftab はパキスタン系アメリカ人で(生まれはサウジアラビア)、現在はブルックリンを拠点に、作曲家、プロデューサーとしても活動している。Ganavya はニューヨーク生まれ、南インド育ちで、今はカリフォルニアで活動。2人とも静謐な歌声と、出自の南アジア的な要素も取り込んだジャズ色強い音楽を作っている点に共通性を感じる。スーフィーやメディテーションにも通じるサウンドが評価されているようだ。ゆったりとして穏やかな歌声と演奏に心預けて浸るのがいい。
Arooj Aftab の代表作は "Vulture Islands" (2018)、"Night Reign" (2024)、それに Vijay Iyer、Shahzad Ismaily とのトリオで完全即興録音した "Love in Exile" (2023)。昨年オーストリアのアデレードで開催された WOMAD で彼女のライブを観て、その歌声を堪能した(MC になると途端に陽気な語りで、歌とのギャップに唖然としたりも)。今年10月にいよいよ初来日するのでそれも楽しみ。
Ganavya はまだまだ中途半端な出来のカバー集だったファースト "Aiyam: One" (2018) の後、近年 "Like the Sky I've Been Too Quiet" (2024)、"Daughter of a Temple" (2024)、"Nilam" (2025) を立て続けにリリース。"Daughter of a Temple" は John Coltrane の "A Love Supreme" をモチーフに、何妙法蓮華経を折り込むなど少々やりすぎかとも思われる、スピリチャルな面を出した作品だった(Wayne Shorter 夫妻が声で参加しているので、もしかしたらこれが Shorter のラストレコーディングだったかも?)。Shabaka の変名ユニット作 Kofi Flexxx "Flowers in the Dark" (2023) の1曲 Increase Awareness に参加し、若手サックス奏者 Immanuel Wilkins のBN盤 "Blues Blood" (2024) の Everything でもフィーチャーされるなど、今や引っ張りだこ状態の逸材。個人的にも Arooj Aftab 以上に生声を聴きたいシンガーだ。
これらのアルバムはどれも内容が良さそうなこともあって、なるべくアナログLPで買うようにした。いや、そもそも Ganavya や Kofi Flexxx のアルバムはアナログしかリリースされていない。値段が高いので毎度迷ったのだが、ストリーミングよりフィジカルで聴きたいし、プレス数が少ないらしく、各所ですぐに Out of Stock となったので、手に入るうちに思い買うことにした。
そのようにして入手したアナログ盤なのだが、実は問題が多い。
昨日までの記事で、最近のアナログ盤の中にCD以上に音の良いものがあり、それらを楽しんでいることを書いた。アナログ盤を多く買うようになって、従来の作品でも音が大いに改善されたものや新しい感覚に生まれ変わったものと出会ったり、改めてCDの音の良さを認識したり、嬉しいリイシューに気がついたりと、現在のヴァイナル文化の再興ぶりを楽しんでいる。
だが、"Like the Sky I've Been Too Quiet" や "Flowers in the Dark" は反対の悪い例だ。特に前者は、ジャリッという大きなノイズが入るほどで、最近買った中では最悪の1枚。いくらクリーニングしても改善しない。自分が何かを見落としているのかとも考え、都内のハイエンドショップの完璧に調整されたシステムでも聴かせてもらったが、ノイズは消えなかったので、これは盤自体に問題があると考えて間違いないだろう。返品レベルなのだが、このところノイズ盤があまりに多いものだから、そうした作業が追いつかず時間切れに。限定プレスならば、交換を希望しても代替盤が届くとは思えないし、たとえ交換できたとしてもまた同じような不良盤が届きそうでもあったので。
これら2枚とも Shabaka Hutchings が主宰する Native Rebel Recordings からのリリースなのだが、やはり新しいレーベルのレコードを買うことにはリスクがつきまとう。Shabaka のアルバム、Impulse! からの LP は特に悪くなかったと思うだけに残念だ(これら Impulse! 盤はチェコ・プレス。最近はドイツ盤とチェコ盤に良いものがあるように感じている。ドイツにもチェコにも盤質の良くないものもあるが、詳細は割愛)。
面白いと思ったのはこの後。Ganavya の続く2枚はベルリンの Leiter-Verlag という別のレーベルからリリースされたのだが、わざわざ vinyl cut by Andreas Kauffelt at Schnittstelle とクレジットされている。その効果なのか、まだまだ完璧ではないがストレス感じるほどのノイズは出ない。Ganavya は "Like the Sky I've Been Too Quiet" のカッティング悪さに懲りて、新しいレーベルに移り、カッティングにもこだわって専門のエンジニアに任せたのではないだろうかと、勝手に想像したのだけれど、本当のところはどうなのだろう。
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アナログ盤というテーマからは外れるけれど、クレジットに関することで最近もう一つ興味深く思ったのは Taylor Swift。
彼女の作品は歌の録り方がとても良い。中でも抜群に良いと思ったのは 'All Too Well (10 minute Version)'。この曲、個人的には21世紀最高のポップナンバーの一つだと思っているのだが、母音や [ts]音が喉の奥で濁って弾けるような響きが本当に気持ち良い。彼女は発声の点でも天性のものを持っている。
気になって彼女のアルバムをいつくか買ってクレジットを見てみたところ、レコーディングは Laura Sisk が手がけている。中でも "Folklore" (2020) には Vocals recorded by ... とクレジットされているので、最初は歌入れだけ Laura に任せたのかと思った。しかしよく考えると、これはコロナ禍の中での作品で、演奏は東海岸、歌は西海岸のステジオと分かれた時に、彼女を西海岸のスタジオに呼んでれこーディングを行ったというだけのことなのだろう、多分。それでも歌入れだけは信頼しているエンジニアを変えないところに強い拘りを感じる。
(余談ついでに書くと、'All Too Well (10 minute Version)' は PV も秀逸。いくつかヴァージョンがあるが、ドラマ仕立てのものは出来が良くなく、これ https://www.youtube.com/watch?v=sRxrwjOtIag だけを繰り返し観ている
。ヴォーカルは1テイク通して歌っているように聴こえるけれど、5分26秒のところで編集している。この声が僅かに重なる瞬間の技、上手いなぁと唸ってしまうのです。)
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Arooj Aftab、Ganavya、Shabaka のアルバム・ジャケットを並べると白黒写真のものが多い。こうしたイメージが彼らの音楽を表現するのに相応しいのだろうか(Taylor Swift の PV もセピアトーンだ)。
最近買った歌物で良かったもう1枚は Areski "Long Courrier"。Brigitte Fontaine のパートナーでもあるアルジェリア系ミュージシャンの久々のソロ作。自身が爪弾くギター(とクレジットされているが、マンドーラかも?)など少ない音数で、淡々とした歌を聴かせる地味深い作品。ミックスが若干くぐもって聴こえるけれど、こうしたサウンドは過度にクリアにするべきではないのだろう。
このアルバムも白黒のポートレイトが印象的なジャケット。ちなみにリリース元の kuroneko は全く新しいレーベルらしいのだが、カッティングに関してはほぼ問題ない。新進レーベルでもやればできるということだ。
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