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 スタンディング・オベーションに応えるロキア・トラオレ。彼女の瞳に溢れんばかりに溜まった涙が全てを物語っていた。



 ロキア・トラオレが 2020年1月初頭にパリで特別なコンサートを行うことに気がついたのは昨年5月のことだった。斬新かつパリを代表するコンサート・ホール、フィルハーモニー Philharmonie de Paris での3日連続公演、しかも3日とも全く異なるプログラムが組まれている。直感で、これは彼女のキャリアを集大成するものになるのではないかと思った。ならばこの3日間は是が非でも観ておくべきだろう。都合の良いことに、例年だと新年1週目は仕事がない。すでに良席はなくなっていたが、急いでチケットを購入し、パリ往復のフライトとホテルまで手配してしまった。


 マリ出身のミュージシャン、ロキア・トラオレを知ったのは 1998年のファースト・アルバム "Mouneïssa" を聴いてのことだった。続くセカンド "Wanita" (2000) を聴いて彼女に夢中になった。その頃までは、声のか細いシンガーソングライターといった印象が強かった。

 それを変えたのは 2000年の初来日公演。代官山ポレポレ(渋谷の音楽バー、国境の南のマスター羽多野さんが経営されたいた店)でのショーケース・ライブに続いて行われた台場でのステージでは、意外と力強い喉や躍動的なダンスを披露し、ちょっと驚かされたのだった。



 そして 2004年。この年リリースされたライブDVD を観て遥かに驚かされた。ここで彼女の創作活動は一度完成を遂げており、この作品はアフリカ音楽のライブ・ビデオの最高傑作の一つと言えるまでのレベルに達している。繰り返し観て、こんなライブを生で観たいと思わせるものだった。

 しかし、その後巡り合わせが悪く、彼女のライブに触れる機会はずっとないままだった。その間ロキアは成長し変化を重ねる。中でも驚きはエレクトリック路線への転向だ。Nonesuch からの近作2枚 "Beautiful Africa" (2013) と "Né So" (2016) はエレキギターを中心にした力強いサウンドが特徴。またノーベル賞作家トニ・モリスン Toni Morrison の舞台(一人芝居)でギター伴奏したのも、彼女の活動領域が広がった一例として見逃せない。

 正直なところ、ライヴDVD 以降の4枚のアルバムには納得の行かないところがあって、あまり聴いていない。そのため、ここ15年ほどは彼女を熱心に追うことはなかった。それでも、サウンドを大胆に変化させ、表現方法を広げ続けるロキアのことは絶えず気になっていた。そんな彼女の現在形を直接確認する好機だと思ったことが、なおさら今回パリに行く気を後押ししたのだった。



◇第1夜◇ Mali Connexions 2020/01/04

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 フランスは大規模スト中で、地下鉄はほとんど動いておらず、バスも激混みで時間の予測が立たない。なので、北駅 Gare du Nord そばのホテルから4km弱を歩いてフィルハーモニーへ。

 初日のプログラムはマリをテーマにした2部構成。残念ながら1階後方しか席を取れなかったが、通路側の席でゆったり観られたので我慢(ただし位置のせいか音が幾分こもって聴こえ、それが以下の感想にも影響しているかもしれない)。

 まずバラケ・シソコ&ヴァンサン・セガール Ballake Sissoko et Vincent Segal が前座で登場し1時間演奏。フィルハーモニーの大ホールのチケットが約半年前に完売になったのは、彼らの人気も影響したことだろう。淡々とコラを爪弾くバラケに対して、ヴァンサンの芸達者ぶりが印象に残った(チェロを純クラシック調やバンバラ調に弾くばかりでなく、アラブ調にやったり、パーカッションを鳴らしながら歩き回ったりと、全ての曲でスタイルを変えていた。アンコールではアルコから毛を1本抜き取り、それを弦に挟んで、毛の一端を引くことでメロディーを奏でて場内の笑いを誘っていた)。

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 続いてロキア・トラオレのグループ。ロキアは白いドレス姿で登場。袖と裾が繋がったユニークなデザインのドレスだった。

 彼女は歌に専念。バンドは、エレキギター、エレキベース、ドラムス、バラフォン、ンゴニ、男性コーラス(+ダンス)といった編成。つまりは近年のエレクトリック・バンドにバラフォンと男性コーラスが加わったもの。ロキアによるマリ音楽の現代化解釈といった趣だったが、ロック的な要素とマリ伝統音楽の要素とが融合し切れていない感じだった。コーラスとのユニゾンも効果的でありながら、それでもロキアの独唱を聴きたくなってしまう。多分全曲新曲だったと思うが、彼女なりの新たな挑戦を感じさせる内容ではあった。

 ただ、音楽的にはスタンディングの方が良かったのではないだろうか(数年前にここでユッスー・ンドゥールを観た時は1階は席を取り払いスタンディングにしていた)。ハイヒール履いたロキアの姿にもちょっと違和感を覚えたのだった。

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(最後方からの撮影ではこれが限界)


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 実は今回の3公演に際して特段予習や下調べはしなかった。公式ページに掲載されたコンサート概要の解説すら読まず。昨秋のラオス旅行と年末のインドネシア、バリ島取材で疲れ果ててしまって、これ以上何かを調べる気力が失われてしまったこともある。しかしそれ以上に、今回のライブは自然体で聴いて、自分が感じた通りに受け止めれば良いと決めたのだった。なので、このリポートには思い違いしている点も含まれていることだろう。

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◇第2夜◇ Dream Mandé Djata 2020/01/05

 2日目からは大ホールより小さめの Cité de la Musique に会場を移動。

 この日は演奏楽器がコラとンゴニだけなので、基本、ロキアの一人語りなのだろうと予想して行ったが、実際ほぼその通りだった。

 今から半年前、チケットを買う際なぜか最前列のほぼ中央に1席だけ残っていたので、迷わずこれを購入。しかし、フランス語での一人語りだとすると寝ないで我慢するのが辛そうだ。3公演の中でこの日が一番退屈なものになるか、そこそこ良いものを観られるかのどちらかだろうと想像していた。がっかりしたくなかったので、ライブの中日(中休み)だと思って気楽に大して期待せず出向いた。

 しかし終わってみると、全く気の抜く瞬間のない、実に濃密な1時間15分だった。

 ロキアは語りで13世紀のマリ、スンジャータ・ケイタ Soundiata Keita の時代へと誘う。フランス語なので全く内容を聞き取れないのだが、表現の深さはしっかり伝わってくる。淡々と語ったり、声色を変えて様々な人を演じ分けたり。その合間に、マリ伝統音楽の有名曲をバンバラ語で歌っていく。さすがに聴き馴染んで知っている歌もある。その絶唱が素晴らしいこと。ロキアがこれほどに素晴らしい歌い手だったとは!

 衣装も良かったし、伴奏や照明も息が合っている。これまでどれだけの回数演じられてきたのだろう。

 全く滞ることなく、一語一音のミスもなく、その間観衆たちの間から咳払い一つ聞こえなかった。とても集中した空間。

 全てを終えて挨拶する時の3人の笑顔。ところがロキアは瞬く間に涙腺が緩み、眼には涙が溜まって、それが流れ落ちるのを堪え続ける。彼女の顔にはやり遂げたという充実感が満ち満ちていた。

 13世紀から連なるマンディングの歴史があるからこそ、今の自分、自身の芸術があるのだという、先人たちへの敬意がひしひしと伝わってきた。こんな至近距離でステージを観て感動したのは、2年前にニューヨークのブロードウェイで(実質最前列で)ブルース・スプリングスティーンの "Springsteen On Broadway" を観て以来だ。本当に凄いものを観てしまった。このステージを観られただけで、今回パリに来た価値があった。

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(英語圏での公演では英語で語るようだ。チャンスがあれば次回は英語での公演を観てみたい。)



◇第3夜◇ Né So 2020/01/06

 最終日は現在のロキアのバンドによるライブ。"Né So" と "Beautiful Africa" の楽曲をステージでプレイするものだったが、いやー、この日も凄かった! ロックなギター、ファンキーなベース、ワイルドなドラム、ロキアの緻密なギター、マリの伝統弦楽器ンゴニ。5者の紡ぐサウンドがぶつかり合う快感。まるで濃密なジャム・セッションかのようで、サウンドが炸裂する。特筆すべきは、バラードもミディアムもなしてで、ほぼ全く緩むことなく、高速ビートが延々絡み合うこと。ロキアがヴォーカルを取る間も音量が下がることはない。いや、その覚悟が良い。そんなサウンドが70分間走り続けた。

 現代最高のアフリカ音楽のライブはウム・サンガレだと思っている。最初から最後まで絶頂感が持続する彼女のライブ・サウンドは敵なしだろう。しかし、今夜のロキアのライブもそれに肉薄するものだった。

 一つ大きなポイントだと感じたのは、ンゴニだ。大小4本持ち替えていたが、そのハイトーンはギターと対照的、いやそれ以上に立っていて、サウンド全体の要にもなっていた。

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 ロキアの歌もとても良かった。彼女は本当にタフだ。70分に及ぶセッションの後、最後の1曲とアンコールで、ロキアはギターを置いて歌う。この2曲だけは、少々物足りなかった(メンバー紹介やダンスに重点を置いていたので、仕方ないが)。それだけに彼女のギターの重要さも認識できたのだった。

 彼女の足元を見ると、今日は裸足だ。やっぱりこの方がロキアらしい。

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 パリで3日連続公演を観て、彼女の成長ぶり、スケールの大きさ、表現力の幅広さを実感できた。今年夏にはミリアム・マケーバへのオマージュ公演を行うと最近発表があった。ますます充実した活動を期待できるロキア・トラオレ、できることならばまた日本でも彼女のステージを観たいものだ。



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(今回の公演の公式プログラム)







by desertjazz | 2020-01-20 19:00 | 音 - Africa
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