ピグミー/コンゴを読む「カラハリ三部作」でブッシュマンの音楽について3冊書き上げたら、次はピグミーの音楽にもじっくり取り組もうか。そう思い始めたこともあって、このところピグミーやコンゴなどに関する書籍を集中的に読んでいる。
・生態人類学会 編『ザ・フィールドワーク』
日本の人類学者たち129人によるエッセイ集。各人2ページなのだが、全部は読めないので、ピグミーに関するものを中心にアフリカをフィールドにする研究者たちの文章を通読。多くは気軽に読めるエピソードなのがいい。日本におけるアフリカ研究の層を厚さを実感した。
・木村大治・北西功一 編『森棲みの生態誌 アフリカ熱帯林の人・自然・歴史 I 』
・木村大治・北西功一 編『森棲みの社会誌 アフリカ熱帯林の人・自然・歴史 II 』
より日本の研究層の厚さを感じたのはこれら2冊。先日、東京外国語大学の大石高典さんにお目にかかって、これらを読んでいないことに気がつき、大判の2冊800ページを約1週間で通読。2010年時点での日本におけるアフリカ熱帯林の民族に関する研究の集大成。ピグミーの音楽について語るには、まずピグミーの主要4集団、ムブティ、エフェ、アカ、バカの特徴をしっかり把握することが必要だろうが、彼らの共通点と相違点についての頭の整理をかなりできた。これから書きたいことに関するヒントもたくさん詰まっている。
・藤井知昭 監修『民族音楽叢書』
買ってから全く読んでいなかった『民族音楽叢書』全10巻、アフリカ音楽に関する章から読み始めた。まずは7巻目「環境と音楽」に収められている、澤田昌人「エフェ・ピグミーの合唱におけるクライマックスへのプロセス」を読むことで、ピグミーの主要4集団の音楽への理解が深まる。昨年の転居の際に捨てようと思ったが、持っていてよかった。最終巻の10巻目には中村とうようも執筆している。
・松浦直毅『現代の<森の民> 中部アフリカ、バボンゴ・ピグミーの民族誌』
ブッシュマンとピグミーに関する書籍は一般に手に入るものをほぼ全て買っているつもりだったが、これは高くて迷っているうちに品切れとなってしまった。それを安い古本を見つけて購入。これからしっかり読むつもり。
・シッダルタ・カラ『ブラッド・コバルト~コンゴ人の血がスマートフォンに変わるまで』
コンゴ民主共和国の南部、カタンガのコバルト採掘場の隠されてきた現状を伝えるルポルタージュ。過酷な条件下、1日1ドルほどで働かざるを得ず(無給の子供も)、粉塵を吸って体を崩し、度重なる事故で半身不随になったり命を落としたり。女性たちは性的被害を被り、それは幼女も同様。コンゴの人々はかつての奴隷制時代や植民地時代と変わらない、あるいはそれ以下の生き方を強いられている。この逃げ場のなさは、今のガザの地獄さえ連想した。読んでいて絶望感しかない。
三浦英之『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』、さらにはフランソワ=グザヴィエ・ヴェルシャヴ『フランサフリック』などを合わせて読むと、欧米や日本がコンゴを含めたアフリカの民衆に過大な犠牲を強いることで豊かさを得ていることが分かる。今はその図式の中に中国も加わっている。
(途中1か所でピグミーという言葉でてくるが、児童労働を指摘されたコンゴの国会議員が、小さく見えるのはピグミーだと返答したというもの。全くふざけている!: 179ページ)
・Joseph-Aurelien Cornet & Angelo Turconi ”Zaire - Peuples/Art/Culture”
写真中心のこの大判の本にコンゴ南部の採掘場の写真が載っていたことを思い出し拾い読み。イトゥリの森のピグミーと彼らのダンスも紹介されている。
この本は1996年にザイール(現コンゴ民主共和国)を訪れた時、キンシャサの Inter-Continental Hotel の売店で買ったもの。4kg くらいある本、よく持ち帰ったものだ。当時インターコンチは日本の西武資本下にあり、このホテルに宿泊すると Seibu Point を獲得できた。この時には500ポイントついた記憶がある。日本がイケイケだった時代の、今ではとても考えられない話。
・コンラッド『闇の奥』(光文社文庫・黒原敏行 訳)
『闇の奥』は中野訳(岩波文庫)も藤永訳(三交社)も読んでいるが、中村隆之『野蛮の言説 差別と排除の精神史』で光文社文庫の黒原訳を薦めていたので買って読んでみた。確かに読みやすく、解説だけでも価値がある。この作品を読むのは三度目なのに、ほとんど内容を記憶していなかったこともあり、今回再読してよかった。特に感銘を受けたのは文章の素晴らしさ。一文一文がこれほど深いとは。昔読んだ時にはピンと来なかったのだが、繰り返し読みたくなる名作だと思った。名文を重ねる描写を読むとコンゴの奥の森が懐かしくなる。明け方の靄に包まれた原生林の光景などは、実際その場に入って眺めて音の響きを体験しないとその美しさを十分には感じられないだろう。
(中村隆之『野蛮の言説 差別と排除の精神史』はなかなか紹介や感想を書けないでいるのだけれど、今年評判の『ブラック・カルチャー 大西洋を旅する声と音』に匹敵する名著だと思う。)
・Michelle Kisliuk “Seize the Dance! - BaAka Musical Life and the Ethnography of Performance”
・Samba Aron “African Polyphony and Polyrhythm: Musical Structure and Methodology”
ピグミーの音楽に関して定評の高い研究書も取り寄せ。中央アフリカ共和国のバカピグミーの音楽について詳述しているというこれら、2冊で2万円弱(円安が痛い)。無職の年金生活者にとっては過大な出費だけれど、読みたい本があり、リタイアしてそれを読む時間が生まれ、そのことで得た知識に基づいて好きなように文章を書けるというのは幸せなことだと思う。しかし2冊合わせて900ページ、読み通せるのか?
ブッシュマンの音楽とピグミーの音楽には、類似点が多い一方、異なる点も多い。調べるほどにそうしたことを面白く感じる。カメルーンをフィールドにする学者数人と最近やりとりをさせていただいたのだが、ブッシュマンの音楽とピグミーの音楽を比較した研究例はないのではと言われた。調べた限りではブッシュマンの音楽に関する書物は見つからず、日本でも本格的に研究した例がないのだから、ましてやブッシュマンとピグミー両者の音楽の比較研究などおそらくほとんどなされていないだろう。そう思うと、ちょっと面白いものが書けそうな気がしてきた。
ブッシュマンほどではないが、ピグミーに関してもその音楽に関する書籍が少ない。そこで頼りになるのはレコードやCDの解説やライナーノート。カラハリ三部作を作るに当たって、手元にあるブッシュマンに関する文献全てに目を通し、レコードとCDも全て聴き直した。ピグミーに関してもまず同様のことから始めるべきだろうと考えているのだが、CDだけで30枚以上ある。これら全部を聴き直し、英文や仏文の解説を読み通すのかと思うと逃げたくなるが、時間がかかってもやるべきだろう。私はピグミーの森を訪れたことはなく、自力で得た一時資料を持ち合わせていないため、ひとまずこうした文献や音資料に目を通す/聴くしかない。
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