■ Lo Cor de la Plana 東京公演(2014年2月27日、銀座 王子ホール)

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 マルセイユの5人組ポリフォニー・コーラス、ロ・コール・デ・ラ・プラーナ(ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ)の東京公演を観てきた。彼らの来日公演の話は過去2回流れているので、待望の初来日だ。

 ロ・コール・デ・ラ・プラーナは2001年にマニュ・テロン Manu Théron を中心に結成された男声6人組(現在はひとり減って5人編成)。マルセイユやイタリアなどのポリフォニー・コーラスをベースに、マグレブや東欧、イランあたりまでの音楽までも視野に入れたオリジナル性の高い音楽を生み出している。歌の多くはフランス南部オクシタン域の伝統歌/詩に基づいており、オクシタン語で歌われる。そのような彼らの声に加わる楽器(音)は、タム程度の大きさの太鼓1つと、マグレブのフレームドラム(ハンドドラム)であるベンディールが大小3個ほどと、ハンドクラップと、足踏み程度(スタジオ作では、そこにごくわずかにエレクトリックな音も混じったりするが)。

(参考)マニュ・テロン・インタビュー

 私が彼らのライブを観るのは、2006年10日26日のマルセイユ、2009年10月4日の台湾に続く3度目。彼らのファースト・アルバム "Es Lo Titre" のリリースが 2003年、セカンド "Tant Deman" が 2007年、最新作のサード "Marcha !" が2012年なので、タイミング良くそれぞれのアルバム発表後のライブを観てきたことになる。

 8年前のマルセイユのフェス Fiesta des Suds では、6人組時代のステージを観た。フェス特有の観客たちとの一体感や、地元のファンファーレ・グループ Aupres de ma Blonde との共演の遊びや、長さ数メートルもある巨大なポリ袋で音を鳴らしたりする実験性などがまぜこぜになって、祝祭性の高いものだった。とくに彼らのライブのハイライト曲 "La Noviota" で巻き起こった高速輪舞の楽しさは忘れられない。

(参考)Lo Cor de la Plana in Marseille 2006

 対して4年前の台北公演は中山堂の大ホールで開催されたもの。ここは音響がとても良く、ロ・コールのメンバーたちもその長い残響を味わうかのような歌いぶりだった。マニュは曲ごとに音叉で音程を確認し、5人が輪になって互いの声を確かめ合うような姿が印象的だった。それも終盤には、弾けて楽しいステージへと盛り上がっていったのだが。

(参考)Lo Cor de la Plana in Taipei 2009

 つまりロ・コールの音楽は大きく2つのスタイルに分けて捉えることができる。例えば教会音楽を連想させるような純然たるコーラスと、ベンディールが激しく打ち鳴らされ勇ましい足踏みが加わるもの。もちろんこれらは全く二分されるものではなく、ひとつの曲の中でも2つのフェイズが交互に展開もしていくのだが。

 さて、今回の東京公演の会場は銀座の王子ホール。ここは普段はクラシック、それも室内楽などの公演が多いようだ(会場で知人に言われて思い出したのだが、アゼルバイジャンのアリム・カシモフとフェルナーガ・カシモフの父娘の歌もここで聴いたのだった)。ならば台湾公演に似たものになるだろうと予測。生憎の雨の中会場に辿りつくと、まずプログラムが手渡され、公演曲目も明記されている。

 およそ300の座席を見回しても、文化度の高そうな?ご婦人方が多い。この会場の常連客の方々がある程度を占めているようだ。10人弱集まった友人たちを除くと、ワールドミュージック・ファンも、話題になった BS番組 "Amazing Voice" で知って来た風の人も少ないように感じた。これは結構なアウェイ感。これから出て来るメンバーたちにとっても同様だろうと想像された。

 さて、いつもと同じくブルージンズに黒のシャツを着て登場した5人、1曲目は "Despartida"(別離)。まだ場の響きを探るような声の合わせ方で、やや不安定さも残しながら美しいコーラスを披露。純クラシック的展開になるのかと思いきや、2曲目 "Sant Trofima"(聖トロフィマ)で早くもベンディールを打ち鳴らし、いつものパフォーマンスになっていった。

 その後も、絶品もののコーラスと打楽器交えたリズミカルなものとを互いに繰り広げるステージが続く。それでも室内楽的な雰囲気は絶えなかった。会場があまり広くない分、残響が短く、中山堂の方がずっと教会コーラス風に聞こえたほどだったのでもあるが。

 今回王子ホールで観て良かったことのひとつは、彼らのコーラスの作りをじっくり観察できたこと。時に5人がユニゾンで、時にマニュと他のメンバーとが全く違ったフレーズを歌っている構造がよく分かった。驚いたのは3曲目の "Noste Pais"(われらが国)。マニュが下手でリードを取っている間、上手で3人が円陣を組んで音程変化なしにコーラスしているのだが、これがノンブレスにしか聞こえない。3人が聴き手に分からないように順番に息継ぎをして何分も続く通奏音を生み出していたのだろう。このテクニックには舌を巻いた。

 公演全体を通じて思ったのは、今回の公演演目の大半を締める最新作 "Marcha !" の曲の見せ方をとても工夫しているということ。マルセイユと台北では6人(5人)が横一線になって定位置を離れた印象が乏しかった。それが今回は絶えず動き回って「舞台演出」している。時にはユーモラスな味付けもさりげなく交えて笑いを誘う。随所に工夫の見られたステージングだった。
 
 それでもどこか物足りない。何が足りないのだろうと考え続けて、途中でようやく気がついた。ほとんど足踏みをしていないのだ。せいぜい軽くリズムを取る程度。力強い足踏みが加わらないと幾分ダイナミックさに欠ける。

 今回このような演じ方を選んだのは、ロ・コールのメンバーたちだったのだろうか? アルバムの楽曲に沿ったアレンジだったのだろうか? それとも会場の特性に従ったものだったのだろうか?(クラシックは聴かないので予備知識を持っておらず、ステージを傷めないために足踏みを禁止しているのだろうかと勝手に想像した。)

 それでも、ラストの "La Libertat" とアンコールの2曲 "La Vielha"(老婆)と "La Noviota"(花嫁)に至ってようやく少し足踏みが強まったのだけれど…。うーん、足踏みが乏しく聞こえたのは単なる気のせいだったか? あるいはステージの板が鳴らない丈夫さを持っているというだけのことか?

 ロ・コール・デ・ラ・プラーナの人気は日本でも高まっており、すでに再来日公演のプランもあると聞く。その際、個人的要望として、クラシック向きの会場以外での公演も実現していただけないだろうか。もちろんコーラスの美しさ、素晴らしさは言うまでもないが、強靭なリズムに乗って生まれるトランシーなサウンドもまた彼らのライブの大きな魅力だと思う(それが時に祝祭的な高揚感さえもたらす)。なので、次回はワールド・ミュージック愛好家や一般の音楽ファン向けのライブも企画して下さるよう是非お願いしたい。

 日本でも "La Noviota" を聴きながら、祭気分でグルグル回りたかった。これが今回唯一の心残り。




 翌 2月28日は会場を横浜国立大学に移して開催された「地中海の”声の文化”ポリフォニー〜南フランス編」へ。ここに Lo Cor de la Plana がゲスト出演してくれて、なんと4度も実演。トータル1時間以上歌ってくれたのではないだろうか。その間ずっと最前列で眼と耳を釘付けにして観て/聴いていた。普段のコンサートでは見られないような特別なパフォーマンスまで披露してくれて。こんな素晴らしいものを極少人数でたっぷり堪能ききたなんて、あまりに贅沢すぎる!

 長くなったので、詳細は改めて別の記事で。

 (つづく)





# by desertjazz | 2014-03-01 15:00 | 音 - Music

読書メモ(フランス漬け?)_d0010432_11385952.jpg

 最近読み終えた本、今読んでいる本(の一部)を並べてみて気がついた。フランス人作家の本ばかりじゃないか! これって偶然だろうか? それともフランス音楽ばかり聴いているのと同様、フランスへの関心の表れなのだろうか?

(例外は南ア人であるデヴィッド・ルイス=ウィリアムズの『洞窟のなかの心』。しかしこれもブッシュマンの古代壁画などとともに、フランス南部の洞窟壁画を詳しく研究したもの。)

 モーリシャス3部作を読み終えたル・クレジオなど面白かったものばかりなので、感想を綴っておきたいのだが、相変らずそうした時間がない(取りあえず Twitter や FB にメモしたものを、後日 Blog に整理して書こうとは思っているのだけれど、これが面倒になってしまっている。)。

 共通している点は、旅心をくすぐるということ。『隔離の島』でモーリシャスに、『HHhH』でプラハに、『洞窟のなかの心』でボツワナ〜ナミビアの国境地域に行きたくなり、ランボーの詩を読んでマルセイユやエチオピアが懐かしくなった。

 もっとたっぷり読書したいとも思うのだが、それも今は難しい。『農耕詩』もさっぱり進まなくなっている。

 うーん、こんな読書を続けていると、フランスに生まれたかったな、なんて風にも思ってしまう。


 そうそう、フランスもの以外ではスウェーデン作家ミカエル・ニエミの『世界の果てのビートルズ』も読んだ。スウェーデン最北部、北極圏でフィンランドと接する村での青春物語。これを読んで北欧の人々への印象が変わりました(結構気質が荒っぽいんだなぁ)。






# by desertjazz | 2014-02-27 11:50 | 本 - Readings

一生モノの Jaques Brel

・ Jaques Brel "Suivre L'etoile" (Integrale / 21CD)
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 実はレコードを買うことを再び止めている。全く買っていないわけではないが、ここ半年以上は昔と比較すると遥かに少ない。CD 購入枚数が実質ゼロに近い月もある。

 理由はいくつかある。まず音楽を聴くより本を読んでいる方が楽しい状態が続いている、というのがひとつ。旅行計画が立て込んでいて、その資金を生み出したいということがひとつ。それ以前に、今抱えていることが多すぎて、時間的にも気持ち的にも余裕がないことも大きい。

 それと、日本の現状を見つめていると、考えなくてはいけないこと、取り組まざるを得ないことが、あまりにも増え過ぎてしまっているとも思う。3.11 から間もなく3年。世の中、少しはロジカルに考える方向に進むかとも期待したのだが、現実は全く逆に進んていて、そんなナイーブな願いなど儚い夢。そうした中、音楽を聴くより優先すべきことが山積していると考えてばかりいる。

 そんな大きな問題から話を元に戻すと、レコードも CD も買わなくなったもうひとつの理由はジャック・ブレルの没後35周年記念ボックスを手にしてしまったこと。

 ブレルは今でも一番好きなフランスの歌手(彼はベルギー人だけれど)。アナログ盤はそれなりに持っているし、昔 Barcley から出た CD 10枚セットも持っている。LD や DVD も出れば買ってきた。なので、もうこれ以上は必要ないと思っていた。

 どうもブレルは5年ごとにコンプリート・ボックスを出しているようで、パリやマルセイユでそれらを目にする度に(何年経っても売れ残っている)迷いながらも、毎度パスしてきた(変型ボックスが取り扱いにくそうでもあったので)。

 それが、昨年夏に出た 21枚ボックスだけは、魔が差して買ってしまった。「未発表音源」が大量に含まれていたし、リマスター・サウンドは自分が所有する CD の音よりも遥かに良いだろうと想像できたし。

 そして、これが大正解! もう素晴らしいの一言。初期の若々しさ、晩年の穏やかさや、オランピア・ライブの暴れ馬のような力なんかが昔から大好きだったけれど、今回じっくり何度も聴き返してみて、中期の充実振りに圧倒された。音楽を聴いてこれほど心が打ち震えたのはいつ以来だろう。

 ブレルさえ聴けるならば、もう他には何もいらない。そんな気分がずっと続いている。これは Billie Holiday の Columbia 録音のコンプリート・ボックス 10CD を聴いていた時の気分にそっくり。実際ここ半年、ブレルばかり聴いているような気すらしている。

 若いころのように、大量の音楽を浴びるように聴くことは、時間的にも体力的にも難しくなった。(加えて、仲間たちが相次いで倒れていく。)そんな今なるべくは、自分が本当に愛する音楽だけとゆっくり向き合いたいと思う。このボックスは、そんな自分にとって正しく一生モノです。

(ブレルに関して語りだすと止まらないし。それは自分の役割でもないと思うので、今回気がついたことをひとつだけ。彼の晩年の代表曲 "Ne Me Quitte Pas" の未発表トラックのひとつが、なんとタブラだけをバックに歌っている。こんな録音があったとは! これにはちょっとびっくり。)

 この21枚組ボックス、12000セット限定だそう。でも、そんなに売れるとは思えない。多分5年経っても残っているでしょう。その没後40周年になる 2018年には果たしてどんな音源が新たに登場するのだろう?






# by desertjazz | 2014-02-26 21:00 | 音 - Music

 ロ・コール・デ・ラ・プラーナ(ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ)Lo Cor de la Plana のメンバーたち、本日無事に日本に到着した様子。4年前に台北で観たときの写真をながめながら、明日のステージを想像している。

 以下、 FB から転載(残念ながら失敗写真ばかりなのだけれど…)。

 (2009年10日4日に台湾 台北の中山堂ホールで撮影)

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(後半の3枚は Sam Karpenia とのステージから)




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 ということで、こうしたアルバムを聴いて予習中。明日、銀座・王子ホールでお会いしましょう!





# by desertjazz | 2014-02-26 20:00 | 音 - Music

 ロ・コール・デ・ラ・プラーナ(ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ)Lo Cor de la Plana の初来日を記念して、彼らを初めて観たときの写真も FB から転載しておこう。

 (2006年10日26日にマルセイユの Fiesta des Suds 2006 で撮影)

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メモ:

1) 公演前にリーダーのマニュ・テロンにインタビュー。それから初体験したオクシタン・ポリフォニーの素晴らしさに圧倒された。
2) 最初美しいの6声の響き合いに魅了された。足踏みと手拍子とベンディール(ダール状のハンドドラム)が加わってテンション高まる。
3) 最も記憶に残っているのは断然 "La Noviota"。周囲の観客たちが手を取り合い物凄い高速で輪舞。ちょっと身体が触れただけで倒されてしまいそうな危険を感じたほど。もうドンチャン騒ぎの村祭りてきな楽しさ。
4) 後半はファンファーレ・グループ、Aupres de ma Blonde が共演。馬鹿でかいポリ袋まで楽器にしたりなど、アイディアたっぷりでむちゃくちゃ楽しかった!


 さて、来週の東京公演はどんなステージになるのだろうか?





# by desertjazz | 2014-02-18 20:02 | 音 - Music

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