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 南ア・コーラスの最高峰 The Dark City Sisters の "Star Time" 4枚がついに揃った。中村とうよう『アフリカの音が聞こえてくる』で知ってから40年弱、実は割と最近まで1枚も持っておらず。適当な値段のミント盤を探し続けたので時間がかかってしまった。昨日最後に届いた Vol.4 はジャケが少々汚れているけれど、円安が進みミント盤を予算内で買うのはもう無理だと観念。

 その Vol.4 も内容は最高だね! 面白いと思ったのは、例えば "Itinto Ezinhle" という曲は、節回しが Bongeziwe Mabandla とそっくりなこと。半世紀以上昔の歌が、最先鋭のサウンドにまで繋がっているのだな。








# by desertjazz | 2023-09-11 15:00 | 音 - Africa

読書メモ:高野秀行『イラク水滸伝』_d0010432_15571256.jpg



 高野秀行『イラク水滸伝』読了。570ページ以上ある厚い本だが、面白くて2日半で読み終えた。

『語学の天才まで1億光年』もそうだったが、独創的な旅の記録であると同時に、学術的にも内容が濃い(一方は歴史学/文化人類学として、もう一方は言語学として)。そうした両面を語り尽くしたいと思うから、これだけ厚い本になるのだろう。それでも文章が読みやすく、改行も適度になされているのでサクサク進む(余談だが、改行を工夫することで読みやすくしている点、堤未果にも同様なことを感じる)。

 高野本人が「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」と語っている通り、彼の本は、毎度着眼点はいいし(全く誰も思いつかないようなものばかり)、見つけたテーマをとことん掘り下げる。著者自身が「これはどういうことだろう?」と抱いた疑問について、徹底的に調べて納得したいのだろう。だから、大量に文献を読み、専門家や出身者を探して聞き、そして現地に足を運ぶことになるのだ。

 今度の旅も想定外の事件やトラブルの連続で、それがイラク南部湿地帯への探求を深め、結果として本を抜群に面白くしている。また、いつもと同様に食に対する好奇心も十分に満たしてくれる。個人的に強く興味を惹かれたのは、偶然出会ったマーシュアラブ布(アザール)。これは貴重な大発見であり、また重要な調査報告でもあるだろう。個性的な意匠や配色の美しさを目にして、たっぷり楽しませてもらった。

『謎の独立国家ソマリランド』を読んだ時もそうだったが、今回も描かれる国に対する見方が決定的に変わった。知らない国のことを、真面目な研究と(一見)くだらない笑い話とをバランスよく配しながら、想像力も働かせつつ描き出す筆力はさすがだ。特に興味のなかったイラクにも行きたくなってしまった。

 高野秀行は単に好奇心が強く、探究心が旺盛なだけではなく、異国の人々の世界へ入り込む才能にも長けている。その秘密は、この「インドで身ぐるみ剥がされて気づいた異文化コミュニケーションのヒント。探検作家・高野秀行の多様性社会論」という記事を読んでも伝わってくる。






# by desertjazz | 2023-09-08 16:00 | 本 - Readings

徹底研究・ブッシュマンの音楽 16:ターの音楽_d0010432_12013138.jpg



 今年6月に "Taa! Our Language May Be Dying, But Our Voices Remain" というタイトルのアルバムがリリースされた。これはティナリウェンのアルバム制作でも知られるプロデューサーのイアン・ブレナンが、アフリカ南部のボツワナ共和国で「ター語」という希少な言語を話す人々の音楽を集めたもの。その録音内容やブックレットの写真から、サン(ブッシュマン)のフィールド・レコーディングだろうと推測したのだが、公式ウェブサイトの解説にも、ライナーノートにも、サンあるいはブッシュマンといった用語が全く使われていない。果たしてサンと関係があるのかどうか気になって、少々調べてみた。


 ボツワナやナミビアに暮らすコイサン系の人々は、言語的に3系統に分類される。ボツワナ北西部やナミビア北東部などのジュンホアやクンはカー語族。ボツワナ中央部のグイやガナなどはコエ語族。そしてもう一つのトゥ語族にはターも含まれる。やはりターの人々はサン(ブッシュマン)の仲間なのだ。


 ターと呼ばれる民族は現在2000人を超える程度で非常に少ない。その大半がボツワナに住んでいるが(ハンシーの南方など国の南西部に多い)、ナミビアにも数百人いるそうだ。そして、ターという言語は発音の種類の多いこと(112種類もあるらしい)と、クリック発音の豊かさで知られているとのことだ。

 この CD には16トラック収録されているが、1分に満たない短いものもあって、トータルでもわずかに30分。だが内容はなかなか多彩だ。それらは以下のように、おおむね3種類に分けられる。

(1)親指ピアノの弾き語り、など(トラック1、2、7、10、12、16)
(2)女性の伝統スタイルの歌、など(トラック3、4、6、15)
(3)声/ラップとパーカッション、など(トラック5、8、9、11、13、14)

 まず親指ピアノの弾き語りが聴き物だ。Gonxlae、Xhashe という名前の80歳過ぎの老人の演奏に惹かれる。サンの親指ピアノは「デング」や「ドンゴ」などと呼ばれているのだが、彼らの爪弾く音もいかにもデングらしい金属質な音だ。ただしトラック7と16を除くと、デングに特徴的なバズ音(ジャラジャラ鳴るノイズ音)が全く聞こえない澄んだ音である。そのため、トラック7が最もサンらしい音楽に聴こえる。

 女性たちによる力強い手拍子を伴った歌は、古くからサンの音楽のうち特徴的なもののひとつだ。特にヒーリング・ダンスの時に唱和されるトランシーな歌と強烈な手拍子には圧倒される。「ポン」「チッ」「べチャッ」といった弾けるようなクリック発音もサンらしい響きである。

 ラップのような歌が多いこともこのアルバムの特徴だろう。それらにはヒップホップからの影響が明らかに感じられる。胸?を叩いてビートボックス状の音を出したり(トラック8)、ポリ製の水道管を叩いたり(トラック9)、金属板を擦ったり(トラック11)といったように、廃材を利用したパーカッションも興味深い(トラック6ではプラスチックのコップをパーカッションにしている)。

 親指ピアノや女性の歌といった従来からあるスタイルのサンの音楽が聴けるものの、デングにバズ機構がついていなかったり、クリック発音を伴わない歌があったりする。デングは基本的に男性が一人で弾き語るものなのだが、2人組での演奏には時代変化を感じる(Gonxlae は女性?かもしれず、だとすれば結構珍しい)。ラップといった外来ポップの影響も伺われ、アルバムの随所から彼らの音楽が変化し続けている様子が感じ取れる。またブックレットの写真を見ると、老人の顔はいかにもコイサン系だが、若い女性の見た目からはバントゥー系の特徴を強く感じる。

 ターも他のサンと同様に、ツワナやカラハリなどの非コイサン系の人々との混血が進んでいることだろう。また外来文化が盛んに流入することで、彼らの音楽も変化し続け、いわゆる「民族音楽」的なイメージからの変貌も大きいと言える。そのような理由から、従来の「ブッシュマン」を連想させるサンなどの名称を使うことは避けたのかもしれない。


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# by desertjazz | 2023-08-28 12:00 | 音 - Africa

徹底研究・ブッシュマンの音楽 15:ヒーリング・ダンス_d0010432_12510619.jpg


 先日、近所の図書館で民族学関連の文献を漁っている時、リチャード・カッツ『〈癒し〉のダンス 「変容した意識」のフィールドワーク』という一冊が目に留まった。ページを開いてみるとカラハリのサン(ブッシュマン)のヒーリング・ダンスに関する内容だったので、思わず興奮。そしてリチャード・カッツという名前にピンとひらめき、もしやと思い確認してみたらやはりそうだった。これは Richard Katz "Boiling Energy: Community Healing among the Kalahari Kung" (1982) の翻訳書だ。

 昔からサンに関連する本や資料は可能な限り集めており、この洋書もいつか読もうと思っていたのだった。しかし、その邦訳が10年以上も前の 2012年に出ていたことに、どうしてこれまで気が付かなかったのだろう。多分この邦題だけではアフリカに関するものだと思えなかったのだろう。それより迂闊なことに、"Boiling Energy" がヒーリング・ダンスについての本だということを今頃知ったのだった。

 さて肝心の内容なのだが、サン(ブッシュマン)のヒーリング・ダンスについてここまで詳しく書かれたものは、他にないだろうと思う。実際、著者自身も「最初の包括的研究」と書いている。リチャード・カッツは 1968年9月〜11月の3カ月間、ボツワナ北西部、ナミビアと国境を接するドーべ地域に滞在し、そこのクン・ブッシュマン(現在はジュートワシと呼ばれる)の癒し手(ヒーラー)たちにインタビューを重ねた。そしてそれらに基づいて、彼らのヒーリング・ダンスに関して詳細に綴っている。

 彼らのヒーリング・ダンスについて簡単に説明しておこう。それは通常、夕方から翌朝にかけて行われる。焚き火を囲んで女性たちが歌いながら手拍子を打ち、その外側を主に男たちが足踏み状のダンスをする。

「踊りが激しくなるにつれ、男女の癒し手ーーほとんどは踊っている男たちだがーーのうちにある「ヌム」という霊的なエネルギーが活性化される。体内にあるヌムが活性化されると、癒し手は「キア」という高次の意識状態に入る。」(P.60)

 こうしてキアという変性意識状態に入った癒し手によって病人が治癒される。だが、ヒーリングの意味はそれだけに留まらない。最も重要な指摘は、次の一文に集約されている。

「クンの人々にとって、癒しは、単なる治療や医療をこえている。確かな健康をもたらし、身体的、精神的、社会的、霊的レベルの向上を目指すものだ。癒しは、個人、集団、周囲の環境、さらには宇宙の全体にかかわる行為なのである。」(P.60)

 ヒーリング・ダンスはトランス・ダンスとは異なるものであるし、癒し手はいわゆるシャーマンではない。そのため、カッツによる説明を読んでも、彼らのヒーリング・ダンスがどのようなものであるのか把握しにくい(実際カッツも完全には理解できていないようだ)。キア状態になると激痛と恐怖を感じ、死ぬ危険性さえある一方で、ヒーリング・ダンスは単なる楽しみとしても行われるというのだから、なおさら分からなくなる。

 それでも極めて貴重な研究であり、全体を通して興味深く読んだ。ただ、ヒーリング・ダンスを音楽として捉えた時の分析が少ないことが残念だった。具体的には、

(1)歌詞に関する説明が少ない。ヒーリング・ダンスの歌は基本的にヨーデル風のものであるが、その前段で言葉が重ねられる。その内容について触れられていないし、例えば「ゲムスボックの歌」「エランドの歌」などと称されることに理由があるなら、それも知りたかった。

(2)音楽学者でもあるカッツから見た音楽的分析がほとんどない。サンの音楽は2拍と3拍のヘミオラに特徴があり、ヒーリング・ダンスでもそれが顕著なので、そのあたりの解説が欲しかった(ヘミオラは2拍子と3拍子が絶えず入れ替わって聞こえるもので、例えば6拍子と8拍子がパラレルに進行するポリリズムとは異なる)。

 この本はサンにとってのヒーリング・ダンスの意味を追求したものなので、もちろんそこまでは高望みであるとは分かっているのだが。また、そうしたことに関しては見落としもあるだろうから、現在再読中である(この本の内容に関しては後日もっと書いてみたいとも考えている)。

 探してみると、リチャード・カッツには "Healing Makes Our Hearts Happy"(1997)という著作(共著)もあった。これは "Boiling Energy" のカラー・ビジュアル版といった雰囲気もする大型本だ。拾い読みしてみたのだが、歌詞などについてももっと触れているようだった。


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『〈癒し〉のダンス』を読んでもうひとつ興味を抱いたのは、他のサンのヒーリング・ダンスとの共通点と相違点である。サンは言語的に、コエ語族、カー語族、トゥ語族の3つに分かれる。リチャード・カッツが調査したドーべのサンがカー語族なのに対して、私が最も関心を持っているのはボツワナのコエ語族の人々、中でも主に現在の中央カラハリ動物保護区(Central Kalahari Game Reserve)に暮らすサンたちだ。

 そこで調べてみると、コエ語族について最も詳しく書いているのは、日本人研究者たちを除くとシルバーバウアーのようだ。ならばシルバーバウアーも読もうと思い、代表作 George B. Silberbauer "Hunter & Habitat in the Central Kalahari Desert"(1981)を買おうとしたのだが、、、、この本も自宅の書棚にあった。2009年に再販された時に買ったようなのだけれど、折り目が全くついていないので、どうやらそのまま放置してしまったようだ。反省。


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 ただ、リチャード・カッツにしてもシルバーバウアーにしても既に半世紀近い昔の研究であり、シルバーバウアーに対しては批判もあるようなので、まずは最新の研究を優先して読んでいるところである。


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(最近入手したこれら2冊がとても有益だった。)




(以下、余談)

 リチャード・カッツ『〈癒し〉のダンス 「変容した意識」のフィールドワーク』は既に品切れで、古本も高い。それでも手元に持っておきたいと迷ったのだが、残念な日本語訳なので買うのは諦めて、図書館で借りた本を全ページ、スキャンして再読している。

(これは私だけかもしれないが)とにかく日本語訳を読むのに難儀して、通常の読書の倍くらい時間がかかった。適当に本を開いて、例をあげると、

「わたしは、目に見えない存在で、クンという素材をそのまま選ぶ、透明な乗り物だ、というわけにはいかない。」(P.27)

「ふつう、ライオンは、人間を襲うことはない。」「癒しは、癒し手が通常の自己を超越してキアに入り、じぶんのヌムを、病を治すのに使うから、可能になる。」「一方、ヌムのキアは明らかに、ほかと比べものにならないほど、重要なものと考えられている。」P.150/151

「「誰が誰の助けを求めるか」は、癒し手の力を判断する決め手となる、大事な指標の一つだ。」「物語をさらに印象的にするため、病気の重さ、死の危険だけでなく、回復した病人が喜んで贈ってくれた、素晴らしい贈り物について、語ることもある。」P.334/335

 全てのページが、こんな調子で、全ての文節に読点を、打つ勢い。なので、読んでいても、リズムが生まれない。読点を打つにしても、場所が間違っている。そのために、修飾関係が掴みにくいのだ。最初の一文にしても、「選ぶ」で終わったと思ったら、まだ続いていて、「乗り物だ」で今度こそ終わり、と思ったらまだ続き、その都度ずっこけてしまう。

 昨日の記事で、篠田謙一『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』の日本語について苦言を書いたが、内容的にも文法的にも間違っていないだけでなく、読みやすい日本語、意味の通じやすい日本語になるよう、編集者や校正者には期待したいものだ(文章力のない私が言える立場ではないだろうけれど)。


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# by desertjazz | 2023-08-27 14:00 | 音 - Africa

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 高野秀行『語学の天才まで1億光年』。笑いと真面目な分析とのバランスも良く、抜群に面白い。誰もが絶賛している内容については省略して、個人的に興味を持ったことをひとつ。

「この言語でいちばん面白かったのはリズムだ。「ン」や「ム」で始まる単語がひじょうに多い。」「このンやムで始まる単語の多用はバントゥ諸語の特徴だ。そして、この言語グループの民族はリズミカルな音楽をことのほか得意とする。普通に会話しているだけで、ンタタ・ンタタ・ンタタ・・・と音楽で言うところの裏打ち(裏拍)のリズムを刻んでしまうのだから、」(P.52)

 なるほどと思いつつ、のなか悟空『アフリカ音楽探検記 民族の大地の野生セッション』(情報センター、1990)の次の記述も思い出した。

「そういえばアフリカの地名でもンバララ(Mbarara)ンバサカ(Mbasaka)・・・のように最初にMで始まる無声音が多い。たとえば「ンバンダカ」を、どうせ「ン」は発音しないからといって、省略して「バンダカ」と言ってしまえば間違いなのである。」「この無声音は16分休符のようにもとれる。これが彼らのウラ拍やアーフタクトの感覚と共通しているとも言えなくないと思う。」(P.174)

 チャドの首都が「ンジャメナ」だったり、ジンバブウェのショナ人の親指ピアノが「ンビーラ」と呼ばれたりと、確かにアフリカ各地には2拍目にアクセントの来る言葉が多い。こうした言語の特徴と彼らの裏拍リズムとは深く関係しているように思える。

 そういえば、以前に菊池成孔さんの本で「テオ・マセロがマイルス・デイヴィスの曲を編集した際、冒頭あえて1拍目を切って裏拍から入った」というようなことを読んだ記憶がある。あれは、どの本、どの曲だったかな? イントロのカッコ良さだけは印象に残っている。

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 ピーター・レイビー『博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスの生涯』を読み始めたら、面白くて一気読み。ウォレスに関する書籍は読み漁ってきたが、なぜかこの本はまだ読んでいなかった。ウォレスといえば、アマゾン川流域とマレー諸島を広く調査・生物収集し、その旅の過程で自然選択を思いつき、ウォレス線を発見したことが有名。だが、心霊現象を信じて傾倒したり、盛んに社会活動を行ったりした後半生についてはよく知らなかった。


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 チャールズ・ダーウィンはウォレスのアイディアを盗んで『種の起源』を書いたと告発する本(アーノルド・C・ブラックマン『ダーウィンに消された男』など)があって、少々印象が良くなかった。だが、『ウォレスの生涯』を読む限り、2人は互いを尊敬しあい、長年交流を続けてきたようだ。


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 ついでにダーウィンの『種の起源』も読んでみた。とにかく、長い! 回りくどい! しかし我慢して最後まで読んでみたら、自分なり自然選択の仕組みがイメージできて、これまで理解が及ばず疑問に思っていた点も結構解消された。そして、適者生存の仕組みから洞察されるダーウィンの指摘の鋭いこと。ウォレスのアイディアを盗んだとしても、短期間で、これだけのデータを並べて厚いものを書き上げ、そこにこれほどの発想を埋め込むことなど不可能だったに違いない。


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 ウォレスの旅行記『マレー諸島』は大好きで繰り返し読んだ。そして読む度にインドネシアをゆっくり旅したくなるのだ。ダーウィンは『種の起源』があまりに有名だが、彼の旅行記『ビーグル号航海記』も昔読んで面白かったな。


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 人類進化に関する本では、篠田謙一 『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』はやや期待外れ。古い化石もDNA検査が可能になったというのは画期的だ。だが、人類移動の過程を類推する説明が毎度腑に落ちなかった(理解できなかった)し、各章とも最後は「よくわかっていない」というような結び方(まだまだ化石資料が足りない現時点ではそれも当然なのだろうが)。それと、「ます」「います」で終わる文があまりに多すぎて、文章のリズムが悪く読みにくかった。(個人的には読んでいてイライラするレベル。校正段階でどうにかならなかったのだろうか?)

 シュレーディンガー『生命とは何か 物理的にみた生細胞』も最近になって読んだが、現代の感覚からするとロジックに無理を感じるのだけど。

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 復刻刊行の始まった「世界探検全集」、最初にハインリヒ・ハラー『石器時代への旅』を買って読んだ。現在のインドネシアの一部であるニューギニアが舞台であることもあって。だが、正直なところ記述が退屈に感じられ、読み終えた後すぐに売ってしまった。続いてマンゴ・パーク『ニジェール探検行』を読み始めたのだが、こちらもなかなか進まない(現在まだ3分の1)。それでこれは後回しにして、今、デイヴィッド・リヴィングストン『アフリカ探検記』を読んでいるのだが、こちらはサクサク進む。先の2冊は日記体の構成なのだけれど、そうした作品には限界があるのだろうか(昔ミシェル・レリス『幻のアフリカ』を読んだ時も結構難儀した)。それに対して、ウォレスの『マレー諸島』やリヴィングストンの『アフリカ探検記』は後日再構成されているので、無駄がなく読みやすい。


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『アフリカ探検記』を先に読んでいるのは、カラハリ砂漠とブッシュマンについて書かれているためでもある。思うところがあって、最近カラハリとブッシュマン(サン)に関する文献を集めて読み込んでいる。そのことに関しては、また改めて。


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 岩波『世界』で8月号から始まった連載、中村隆之「ブラック・ミュージックの魂を求めて」

「第1回 アフリカの口頭伝承、その叡智と音文化」。書き出し、初心者/一般向けのように見せ、9ページと短いものだが、まとまり良く筋の通った論考で、復習かつ参考になった。
「第2回 奴隷船上の歌」。アレックス・ヘイリー『ルーツ』が懐かしい(文庫は今でも持っている)。歌がアメリカに伝わることに女性たちが果たした役割や、奴隷船上での反乱についてはよく知らなかったので、興味深かった。参考文献のマーカス・レディカー『奴隷船の歴史』にも興味を持ったので、図書館から借りてきたが、かなりの文字数なので読み通すのには時間がかかりそうだ(『女奴隷たちの反乱』はなかった)。


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 最近は小説をさほど読んでいないが、J. M. クッツェー『ポーランドの人』とミシェル・ウエルベック『セロトニン』は楽しめた。またまたダメ男の話かと思いきや、どちらも一風変わった純愛小説? 男が女性心理をこう描くとは、小説家としてのクッツェーの力量を感じた。リチャード・ライト『ネイティヴ・サン』は読んでいてヒリヒリしっぱなし。

 ちなみに 2023年上半期に読んだベスト3は、ロバート・コルカー『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』、沢木耕太郎『天路の旅人』、オルハン・パムク『ペストの夜』。高山博『ビートルズ 創造の多面体』も良かった。


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# by desertjazz | 2023-08-26 15:00 | 本 - Readings

DJ

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