2009年 (1)

 空疎な一年だった。

 今年はひたすら慌ただしいばかりで、何も残るものがない年だった。そんな2009年だったのだけれど、それでも簡単にでも振り返ってみる気になった。ただし、あくまでも個人メモといったレベルのまとめでしかないだろうから、お読みいただいても暇つぶしにもならないかも知れない。



 実は今年もブログはほぼ毎日のように綴っていた。しかし、これだけ空疎な日々を送っていると、有益な情報発信は難しく、誰かの役に立ったり楽しんでもらえたりする内容にはならない。読み返してすぐにそのことに気がつき、ブログは個人的な日記や思いついたことを書き留めるメモとして活用していた。なので、公開向けに書いてアップする機会は乏しくなってしまった。後でその理由は書くつもりだが、音楽情報も激減し、毎度チェックして下さった方々の期待に添えなかったことはお詫びするしかない。

(追記: 以前にも書いたことかも知れないが、他人のブログを読まないのに、自分がブログを書き公開することに、ある種の矛盾も感じた。)

 何の楽しみもない日々に苦しむ中、逃げ出すようにフランスと台湾とインドネシアに短期旅行できたことは救いだった。

 それでも最近になってようやく少しばかり余裕を持てるようになり、このごろは読書を楽しんでいる。そして、最近の読書メモくらいは公開してもいいかなという気になり、日記の一部を整理してアップしてみることにした。ただし、書評をする気も力もなく(そうしたことはたくさんの方々が行っているはず)、あくまでも個人メモの次元であることをお断りしておく。その上で若干でも近況報告的なものになっていればいいかな、とも思う。



 ということで(?)、「音楽」「音」「本」「食」「旅」などのテーマで、個人的に2009年を振り返ってみたい。

 まずは「本」の話から始めたいのだけれど、今年は公開したブログで何を書いて何を書かないでいたのか、そして何をアップ済みなのかも定かではない。これから書くことにも、話が飛んだ印象を拭えない部分もあるだろう。例えば、一昨日の記事の中で『素数たちの孤独』や "The White Tiger" のことについて触れているのも唐突なようにも思える。そこで、非公開だった夏頃の読書メモも手直ししてアップしておくことにした。

 さてどこまで書けるだろうか?
# by desertjazz | 2009-12-28 22:22

 読書メモ(5月〜8月の日記からの抜粋)。



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# by desertjazz | 2009-12-27 23:59

Readings - Isabel Allende

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 『精霊たちの家』(イサベル・アジェンデ、河出書房新社)読了。長大な3代記は『百年の孤独』を連想させ、家主エステーバン・トゥルエバの苦悩と孤独感は『族長の秋』に通じ(あるいはパンゲマナンにも共通する権限を持った男の苦悩)、精霊たちが一家に寄り添い祖母クラーラに超自然的な魔力が備わっているところなどは、ガルシア=マルケスやボルヘスなどのラテンアメリカ文学の特徴のひとつを感じさせる。だが、この小説の面白いところは、序盤〜中盤〜終盤と異なる気分で読ませてしまうところだ。最初、魔術的、幻想的現象さえ現れる日常や『ルクス・ソロス』にさえ通ずる非現実的ドタバタを楽しませていたものが、次第に著者の冷静な社会観察の深まりが表面化していく。そして終盤に至って鋭い(チリ)体制批判を展開していく記述が心に刺さってくる。特に最後の数章の筆力が凄まじい。なので、異なる何冊かを読み替えていったかのような感覚も覚えるのだが、ラストの一文が冒頭に戻って繋がるという見事な円環構造。すごい小説だ。

・一見語り手は男(エステーバン・トゥルエバ)のようでありながら、実は主人公は女性である。これは著者が女性であるからなのかと思ったのだが、彼女の実体験(家族)をそのまま反映させたものらしい。

・子が生まれるとクラーラが親らとの同名を拒否する場面が何度か出てくる。これは同名が繰り返し重なる『百年の孤独』に対する軽いからかいかとも感じたのだが、きちんと意味をなしていることに後で気がつかされる。

・大変長大な小説ながら、すらすらと一気に読ませる力がある。この本も翻訳が優れているからなのだろうが、それ以上にこの作品が見事な傑作であるからなのだろう。
# by desertjazz | 2009-12-27 23:10

Readings

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12/20 (Sun)

 『歌の祭り』(J. M. G. ル・クレジオ)が進まない。関心の薄い中米が舞台のせいか(それよりも、この本が研究取りまとめ的な色彩が濃いからだとは思うが)。ラテンアメリカとの相性の悪さは文学にも通じているように思う。いったん諦めて『精霊たちの家』(イサベル・アジェンデ)を読む。
 かつて実際に旅したメキシコ、キューバ、ブラジルでも、強盗に遭ったり、病に倒れたりとトラブルの連続。帰国してから日本を代表する熱帯病の専門医の診察を受けた際、「人間では初めてみた症例です」などと言われたこともあったなぁ。

12/21 (Mon)

 Amazon に注文していたル・クレジオの4冊が届く。配達まで日数がかからないし、誰も手を触れていない奇麗な本が届けられる点も気分がいい。

12/25 (Fri)

 またまた体調不良。今週も読書が全然進まず、身体が酒を受け付けない。

12/26 (Sat)

 外の空気を吸えば幾分かは楽になるかと考え、ジュンク堂まで出かける。ちょうど出たばかりの『白い城』(オルハン・パムク、藤原書店)など3冊を購入。『白い城』を手にして最初に気がついたことは訳者が別の人物になっていること。恐らくこれは歓迎すべきことだろう。オルハン・パムクは『雪』『イスタンブール』『わたしの名は紅』と読んできたが、どれも和久井路子の訳が全然日本語になっていなくて、そのことに辟易し失望した。あとがきに、出版社が新しい訳者を探した経緯について短く書かれているが、多分これまでの和久井訳が相当不評だったのだろうと想像する。内容を拾い読みした限りでは普通に読みやすい日本語になっている。

 改めて言うまでもないが、外国語の文章の場合、それがどう翻訳されるかはとても重要なことだ。今年自分の周辺で話題となった本にアラヴィンド・アディガ Aravind Adiga の "The White Tiger" がある。その日本語訳の『グローバリズム出づる処の殺人者より』、タイトルのセンスの悪さはさておくとして、知人の編集のプロに言わせると「日本語訳がすばらしい」とのこと。この本、ブッカー賞を獲得したことも大きいだろうが、翻訳が優れていることも評判を高める一助となっているのかもしれない(ただし自分は、英語版の方がずっと安いし、平易な英語で書かれているとも思ったので原書で読んだ。なので、実際和訳がどうなのかは確認していない)。

 逆に、訳がこなれていなかったり、悪文だったりで、イライラさせられることも多い。『世界探険全史 〜道の発見者たち〜』(フェリペ・フェルナンデス・アルメスト、青土社)は上巻をかなり我慢して読み終えたものの、下巻に入った途端に止まってしまった。これも訳文が直訳すぎて文章が流れていかない一例なのではないかと思う。

 ジュンク堂ではこの夏に買った後、知人に譲ってしまった『素数たちの孤独』(パオロ・ジョルダーノ、早川書房)も買い直す。読む方が追いつかないペースで本を買い続けている。しかし、その分だけこれからの楽しみが増えている。
# by desertjazz | 2009-12-26 21:00

遠きインド。

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 "Abida Parveen / Treasures"



 この秋はフランス旅行なども模索した末にインド行きを決め、ムンバイ往復のチケットを予約した。しかし、キャンセル待ちとなってしまい、その状態が長く続いたこともあって、インド行きを断念。今年もインド出張の可能性があったし、依頼されていたインドの映画監督との共同作業も参加することができなくなった。昔インド出張を命じられた際にも印パ紛争が起こってインド入国ができなくなったこともあった。どうやら自分にとってインドは遠い国のようだ。

 そうしたわけで、10月に台湾に行くなど、今年は毎月のように遠出しているので、まあ無理してまた外遊することもないかと迷った。しかし、チャンスがあれば日本の音環境を離れたいという願望も強く、最終的にインドネシア行きに決定。実はそれには、JAL のマイレージを使ってしまおうと考えたせいもある。以前よりマイレージはなるべく欧州便やアフリカ便で使うようにしていたが、例えばパリ便は半年先までビジネスクラスが全然取れそうにない(仕事に復帰する前に疲れに旅の疲れを残したくないのと、帰りの荷物が多いのとで、帰国便は極力ビジネスクラスを押さえるようにしている。やっぱりフルフラットシートは楽だ)。私と同様に「使ってしまおう」と考えている人が多いからなのかも知れない。それでもデンパサール便のビジネスは割合取りやすかった。

 そのJAL 便の機内では観たい映画が何もなかったので、消去法で残ったインド人向けチャンネルで "Luck by Chance" を観る。そこで頭はインドに引き戻されることに。映画の出来自体は大したことがなかったのだが、助演女優?の Isha Sharvani に眼が釘づけ。わがままそうで小悪魔的な容姿に惹かれた。特に眼が魅力的だ(ちなみにこの映画、主役の2人よりも、脇役陣の方に魅力を感じる)。ちょっと調べてみると、彼女はダンサー出身のようだ。
 そしてこの映画の中でのハイライトは、'Baware' のダンスシーン(例えばここ)。コンセプト、音楽、ダンス、衣装、配色、カメラワーク、エディティング、これら全てが完璧で楽しい。特に感心したのは、ちょうど3分のところで Isha Sharvani が突然現れる瞬間。何度観ても余りに見事すぎて、正にマジカルだ。インド、恐るべし!



 写真は最近インド土産にもらった、パキスタンの Abida Parveen のCD(今年リリースされた4枚組BOX)とインドの布。
# by desertjazz | 2009-12-20 00:21