カラハリ三部作・第一編『Kahalari / Desert』重版_d0010432_15381416.jpg


 今年5月に出版したカラハリ三部作・第一編『Kahalari / Desert』。極少部数制作して半分を協力者・家族・友人らに謹呈し、残り半分を El Sur Records で販売していただいたら、おかげさまで即完売。その後も欲しいという方が続いたので重版いたしました。

 最初ギリギリの数だけ作ったのは、本を作るのは初めてのことだったので試作品にとどまるか、あるいは手直ししたいところや間違いがあるかもと考えてのことでした。ですが幸い今のところ間違いなどは見当たらず、今回の第2刷での変更点は、文字サイズ、表のレイアウト、QRコードのデザインなど、ほとんどが絶対誰も気がつかないようなところばかりです。ただし、38ページの1ヶ所だけ文言を変えています。

 (第1刷)小型のハープのような四弦(五弦)楽器(グワシ gwasi など)
               ↓
 (第2刷)小型のハープのような五弦楽器(グワシ gwasi など)

 ブッシュマンの楽器グワシには四弦のものもあり、第1刷のような書き方でも間違いではないのですが、五弦の方が一般的なようです。そこで第二編『Kalahari / Dengu』では「五弦楽器」としたため、それと揃えることにしました。



 第一編『Kahalari / Desert』も第二編『Kalahari / Dengu』も早速様々なご感想をいただいております。私信も含まれますので、以下、『Kalahari / Dengu』についてのものを中心に匿名で短く引用させていただきます。

・「すばらしい録音(今回も音質の良さに驚きです)、綿密な調査と解説、シンプルで洗練された装丁、どう見てもプロの作品です。」
・「いやー、素晴らしい !! ブッシュマンの様々な楽器や親指ピアノの歴史などを詳細に説明したブックレット(計80ページ)も、資料的価値が高い」
・「ポピュラー音楽とは違う次元の音空間 詳しい解説冊子ともども、たのしんでいます」
・「本のデザインも装丁も美しく、それだけでも楽しくなります。」
・「こういう音楽、音、好きだなあとよく分かりました。」(『Kahalari / Desert』について)
・「数ある親指ピアノの演奏録音のなかでも屈指だと思いました。」

 私の意図したところがしっかり伝わっているようで、とても嬉しいです。それらの中で意外だったのは、音についてのものが多いことです。今回の三部作、文章と写真と音とのハイブリッドをイメージしたとは言え、あくまで本が主体。音はあくまでおまけのつもりでいました。そのため当初は音は用意しない、YouTube へのリンクだけにする、あるいは CD-R にするなどの案もありました。ですが肝心の音が聞けないのでは意味がないと思い、また CD-R などにするのも中途半端と考え、採算抜きに特典 CD をつけることにした次第です。

(それでも自分の中では、「これは本である」という意識が強いので、アフリカに関する研究者や書籍の編集者を優先して贈り続けているところです。)

 しかし、本も CD も少ない数だけ自主制作するとなると、どうしてもコストがかかってしまいます。高くなってしまいすみません。現状では謹呈分以外が全部売れてもギリギリ黒字になるかどうかという概算。まあ自分が楽しんでいるのでそれでいいのですが、3冊目以降も作り続けるためにはあまり赤字を大きくしたくないというのが正直なところ。ですので、お買い上げくださった方々には感謝申し上げます。



 このカラハリ三部作、数年前からアイディアはあったものの、全然やる気が起こらず、友人たちから「早くやりなさい」「今すぐ始めなさい」と苦言を受け続けていました。それでようやく本腰を入れ始めたのが今年の春。その後集中して作業を進め二編目までどうにか完成しました。そう振り返ると、これは私の周りに仲間たちがいたからこそ作り上げることができたのだと痛感します。これまで関わってくださった皆さんにも改めて感謝申し上げます。


♪♪


 第一編『Kahalari / Desert』、第二編『Kalahari / Dengu』とも、アオラ・コーポレーションさんで通販の取り扱いを始めていただきました。エル・スール・レコーズさんでも間もなく販売が再開する予定です。どうぞよろしくお願いいたします!(メールかメッセージを下さった方には、私からも直接提供させていただいています。)







# by desertjazz | 2025-10-16 16:00 | Sound - Bushman/San

「最後の1枚」\"Orchestre du Baobab\" (BAO1)_d0010432_13140605.jpg


 探していた「最後の1枚」をやっと入手。セネガルの Orchestre Baobab のファースト・アルバム "Orchestre du Baobab" (Production Baobab BAO1, 1972) の状態の良い盤がどうしても手に入らなかったのだけれど、先日フランスの店に出たのを目にして速攻で注文。届いたレコード、ジャケは書き込みもなくまずまずきれいで期待以上だったが、盤自体は傷だらけで針圧を上げても針飛びが夥しい。まあ何とか修復&マスタリングしよう。

(Orchestre Baobab のファーストとセカンドのトラックの多くは1975年にリイシューされているのだけれど、音圧が全然違うので聴くなら断然1972年の最初の盤の方がいい! ファーストも音自体はある方から状態の良いコピーをいただいているので、今回はジャケットを入手できたことの方が嬉しい。)

 1999年にダカールで500枚くらい発掘して買い漁った時、Baobab のファーストとセカンドをお持ちの紳士と出会って交渉。セカンド (BAO2) はすんなり譲ってくださったのだが、ファーストはどうしても手放さなかった。特別な思い入れのあるレコードだったのだろうか。諦めて写真だけ撮ってきたそのレコードを26年かけてようやく手にすることができた。


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 ファースト・アルバムのジャケットに写っているメンバーは左から、Bardes (?)、Ben Geloum (g)、Medoune Diallo (vo)、Laye M'Boup (vo)、Balla Sidibe (Vo, per)、Charlie Ndiaye (b)、Mountaga Koite (per) ではないかと思う。なぜか中心メンバーの Barthélemy Attisso (g) と Issa Cissoko (sax) が見当たらない(セカンド BAO2 のジャケットには2人とも写っている)。Bardes とは誰なのかまだ特定できていないのだけれど、パリでメンバーたちに会った時「彼はバルデスだ」と教えてくれた。ちなみに、Bardes、Charlie、Mountaga の3人はアルバムにはクレジットされていない(結成当時からメンバーは流動的だったのかもしれない)。

 なお Baobab は Star Club のハウスバンド時代の録音(1969年頃か?)が Orchestre Saf Mounadem 名義で LP片面分ある(IK 3026 の B面の3曲)。これら3枚を聴くと、結成初期から Barthélemy Attisso のギター(レスポール)と Issa Cissoko のテナーサックスを核とするサウンドが確立していたことが分かる。


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 これで Star Band、Baobab、Number One、Youssou N'Dour / Etoile de Dakar などの全作を含めて1970年代セネガルの主要LPはコンプリート。セネガル音楽の整理作業も再開したい。









# by desertjazz | 2025-10-15 15:00 | Sound - Africa

Felabration Tokyo 2025

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Felabration Tokyo 2025
2025/10/26 (Sun) 代官山UNIT



# by desertjazz | 2025-10-09 00:00 | Sound - Africa

<フィールド・レコーディング小史>(3)_d0010432_14530607.jpg



<フィールド・レコーディング小史>(3)

 3回目は「私的フィールド・レコーディング史」を少々ご紹介。

 私が旅行に行く際、特に長めの海外旅行では、小型の録音機やマイクを持っていくことが多いです。音楽フェスで出演ミュージシャンにインタビューしたり、PAコンソールから Line Out を分けてもらったりするからです。またアジアやアフリカでは、森などの自然の音やちょっとした音楽の録音をよく行います。

 私がフィールド・レコーディングを始めたのは、そろそろオープンリールの時代が終わる頃で、個人的にはポータブルなオープンリール録音機を使ったことはありません。ほぼ初めから DAT でした。最初に購入したのは 1991年に発売された DENON DTR-80P で、これをしばらく使っていました。当時 SONY などからも良い製品が出ていましたが、これを選んだ理由は小型軽量なだけでなく、乾電池パック AP-20 を追加購入することで電池交換が容易だったからです。


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・カセットテープや MD(Mini Disc) の録音機も一時期あれこれ試してみましたが、音声品質が高くないこともあり、フィールド・レコーディングには向きませんでした。


 2006年からはハンディレコーダー Roland EDIROL R-09 を使い始めました。僅か145gしかないのに、24bit/48kHz サンプリング録音が可能。電源は単3電池2本だけ。ステレオのコンデンサーマイクもついていて、ちょっとしたフィールド・レコーディングやアンビエントノイズの録音なら十分に楽しめました。とにかく小さくて軽く操作も簡単なので、旅先ではいつも胸ポケットに入れていたほどです。価格はオープンプライスで、実売4〜6万円くらい?だったと思います。
 録音を終えた後は USBケーブルで Mac につなぎ、バックアップも簡単に取れます。一時期、海外のアーティストのインタビューも全てこれで録音し、Mac にコピーして書き起こしをしていました。

 2015年には Zoom H6 を導入。流石に R-09 が長年使い動作が怪しくなり始めたのと、もっと高性能のものが安く買えるようになったからです。2chでも十分かと思ったのですが、4chサラウンドなどマルチトラック録音を試してみたくて、最大6ch録音が可能な H6 を選びました。またマウントされているマイクも、最低これくらいの性能が欲しいところです。
 ハンディレコーダーの良さは、歩いている途中でも気になる音を耳にしたら即座に録音できることです。最近バリ島で過ごした時にはコンデンサーマイクも持って行き、ステレオ録音や4chサラウンド録音を行なったのですが、最適なレコーディングポイントを探すこと、そこにマイクとスタンドをセッティングすることは、とても手間がかかり正直面倒です。音の状態が良くても、セッティングする間に最高の時間は過ぎてしまいがちです。H6 は R-09 のようにポケットには収まらず、バッグに忍ばせておくにも大きすぎるのも弱点と言えます。


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・H6 はマイクヘッドが交換可能(Stereo、MS、超単一指向など)。風防などのアクセサリーも充実しています。最近は audio-technica の無指向性マイク AT4022 のペアと組み合わせていますが、セッティングが面倒なので H6 にマウントしたマイクで録音してしまうことが多いです。


(余談になりますが、バリ島のような湿度の高い熱帯での録音では、DATのトラブルが多かったですし、今はコンデンサーマイクのトラブルが頻発することが悩ましい。)

 近年の録音機器の進化は素晴らしいです。例えば、RECボタンを押す前に遡って録音できるスキップバック録音機能(数秒間常にメモリーに書き込み続けている)、入力の大きさに応じて録音レベルが変動して絶対に歪まない機能(32bit float / 不動小数点方式)などを備えた機器も増えています。そうした新機能を知ると、同じ Zoom の F8n や H6n の購入を考えたくなるのも必然。その一方で、最近はアジアやアフリカに行く機会もほぼないので、そこまで必要だろうかと迷いもします。

 多い時だと一度の旅行で、写真撮影、ビデオ撮影、録音、インタビューを行うことがあります。これら全てをこなすとなると、カメラ2台(一眼レフ、コンデジ)、標準レンズ、望遠レンズ、録音機、マイク、三脚、MacBook と、これだけ揃えるのが理想。かなりの重装備になります(バックアップは毎日 iCloud にアップするので、バックアップメディアは必要なくなりましたが)。流石にこれだけ揃えるとバックパックないしはキャリーケースがいっぱいになり重量オーバー(精密機器はスーツケースに入れたくありません)。そこで旅のテーマに沿って持っていくものを選ぶことになります。アジアやアフリカではフィールド・レコーディング用の録音機材と一眼レフを中心に、ステージ撮影を行うヨーロッパでは動画撮影の可能な一眼レフと望遠レンズとインタビュー用の録音機といった具合に。

 ここ10年くらいは純粋に音だけをフィールド・レコーディングするよりも、映像を伴った形で(映像を主に)記録した方が望ましいと思うことが増えました。例えば SNS などで紹介する時などは、動画の方が好ましい素材が多いです。そのため、一眼レフやコンデジでビデオ撮影することが徐々に多くなりました。
 また、ハンディーレコーダー Zoom H6 でさえ、大きい、重いと感じるようになり、迷った末に海外まで持っていくことは減りました。たとえ持って行ったとしても、一眼レフや水筒に加えて H6 までバッグパックに入れると結構重くなり、ウォーキングにはかなりの負担になるのです(私は旅先で多い日には1日2万歩以上歩き回ります)。そう考えると、Zoom の H2essential くらいの方が気軽に音を録れるだろうと思い始めているところです。

 もっとしっかり動画撮影をしようと考え、昨年ミラーレス一眼の Canon EOS R6 Mark II とレンズを購入しました。これと組み合わせるマイクを検討中なのですが、なかなか適当なものが見つかりません。もしコンパクトで高性能なものを手に入れられれば、H6 の出番はほとんどなくなるかもしれません。

 軽量で高機能の録音機がほどほどの価格で入手できる状況を喜びつつ、H6 でさえ重いと感じてしまうのは贅沢な悩みなのでしょう。1950年代に大量の機材を積んで遥々フィールド・レコーディングに臨み、録音機の不安定さにも苦労しながら貴重な録音の数々を残してきた先人たちのことを振り返ると、なおさらそう思います。


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・撮影機材の一例。録音も撮影もするとなると、さらにマイクケーブルやレンズケース、幾つもの充電器などが加わり、全体では相当な量の荷物になります。もはや観光旅行ではない?









# by desertjazz | 2025-10-03 00:00 | Sound - Africa

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<フィールド・レコーディング小史>(2)

 2回目の今日は、アフリカのフィールド・レコーディングの歴史とそこで使用された録音機について軽く概観します。

 アフリカにおけるフィールド・レコーディングの嚆矢と言えば、イギリス生まれの音楽研究家ヒュー・トレイシーです。彼はローデシア(今のジンバブウェ)のタバコ農場で働く間に、彼の地の人々の音楽と出会い、その魅力に惹かれたことで、民族音楽の研究に進みました。トレイシーは南アフリカを拠点に長年フィールド・レコーディングを繰り返したのですが(録音数は数万曲とも言われます)、1920〜30年代にはテープ録音機はまだ実用化されておらず、最初の頃はアセテート盤などに直接録音していました。そのような大掛かりな機材は、砂漠どころか屋外に持ち出して使用することなど非現実的だったはず。ヒュー・トレイシーによる初期の録音は、恐らく演奏者や歌い手をスタジオなどに招いて録音したのだろうと思います。

 磁気録音の研究は19世紀末に始まり、磁気テープも1920年代に発明されましたが、テープ録音の研究が本格化するのは1930年代のことです。そして第二次世界大戦終結後の1940年代後半になって実用開発が進み、放送局などに導入されました。磁気テープ式録音機が相次いで売り出されましたものの、それらはどれも大型なものばかりでした。ヒュー・トレイシーも1949年からテープ録音を始め、デンマークの Lyrec 社のものなどを主要な録音機として使用していたようです。

 こうした録音機は単に大きいだけでなく、動かすには交流電源(イギリス製だと240V)が必要でした。そのため屋外で使用するには発電機も用意することになります。発電機は大きな音を発生させ、それは録音に際して望ましくない雑音源となります。そのためヒュー・トレイシーは、マイクを向ける録音場所と発電機との間を最低100ヤード(100メートル弱)離したそうです。つまり電源ケーブルも100メートル以上持って行ったということです。写真用のカメラは機械式であり、映像を映すシネカメラはゼンマイ動力だったので、どちらも撮影するための電源を必要としません。この点が録音と撮影の大きな違いです(もちろん夜間の撮影には照明が必要で、そのための電気は発電機から弾くことになります)。

 1950年代にカラハリ砂漠で生きるブッシュマンを探し求めたローレンス・ヴァン・デル・ポストはどうだったか。彼が制作したブッシュマンの記録映画を観ると、彼の隊が持っていった録音機が写っています。おそらくこれはイギリスで1954年に製造が開始されたフェログラフ社の Ferrograph Series 2 だと思います。この録音機の定格を調べると重量は27kgとあり、こんな重いものを持って砂漠を移動した当時の苦労が偲ばれます(ヴァン・デル・ポストはイギリスのBBCから委託されて撮影を行なったので、当時BBCに納品されていたフェログラフ社の録音機と同じものを使ったのでしょう)。

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Ferrograph Series 2


 1950年代は可搬可能なポータブルなテープレコーダーの開発が進んだ時代でもあります。その象徴と言えるのが、1951年に発表されたスイス・ナグラ社の Nagra I です。続いて改良型の Nagra II が登場しました。これによって小型化が実現したものの、まだまだ動作は不安定だったようです。このような録音機を砂漠に持っていくことは現実的ではありません(Nagra II は乾電池・・・日本の規格だと単1・・・で駆動でき、定格は30時間と書かれています。ですが当時の乾電池の性能はそれほど良いとは思えないので、乾電池も結構消費したのでは?)。

 そして1957年に、いよいよ Nagra III が登場します。これは画期的な録音機で、その後の映画やテレビの世界に革命をもたらした名機として高く評価されています。ヒュー・トレイシーもやがてこの Nagra III を使うようになりました。

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Nagra III


 ところで、ヒュー・トレイシーやローレンス・ヴァン・デル・ポスト、マーシャル一家といった、1950年代にアフリカでフィールド・レコーディングを行なった調査隊の自動車を写真で確認することができます(一番上の写真はヒュー・トレイシーのもの)。それらを見ると、いずれもかなり大きな車で、荷台のついたトラックに近いものです。マーシャルの場合は初期には車4台連ねたと記録に残っており、自動車に載せていくもの(テント、簡易ベッド・寝具、食料、調理道具、燃料、水、撮影機材、録音機材、発電機、等々)の多さを考えると、他の隊も同程度だったかと思います。これほど大きく重量のある車では砂深い砂漠を走ることなどとても無理です。ある程度整備された道やパンなどの干上がった平地しか走ることができません。カラハリの奥地には行きたくても行けなかっただろうと思います。

 Nagra III の後も、オープンリールテープレコーダーの小型化が進み、乾電池の使用が普通になりました。長期の探索旅行ともなると、持参する乾電池も結構な量になります。ですが、発電機を必要としない電池駆動のポータブルな録音機であれば、肩にかけてマイクを手に持ち、車から離れて自由に歩き回れます。カラハリ砂漠でもブッシュマンのいるところまで歩いて行き、彼らに近づいて録音することがようやく可能になりました。

(この頃には日本のメーカー各社もポータブル機の開発を進め、製品を発表しています。面白いのはゼンマイ動力のものが開発されたことです。録音回路には電源が必要でそれは内臓電池により供給したのですが、テープを回転させる駆動部には電気を使わず、その分だけ電池の容量を減らすことができました。)

 さらに、1980年代には DAT (Digital Audio Tape Recorder)が登場します。DAT は音声信号をデジタル化することで高音質録音と長時間録音を可能にしました。また DAT も小型化が進み、フィールド・レコーディングを容易にし、電池消費量の低減をもたらしました。ただし、テープ自体を無理に小さく、つまり細くて薄いものにしたため、熱や湿度に弱いなどの弱点もありました。

(DAT と前後して、コンパクトカセットや MD/Mini Disk も登場しましたが、オープンリールや DAT に比べると音質が劣るなどの理由から、フィールド・レコーディングには適せずほとんど使われませんでした。ここでは、録音機の歴史を中心に書いていますが、マイクやミキシングアンプも小型で高性能のものが次々と開発され、そのこともフィールド・レコーディングに寄与しました。)

 続いてテープレスの録音機が登場します。内蔵ハードディスク HDD や SDカードなどの固体メディアに記録することで、さらなる高音質化と長時間録音が可能になりました。こうしたデジタル機器のメリットとして2チャンネルを越えるマルチトラック録音が可能なことも挙げられます(機種によって4チャンネル程度から10チャンネル以上)。この技術を活用したコンパクトなハンディレコーダーも登場します。固体メディアに記録するため、機械的な駆動部がなく内部雑音が発生せず、録音機にマイクをマウントできるようになったのです。また電池の消費量もさらに抑えられるようになりました。もちろん外部マイクを使用した方が音質は良いですが、手軽に録音できるというハンディレコーダーのメリットも見逃せないです。

 ブッシュマンの録音は1990年代以降に増えています。これは DAT や SDレコーダーなどが登場したことで、移動も録音も遥かに楽になったからでしょう。また、古いフィールド・レコーディングを聴く時、録音時間が数分程度と短いことが不満なことの一つなのですが、こうした録音機が登場するよりずっと昔には、長時間録音は物理的に不可能だったので、これは仕方ありません。その点でも録音機の進化は画期的なことなのです。

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マウスボウの演奏を録音するヒュー・トレイシー
(撮影年不明だが、かなり後年だろう。マイクはノイマンかな? 彼はスタンドは使わず、いつも手持ちだった。)



(続く)





# by desertjazz | 2025-10-02 00:00 | Sound - Africa
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